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『ヴラン!』
眠りの底の暗闇から、遠い呼び声がよみがえってくる。
『ヴラン! ヴラーン!』
『おとおさあん! おかあさあん!』
幼くて頼りない叫びが、深い宇宙を、砕け散る星々の間をすりぬけて、何とか相手にたどりつこうとする。
だが、その声は届かない。
決して届かないことを俺は知っている。
(ああ、またあの夢だ)
俺の胸を切り裂きながら、何度も繰り返す悪夢がにじみだしてくる。
「アラームが全部鳴っている!」
「助けてっ、だれかっ」
「ばかな、こんなばかな!」
「救急信号は送ったのか!」
「ポッドで逃げろっ」
悲鳴と怒号が真っ暗になった宇宙船の中に満ちあふれている。
事前の説明では、この船には十分な緊急設備と訓練された乗務員が乗っている、はずだった。そしてまた、いざという時にも適切な避難誘導と救助により、乗客の安全は確実かつ迅速に保証されるはず、だった。
ところが、いざというときになって見つかったのは、注意事項を羅列したプレートと安っぽい宇宙服が十数着。もちろん乗客数の宇宙服ははない。脱出ポッドも圧倒的に数が足りず、こともあろうに、客を放って我先に宇宙船から逃げ出そうとした乗務員が使ってしまって、残りがわずかになっている。
パニックを起こすなという方が無理だった。
あちこちで小刻みに、次第に程度と頻度を増して、爆発音が響いていた。船はそのたびに、不気味にきしみ揺れて、宇宙旅行に慣れていないものにも、この船がそれほど長くもたないということがわかりつつあった。
「ヴラン! 行けっ!」
俺がポッドに押し込まれた次の瞬間だった。
これまで以上に激しく船が震えたかと思うと、致命的な爆発が起こった。
父親が目の前で吹き飛ぶ。ちりぢりに、見たくもないほどちりぢりになって。焼けこげて変色し固まりかけた体の破片が、濡れた異様な音をたてて、ポッドに叩きつけられ、外壁にへばりつく。
母親が裂かれたような悲鳴を上げた。
無理もない。ただ一人の『密約』の相手だ。失ってしまったが最後、母親の体はエネルギーを補充しきれなくなって、数時間以内に死がやってくる。意識を持ったまま、どろどろに溶けていく恐ろしい死が。
「行きなさい、ヴラン」
母親がポッドを閉めた。泣き叫んでハッチにすがりつき、こじ開けようとする俺に首を振り、ガラスを隔てて笑って見せる。
「ここからなら『地球』に行ける。何とかして生きるのよ、がんばって、ヴラン。母さんはもうだめ」
何かが破裂するような音と衝撃が襲って、俺はポッドの床に跳ね飛ばされた。見る見る経験したことのない重圧が体中をポッド内壁に押しつける。ポッドが射出されたのだ。
落ちる、落ちる、落ちていく。
青く輝く水の星に。
あの星に同化するんだと泣きながら思った。
最悪の夢。
ずっと昔のことなのに、すべては終わってしまったこと、ただの夢だとわかっているのに抜け出せない。
父親は何度も吹き飛ばされ、母親は何度もさよならを言う。
ただの観光旅行だったのに。
助けてくれ。
苦しくてつらい。
俺は何もできなかった。
一人で寒い。
どこにも行くところがない。
誰か、誰か。
俺を温めてくれ。
なんて夢だ。
なんて現実だ。
なんて…。




