ブラックスター
フィリアは自室へと戻ると、近くにあった椅子に座って、外していた指輪を再度付け直し、先ほどの模擬戦について振り返る。
イフルとの模擬戦でフィリアも指輪を着けた状態で出来る限りの力を発揮したのだが、納得できる力を発揮できたのが始めのみで残りは徐々に力が入りに難いのを感じるばかりであった。
その結果論ではあるが今までの自分の戦い方が、これ程消費する戦い方をしているとは、うっすらと気づいてはいたが、簡単に認めることが出来ずにいた為、いろいろと間違いをしてしまったが、今日の模擬戦でようやく自分で認めることが出来た気がしている。
この経験はいつか役に立つだろうし、イフルにだって指輪を着けた状態でも勝たなければならない。
頑張れ、私。まだまだ強くなれる。そうすれば、もう悲しむこともない。失うこともない。常に私らしくいられるはずだ。
フィリアは椅子から立ち上ると、シスター服を脱いでいき、下着姿になって鏡に映した今の姿を見る。
そこには擦れていない、リフィアから授かった刻印が今も刻まれており、フィリアはその刻印を愛おしく撫でて、小さく息を吐くと今度はベッドに両手を広げて背中を預けた。
右手を伸ばしてベッドに置いてあったぬいぐるみを手に取り抱き寄せる。このぬいぐるみは、クロノと初めてのデートで手にした大切なぬいぐるみで、初めてのプレゼントなのだ。
「しかし、今日はもう疲れたなぁー。そうだ! 今日の疲れを取る為に今度イフルに体をほぐさせようかな。よし、やらせよーと。きっと、イフルのことだからなんだかんだ言いながらもしてくれるでしょうし。あ、そういえばセラとクロノちゃんを二人きりにしちゃったけど平気よね」
気になりはするが、あのセラだし問題ないだろう。いや違う。あのセラは一度、やらかしている。だが今回はさすがに信用しておこう。それにもし何かあったら今度こそ社会的に死んでもらえばいい。
フィリアはそう思うと、急に瞼が重たくなりそのままぬいぐるみを抱いて目を閉じるのであった。
☆
「セラさん。ここってこれであっているかな」
「そうですね。理屈ではそれで正しいです。っ、急に寒気が」
セラは急に悪寒を感じ、ぴくっと体を震わした。
「大丈夫セラさん?」
「ええ、平気です。それに遅かったぐらいですから」
セラはにこやかに返事をすると、クロノはそれ以上聞くことはなかったがその目は少しだけ心配そうに見つめていた。
心配をかけて申し訳ないが、この悪寒の原因は間違いなくフィリアによるものだろう。
この状況に今頃になって気づいたとなると、フィリアにしては遅いと思ったが、それほどあの模擬戦には意義があったということになる。また、フィリアがまたこれから強くなるということでもあるので、セラも負けてはいられない。
でも、セラはフィリアやイフルのような戦い方は出来ない為、どうしても劣ってしまう。
元々戦闘向きではないことは承知しているが、セラとしても、もっと出来ることを増やしたいのだ。
セラは武器を扱うのは苦手だけど、まだあの武器は使える。
その武器は、ちょうどクロノ様も得意とする短剣であり、教わるためにこの機会はまたとない好機。ならばこの好機生かすしかない。
「クロノ様。勉強中ですが、少し質問してもいいですか?」
「うん。いいよ。なんでも聞いて」
「それでは甘えさせていただきます。セラが聞きたいのはクロノ様がブラックスターと呼ばれたことについてです」
クロノは久しぶりに聞いたその二つ名に、懐かしさとくすぐったさを同時に感じていた。
「セラさんも、そのブラックスターって知っていたの?」
「はい。セラが読んでいた雑誌に書いてありまして、その日から興味を持ったのですが、まさかそのブラックスターがクロノ様で、しかも使徒の能力を手にするなんて思って思いませんでした!」
「なるほど、雑誌に書かれていたのか。道理で僕が知らない訳だ。しかし、僕の事をその雑誌でセラさんが知っていたなんて驚きだよ」
「今となってはそうですね。でも短剣使いの黒いルーキーが地竜を倒したというのは、衝撃的でしたよ」
「あの時は、必死だったなぁ。フィリアとも出会ったばかりだったし、お互いに何が出来るかも知らないのに、上手く出来たから本当に良かった」
クロノはあの時の出来事を思い出しながら呟く。
「それで、セラはそんなブラックスターに聞きたいことがあるのです」
セラがクロノのことをブラックスターと呼んでいることや、いつの間にか右目の刻印が輝いて見えることからして、セラは本当に興味があるのだろう。
ここに来てから教えてもらうばかりであったが、今回は役に立てそうだ。
「いいよ。何でも聞いて!」
クロノも気分が良いのかその声はいつもよりも嬉しそうであった。
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