月は綺麗なものを照らし出す。
先ほどまでぐっすり寝ていた急に僕は喉が渇いて目が覚めてしまった。
フィリアほどではないが、僕もそれなりにお酒を飲んでしまったのと、塩分が高い食事にまだそれ程慣れていないので、喉が渇いてしまったのだろう。
そしてクロノは部屋の隅に置かれている水が入った容器から、水を汲んで飲み干し喉を潤す。
ふと部屋を見渡すと、今は月が雲に隠されてしまっていて部屋が薄暗くて視界が悪い。
さすがに寝ている間にいたずらとかフィリアはしていないだろうかと思ったのだが、考え過ぎだと思い忘れることにした。
でも、もう少し月明りがあれば、鏡で確認できるのにと思っていると、ちょうど月明りが雲の合間から差し込む。
月明りがある今の内に顔を確認すると何もされていなかった。
疑いすぎたかと思って、寝ているフィリアの方を見ると、僕は驚いて声が出そうになるのを何とか手で抑え込む。
(ふぉああああああああ‼ なんで⁉ 何でこの人裸で寝てんの⁉)
フィリアの体を隠すものは一切なくすべてをさらけ出していた。
クロノは一瞬だが、見てしまったことに対して申し訳ないと思ったが、ここまで来ると別の意味でフィリアのことが心配になってきてしまう。
それとも、僕を信頼しているからなのか。
いや、さすがにそれはないだろう。
驚いていて気づかなかったが足に何かが触れる感触がして、目線を下に向けると足元にはフィリアが履いていたであろうパンツが僕の脚に踏みつけられており、悲鳴に近い声を出しそうになるが両手で口を塞ぎすぐにその場を離れる。
床を見るとフィリアの服が散乱しており、どこかにまとめておこうと思ったが、下手に触れて誤解される可能性もあると思い、そのままにしておくことにした。
しかし、このまま放っておいて体が冷えてしまって病気になられても後味が悪いので、湧き上がる感情を抑えながら、僕は近くにあった丸まった布を伸ばして、なるべくフィリアの体を見ないようにかける。
だが、見ない様にとは言ってもやはり目に入ってしまうのだが、仕方がない。そうだ。仕方がないよね! その時に目に留まったのはフィリアの体に小さく刻まれた刻印のようなものであった。
その刻印は少し擦れており、それが何を表すかはこの時のクロノには分からなかったが、これを聞いてしまうと、この自爆してしまうので首を振って忘れる事にした。
そして、無事フィリアに布をかけ終えてからフィリアを見ると、ぐっすりと寝ているようなのでクロノも安心してまた元の場所で寝るのであった。
☆
朝起きるとフィリアが、昨日と同じようにお祈りをしていた。
日の光に照らされるその姿を見ると、いつも通り神秘的に見える。
「あら、クロノちゃん起きたのね」
「おはよう、フィリア」
「うん。おはよう」
いつもと同じ挨拶をする。
見た感じ、フィリアはいつも通りである。
夜の出来事は、気づかれていないようだし僕も気づかれない様にしないと、気づかれた時に何をされるかは考えるのも恐ろしい。
その後は順調に支度を整え、
「それじゃあ、クロノちゃんの家探しにしゅっぱーつ!」
フィリアはクロノの手を取り一緒に歩き出し、途中どこにも立ち寄ることなく二人は貸家をしている店に向かい、予算にあった家を選ぶ。
フィリアがちょいちょい高めの家賃な家を提示してくるのを、断りながら今は予算内で使えそうな家を順に案内してもらうことになった。
アクアミラビリスの家賃相場は部屋の大きさも、もちろんのことだが、一番関係するのは、栄えているところからの距離である。
近ければ近いほど、その金額は高くなるか部屋が狭くなる。
クロノの予算であると、もし借りるとしたら部屋の大きさを削るしかない。
一件目は、現在いる宿からそれほど離れていない部屋であった。
「あんまり、今いる宿と大きさが変わらないなぁ」
「そうねぇ。もう少し広い方が私もいいと思うわ」
フィリアも同じ意見のようだし、僕は次の場所を案内してもらう。
次の場所は、ギルドからは遠いがそれなりの広さと、許容範囲の家賃であったので、ここにしようかと思ったが、フィリアがもっと広い方がいいと言うので次の場所に案内してもらうことになった。
というか、今日って僕だけが住む部屋を探しているはずだが、いつの間にかフィリアが主導権を握っているのである。
それに今も貸家の店主はクロノではなくフィリアと話している。
そうして次に案内されたのは、周りにほとんど何もないが、いままでの部屋や家よりも桁違いに大きい屋敷であった。
しかも、家賃は今までの家とほぼ変わらないという。
絶対に訳あり物件だと思ったのだが説明によると、この辺りは人がほとんど住んでいないので、夜が真っ暗に近いらしい。さらにアクアミラビリスのどの門からも遠く、そして外壁の近くに建てられているので安く提供しているらしい。
そしてアクアミラビリスに滞在する人達はそういったことで敬遠しているそうだ。
あとはここまでの大きさの家を欲しがる人が全くいなかった為、借りる人がいなかったらしい。
クロノもこれほど大きい家は必要としていないが、人通りや暗さなどは田舎の村で体験済みなのでそれ程気にしなかった。それに、頻繁にアクアミラビリスを出入りする予定も今のところないので希望に合っているといえば合っている。
そしてこの家の周辺を散歩していたフィリアは戻って来て
「クロノちゃん。ここが一番いいからここにしなさい」
「でも、ここって絶対に他にも訳がありそうだけどここにした方がいいの?」
「平気よ。さっきいろいろと確認して来たけど問題なかったわ。シスターが言うのだから信じなさいよ」
フィリアはここぞとばかりにシスター推をししてくる。
僕と会ったときからシスターの事を特に言っていなかったのに。
だが結局この家にすることに決めると、決まれば即契約となりここは僕の家となった。
フィリアもこの家になったことに喜んでいるようだしこれでいいと思ってしまう。
あれ? そういえば、ここって僕だけが住む家だよね。
フィリアはここには住まないはずだよね?
店主は契約を終えると先に店に戻ってしまい、家には現在僕とフィリアだけである。
「ねぇフィリア」
「なぁに。クロノちゃん?」
「フィリアはここに住むの?」
「えっ? 何を言っているの? 当たり前でしょ!」
「やっぱり、そのつもりでここにしたのか!?」
「もちろんよ。この家は、少し利便性がないけど静かだし、それにこれだけ揃っているのよ。居候としては、これ以上ないわ!」
人の家で堂々と目を輝かせながら居候宣言する。
しかし、この状態のフィリアを追い出すのは地竜を討伐する方が楽だと即答できるレベルかもしれない。
それにフィリアは特に悪い人でもないし、別にいてもいいか。
そうすると、次は必要な物を買わないといけないな。
「フィリア、僕はこれから買い物に行くけど、フィリアはどうする?」
「もちろんクロノちゃんについて行くよ!」
フィリアはクロノの手を取って、一緒に出かけるのであった。
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