友達の基準はその人ごとにそれぞれである
クロノは一人暮らしの予定だったが、フィリアがとりあえず居候宣言をしているので、必要な物を優先的に選んでいく。
食材はもちろん日が持つものを優先的に選び、他の物もなるべく今日必要な物を優先的に買い進める。
アクアミラビリスは、多くの種類の物が集まっているので、欲しいものを希望通り買い進めることが出来た。
そしてその買い物中に、フィリアは教会の近くを通ると今日も少しだけ寄って行くと言い、途中からはクロノ一人で買い物をしていた。
そして、今日の分の買い物を終えると、フィリアが教会の近くの噴水の縁に座って待っていた。
「ごめん。待たせちゃったかな?」
「ううん。それ程待っていないよ! それにしてもいっぱい買ったね!」
「必要だなと思うと、どんどん増えちゃって」
「私も持つのを手伝うよ」
僕は、フィリアに紙袋を手渡す。
「それで、今日はもう帰るけど何か用事はない?」
「ないよ。早く帰ろう!」
フィリアは、手を繋ごうとするが、クロノの両手は荷物に取られてしまっている。
それに気づいたフィリアはさっと自分の手を引っ込めて歩き出すのであった。
家に着いてからはすぐに夕食を食べ終え、クロノはとりあえず使う部屋の掃除を終えた。
前に住んでいた人が、荷物なども置いていったため一通りの物が揃っていたのは本当に助かった。
そして今使っている部屋は、僕とフィリアの部屋だけだ。
一人だけしかいない部屋は久しぶりに感じられた。
ここ最近の数日でフィリアと一緒にいたことにどうやら慣れてしまっていたようだ。
そう思っていると、扉がノックされてフィリアが顔を覗かせる。
どうやら、違和感を持っているのはフィリアも同じのようだ。
「クロノちゃん。いい?」
「僕もちょうど、呼ぼうと思っていたところだよ」
僕は、お茶とお菓子を用意してフィリアを部屋に招く。
今日の買い物で買ったお茶の香りは、とても気持ちを楽にしてくれる。
そしてフィリアも気に入っているようで上品に、お茶を飲んでいる。
普段の行いと、酒を飲むときの姿を見ていると、最初は意外だったがもう慣れた。
「そういえば、クロノちゃんは村では何をしていたの?」
「そうだなぁ。村だと基本親の手伝いとかかな。あとは、探検したりしていたかな」
「探検って、魔石集めとか?」
「それも、あるけど近くの弱いモンスターとかを討伐したりもしたよ」
村は基本自給自足である。
動けるうちに、準備をしておいておかないと何かあった時に、苦しむのは自分達なので、やれることは色々と教えてもらっていた。
先ほど作った夕飯もその過程で覚えたものだ。
アクアミラビリスはその点、お金さえあれば自分でしなくても他の人がしてくれるのだが、やはり今までの生活習慣があるのか、今日のほうがしっくりくるところがある。
でも、今食べている砂糖菓子や、お茶の楽しみを知ってしまうと、村にはもう戻れないかもしれない。
「村の楽しみってそれだけなの?友達とかはいなかったの?」
「同じ年の子供がいなくてさ。上にも何人かいたけど、みんな仕事があったから相手にしてもらう機会は少なかったし、下の子ってなると二、三歳ぐらい離れていたから、お兄ちゃんって感じだったかな」
「じゃあ友達いないんだ」
「残念ながらそうなるね。フィリアは友達どれくらいいるの?」
「一人よ。それでも本当に大切な友達だから、一人でも私は気にしていないわ」
「意外だね。フィリアはもっと多いと思っていたよ」
フィリアは、シスターだし見た目もいいのできっと友達が多いと思っていたが返ってきた返事に僕は驚いた。
「私には、あの子さえいてくれれば、それで平気だったから」
フィリアは愛おしくその友達の事を言う。
きっと、本当に大切な友達なんだと、見ただけで思ってしまう。
「あっ、ちなみに女の子だから、ヤキモチとか妬かなくていいわよ」
「そんな、男でも別に妬かないよ!」
「そう言って~、こんな美少女なかなかいないわよ」
「自分で言うか」
急におかしくなり二人で笑い合う。
「でも、もう僕にとってフィリアは友達だと思っているけどね」
「え? そうなの」
「だって、クエストにも一緒に行ったし、こうやって仲良く話していればこれはもう友達じゃないのかな?」
「うーん確かにそうかも。でも、クロノちゃんはあの子ほどではないしなぁ」
「その子ってどれぐらい大切なの?」
「死んだら一緒に死んであげられるぐらい大切よ」
「うん。確かにそれぐらいだと僕はまだまだだね」
フィリアの友達基準はかなり厳しいのようだ。
「でも、クロノちゃんは友達補欠ぐらいには値していると思うわよ」
「友達補欠って……。でもまぁいいか」
やはり、フィリアは掴めないところがあるが今日はいつも以上に自分の事を話してくれている。
それならば、今日はいつもより聞けそうなので、少し僕から質問してみよう。
「ねぇフィリア。フィリアはなんでアクアミラビリスに来たの?」
「アクアミラビリスに来たのは……友達を探すためよ」
フィリアは、ゆっくりと静かに言った。
「友達ってさっき言っていた、大切な友達の事だよね」
「そうよ。大切だし心配でもあるから。いままでずっと手掛かりが無かったけど、ここの司教が、その手掛かりを知っているって教えてもらったのよ!」
ずっと教会に行っていたのは、どうやらその司教に会うためだったようだ。
「でもフィリアはシスターだよね。そうしたら、他のシスターに手伝ってもらうこととかは出来なかったの?」
「他のシスターはババアの言うことを聞かなきゃいけないし、仮に出来る子がいたとしても、私の期待通りの働きが出来るシスターなんてほとんどいないわよ」
ババアって……絶対に他のシスターなら使わないような言葉だよね。
本当にフィリアは、シスターらしくないシスターだよなー。
「今、シスターらしくないとか思った?」
「いや、まったく」
にっこりと笑うフィリアにクロノは即答で答える。
勘も鋭いし、下手なことは思うことすら止めておこう。
「でもさ、ほとんどってことは少なくても、頼りになる人はいるのかな?」
「いるわよ。でもあいつらに頼るのもそれはそれで嫌ね」
フィリアって分からないことだらけである。
同僚ともそれほど仲が良いように聞こえてこないし、それに、あの夜見たことにも疑問が残る。
「でも私一人でも充分出来るし、他の人の助けなんていらないわよ」
「またそう言って、もう少しでも寄り添えればフィリアはもっと素敵になれると思うよ」
「クロノちゃんもそう言うのね……」
「それも友達と同じことを言われたの?」
「ううん。それは違う人よ。でも私は、今の自分を変える気はないから」
「そっか、それならそれでもいいと思うよ」
「あれ~、さっきは、少しでも人に寄り添ってやれ、って言ってなかったっけ?」
「言ったけど、フィリアがそれでいいならいいととも思うから」
「クロノちゃんのくせに生意気ね。でもまぁそれが可愛いところかもね」
そう言って、フィリアはクロノを抱き寄せる。
クロノは驚いたのと同時に、ふわっとするいい匂いや体に当たる感触に離れたいような素振りはするが、それとは違う気持ちも同時にあり葛藤した。
そしてそれを、分かっているかのようにフィリアもそのまま抱き続ける。
「ちょっとやめてくださいよ」
「えー。こんな美少女が、抱いてあげているのだから素直に抱かれておきなさいよ。それにもっと寄り添えって言ったのはクロノちゃんじゃない」
「それはそうですけど、そう意味ではなくて」
「あー、うるさい。いいから黙って抱かれておけって!」
フィリアは気分が良さそうにしているが、このままだとどうかなってしまいそうそうなので話題を切り出す。
「……フィリアは、これからどうするの?」
「実はね。明日その司教がアクアミラビリスに戻ってくるらしいの。だからその司教に会って情報を聞こうと思っているわ」
「友達と会えるといいね」
「そうね。それじゃあ、ちょうど話も終わったし、今日はこれでお開きね」
「うん。そうだね。それなりに話したし、今日はこれで終わりにしようか」
そう言ってクロノから離れフィリアが、部屋から出ていこうとすると、
「クロノちゃん。私がいなくても一人で寝れる?」
「大丈夫ですよ!」
最後まで、クロノの事をからかうフィリアであった。
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