刻印修復
「二人共お疲れ様。途中からセラは二人が本気で殺し合いを始めたのかと思ったわ」
「まさか。そんなわけないでしょ。それに、もしそうなら私は指輪を外していたわよ」
フィリアは模擬戦を終えるとすぐに指輪を外した為、戦闘後の疲労はほとんど感じられないように見えたが、イフルは消耗が激しいのか、今も地面に背中を預けて苦しそうに息をしている。
「く、クロノ様。申し訳ございません。ちょっと無理をしてしまったようです」
とぎれとぎれに謝り続けるイフルに対してクロノは、
「気にしないで。今はとにかく休もうね」
「はい……」
模擬戦ではあったがイフルは全力を尽くしてフィリアと戦い抜き、勝利したがその代償は大きいものであった。
「おそらくイフルは刻印をかなり消費しているでしょうし、今日はともかく全快するには相当時間がかかりそうですね」
「申し訳ございません……。せっかくお役に立つために来たのにこれでは意味がないです」
イフルは苦しそうに声を絞り出しており、それを見たクロノは優しく話かける。
「模擬戦でこうなってしまうとは予想外だけど、なってしまったのは仕方ないから、今はイフルさんには休んでもらうしかないかな」
フィリアは見たところ平気そうなのでよかったが、イフルさんは一刻も早く休ませなければならない。
「それじゃ、僕がイフルさんを運ぶから、二人はその後の介抱をお願いできるかな」
「えー。そんなの他のシスターに任せればいいよ。それにイフルだって私達に介抱なんてしてほしくないでしょ」
「そうしたらセラがシスターを向かわせておきますから、フィリアには水でも持って来てくれる?」
「仕方がないわねー。イフル。今度借りを返しなさいよ」
そう言ってフィリアとセラは演習場を出て行ってしまい、二人が出て行くのを見届けてからイフルを見ると、先ほどまで苦しそうにしていた表情が少しだけ嬉しそうに見えた。
「ふふ、フィリア。ちゃんと約束覚えていてくれたのね」
「そうだね。確かにフィリアは約束を守ってくれたね」
イフルは安心したのか、小さく可愛らしいあくびをすると、急にうつうつし始め、
「クロノ様。申し訳ございませんが少し眠たいので寝てもよろしいですか?」
「うん、いいよ。ゆっくりお休み」
「ありがとうございます。では、失礼します」
イフルはそう言うと目を閉じて寝てしまい、先ほどよりも呼吸が落ち着きながら静かに寝ている。
この事にクロノは安堵し、後は二人が戻ってくるのを待っていると、
「ちょうどいい時じゃな。クロノよ。試しにおぬしの使徒の能力を使ってみるのじゃ」
「リ、リフィ――――むごっ」
急に現れたリフィアにクロノは驚いて大きな声を出してしまいそうになると、その小さな両手で口を塞がれ、無邪気な笑顔と白い歯を見せながら、しーと声を出すのであった。
口を塞がれたことにより、イフルを起こさないで済んだのだが、それならば普通に来てくれたいいのにと一瞬だけ脳に浮かんだが、すぐに「普通に来てもつまらんじゃろ」とか言われる気がしたので、そのまま口を閉ざした。
「普通に来てもつまらんからの。さて、クロノをいじって満足したし、本題へまいろうかの」
予想通りの言葉を言ったリフィルをじっと、見つめながらその本題とやらを聞く。
「リフィル。その本題ってなに?」
「よくぞ聞いてくれた。これはこの間の話の続きじゃが、フィーちゃんの力についての話は覚えておるか?」
「覚えているけど、それが今とどういう関係があるの?」
「それは見せながら話した方が早いのじゃ。さて、ほとんどのシスターは、この辺にあるのじゃが……よいしょ」
そう言ってリフィアは、イフルのスカートをおろして下腹部に刻まれた刻印を確認する。
「おー。かなり力を使っておるの。ほれ、クロノも見てみるのじゃ」
「え、でもそこってあんまり見ちゃいけないような」
「何を言っているのじゃ。これも使徒の務めじゃ。つべこべ言っておらんで、早く見るのじゃ」
リフィアに言われると、これは見ないと終わらないと思い、その刻印を覗き込む。
ごめんなさい、イフルさん。
「やっぱりこうなっちゃっているのか」
イフルの刻印もあの時のフィリアと同様に一部が擦れており、その範囲はあの時のフィリアよりも広い。
あとは女の子の大事な所は何とか見えてなくてよかったが、それでも刺激が強い。強すぎる。
「クロノよ。やっぱりとはどういう意味じゃ?」
「いやいや、気にしなくていいよ。それよりも、僕はこの後どうすればいいのかな?」
「うーむ。気になるのじゃ。まぁ今は時間もないから今度にしておくとして、まずは刻印に手をかざすのじゃ」
「こ、こうかな?」
「そうじゃ、そうしたら手に力を込めて、押し出すようにするのじゃ」
「ん? こんな感じかな」
手に力を込めて押し出すなどという行為はしたことも無いので、始めは戸惑ったが言われたとおりやってみると、確かにイフルの刻印が修復されていき、少しすると、完全にその刻印は元のあるべき姿へと戻っていた。
「すごい。刻印が治った」
「そうじゃ、これがクロノの持つ使徒の能力の一部じゃ。フィーちゃんの時は、わらわが寝ている時に戻しておいたからの。これでクロノも仕方が分かったじゃろうし安心じゃ。おっと、二人の気配がするのじゃ。では、さらばじゃ」
「ちょ、リフィア! イフルさんのスカートを戻してよ」
「それぐらいクロノがしておけばいいじゃろ。じゃあな」
そう言い残してリフィアは本当に帰ってしまい、外からは二人の声が微かにする。
まずい。この状況はとにかくまずい。
イフルは幸いにもまだ眠っており、その表情も先ほどよりも穏やかで、良かったと思えるが状況は最悪だ。
イフルがスカートを下ろされ、更に下着が大事な所が見えるギリギリまで下げられており、行った行為は多分善行だが、経緯を知らない人がこの状況を見れば、これは単純に犯罪案件だ。
「くっそー! なんでいつもこうなるんだよー!」
この状況に声を押し殺しているが、本来ならこの状況に声を大にして言いたい。でも言えない。イフルが起きるから。
とにかく今はそんなことを言っている余裕はない。今は早く直さなければ今後に関わってしまうので、クロノは突然起きた危機に神経を集中させ全力で取り掛かる。
頼む。間に合ってくれ――――。
「クロノちゃんお待たせー。ってイフルったら寝ちゃっているわ」
「クロノ様。部屋の準備が出来ました」
「二人共ありがとう」
素早くイフルのスカートをなんとか戻し終えて、平然とした姿で出迎えたクロノであったが、この時心臓は飛び出しそうなぐらい鼓動していた。
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