ねだって勝ち取れ!
コロンによって転送されたクロノは少しずつ意識を取り戻し、ゆっくりと瞼を開らいて最初に見えたのは、見慣れた銀の髪と今は黒く塗りつぶされた刻印が刻まれている右目を持つセラであった。
「セ、セラ!」
「まぁ! 私の名前を知っているの? そうです! あなたが大好きなセラですよ!」
セラは名前を呼ばれたことに嬉しそうにしていることから、どうやら凶になる前の記憶を一部失っているように思える中、クロノはその隙に体を動かそうとしたが体に力が入らない。
頭部と下半身の一部には、感覚が感じられるので、現状は局所麻痺状態ということであろう。またここまで冷静に分析出来たのも、予測と覚悟があったからだ。
クロノはさらに状態と状況を確認する為に視線を下へと向けると、服は脱がされており、下着がつけられているだけであったことにクロノは、状況の危うさを感じ取る中で、これほど冷静にいられたのは、はっきりいって奇跡である。
正直、クエスト内容からして何かしらのそういったことは、あるだろうと予測はされていたが、接触さえ上手くしてしまえば、凶の状態からクロノの能力で救出出来るので、むしろ望むところだったが、手足が動けないばかりか貞操まで危うくなるとは予想していなかった。
それにこれは非常にマズい。
もし、セラを無事に救出出来たとしても体に急な変化があればセラも悲しむに違いないし、クロノもその際は責任を取らなければならなくなるので、このような形で愛は育むことだけは絶対に防がなければならない。
クロノは誓うようにして自分の役割を言い聞かせていると、セラが甘い笑顔で囁くように尋ねる。
「ところで、セラの膝枕はいかがですか? ブラックスター様」
「あ、うん。とっても…嬉しいよ」
「まぁ! ブラックスター様ったら。でぇもぉ、これからもっと楽しいことがあるので待っていてくださいね」
クロノをセラの機嫌を損ねないように言葉を選んで発言すると、セラはクロノの後頭部に手を添えて、頭をどかそうとしたことに、クロノは眉をひそめた。
このまま次の行為へと発展しまうと、大人の階段に足をかけてしまう可能性が充分に考えられるが、それはまだいけない。それ以上はもっとお互いを知った時初めて上がるものだとクロノは思っているからこそ、セラとはまだ出来ない。また、その思いが届いたのか、クロノの脳に電撃が走り、とっさの判断でクロノは行動に出る。
「セラ。もう少し話を続けてくれないかな。その、まだセラとこうしてお話をしていたいんだ」
クロノは、開いた瞼を閉じてセラの手に出来る限り荷重をかけてねだることに徹した。これが今のクロノが出来る最善の策であり、裏を返せばこれが通用しなければ、階段を上がってしまうので、届いてくれとクロノは祈り続けると、
「まぁ、ブラックスター様ったら。いいですよ。時間もいっぱいありますし、語り合いましょうね」
「ふふ、ありがとうセラ。さて、何から話そうかな」
感覚は無いが心臓は強く鼓動しているに違いないほどの状況に、無意識でクロノもいつもと違う口調で話し出す。
セラもその提案に応えてくれるのかクロノの後頭部から手を外すとそのまま、クロノの髪を愛おしく撫で始めたので、その隙にクロノは身体の感覚を取りもどすために時間稼ぎを開始する。
「それで、ブラックスター様は何を話してくれるのですか?」
「え、そうだなぁ。何から話そうかな」
早速、問題発生。話そうと提案したのはいいものの何を話したらいいのか全く思いつかない。それに今も僕の言葉を待っているセラが違和感から、予測も出来ない行動に出てしまえば、最悪満足に動けないクロノを殺すのだって簡単なことだろう。
その時だった。天から降りてくるように一つの最良とは決して思えないが、確実に話題を膨らませられる天言を掴み取ったのだが、正直この言葉はあまり言いたくない。だけど、今はこれしかない。
「ブラックスター様? 早くお話をしてくださいセラが待っていますよ?」
「待たせてごめんね。それじゃまずは、セラは僕のどこが好きなのか教えてくれないかな?」
うぬぼれるなと自分に対して罵声を浴びせたいと思える程の天言であったが、この天言こそセラに最も響く言葉だろうし、早速予想通りセラの表情は恍惚に満ちている。
「えへへ。ブラックスター様がセラにそれを聞いてくれるとは思っていませんでしたが、本人の前でいうのは、ちょっと恥ずかしいけど、教えてあげますね」
「うん。おねがい」
どうやら天言突破完了のようだが、まだ戦いは続いている。ねだって勝ち取るんだ!
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