森の屋敷 門前にて
クエストを無事終えた二人は受付からもらった用紙を頼りに、セラと冥獄凶醒がいると考えられる場所へと向かっていた。
「なんとか、欲しいものは手に入ったけど、いろいろと減った気がするよ」
クロノは紙袋を外して、苦笑いを浮かべながらギルドでの出来事を思い出していた。
「ごめんさない。クロノ様。ですが、あれも練習でしておいた演技の一つでしたので、違和感を出さずに出来たのは良かったと思いませんか?」
「まぁ、そうなんだけどね。でもまさか本当にやることになるとは思っていなかったよ」
「ふふん。そこは私の予想が的中したってことね」
自信を持って先ほどの出来事を誇るフィリアを、クロノは恨めしそうに見つめる。
「確かにそのおかげで、こうしてセラのいる場所が分かるかもしれないから、結果としては満足かな」
セラがいなくなってからようやく手に入れた手掛かりだ。ここで必ずセラのいる場所を突き止めなければならない。
「そうよ。ここまでしたからには絶対に連れ戻さなきゃ」
「そうですね。ここから本番ですから」
その後も三人はもらった用紙を頼りに歩き続け、ようやく到着した場所はセドナ王国の端にある森であった。
「はぁー。いかにも悪い奴がいそうなところね」
「学園にも連絡を飛ばしてありますが、ここから門を超えないと進めそうにないですね」
見たところ道はさらに奥へと続いているのだが、その前には頑丈な鉄格子のような門が三人の行く手を塞いでいた。
「呼び鈴とかもないし、どうやってここから進めばいいものか……」
周辺を見渡しても呼べそうなものはないし、人の気配も感じられない。ただ、周りの木々がざあざあと音を立てているぐらいであり、この状況にどうしたものかと悩んでいると、
「仕方がないわね。ここは大声で呼ぶしかないかしら」
そのフィリアの提案にクロノとイフルは目を丸めてしまう。
「何よ。二人ともそんな顔して」
「いや、まさかフィリアがそんな提案をするとは思っていなかったから」
「そうですね。いっその事、門を破壊すると思っていましたわ」
「クロノちゃんはともかく、イフル、私がそんなことすると思っているの?」
「正直、五割程ですると思っていましたわ」
イフルは右手をパーにしてフィリアに正直に話すと、フィリアが首を振って否定する。
「そうじゃなくて、私が大声で呼ぶと思っていたのって聞いているのよ」
「え、違うの?」
「クロノちゃんまでそう思っていたなんてひどいわ!」
フィリアは口を尖らせてプリプリと怒りだす。
「そうしたら、誰が声を出すのですか?」
「決まっているじゃない。イフル。あなたよ」
「あ! やっぱりそうでしたか⁉ 正直は最初から気づいていましたが、そうでしたかぁ……、あははは」
フィリアが最初に言ったときから、薄々気づいていたイフルの声がどんどん小さくなっていく。どうやら、残りの五割が的中したようだ。
「さて、イフルそれでは一発かましてちょうだい!」
フィリアの声音からして楽しんでいることは明らかだが、余計な事を言えば面倒なことになるのでクロノも心の中で謝りながらイフルに全てを任せることにした。
「うう、私は門というものに縁がないですが、ここは頑張るしかないですね」
イフルは門の前に近づくと目いっぱい肺に空気を溜め、声と共に放出しようとしたその時だった。
「おきゃくさま? どのようなご用件?」
急に門の奥に現れた赤目の少女に大声を発する前に、「ひゅご」と、漏らしながらも出すのを押し留まりイフルの声砲は不発となるのであった。
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