闇のかくれんぼ
闇の生成師を起動させると、ロード画面に城とその頭上に気味悪く存在する黒い月があった。
この世界では何種類もの月の姿を見る。
それは、異世界への入口だと城主の説明があった。
ただし、天界と冥界への入口は一番近い世界から移動しなければならず、月として出現しないと。
そしてもちろん、リュウセン城のある魔界も月として出てこない。
「明日、黒い月が出る。黒い月の世界との出入口ができるのだ。黒い月の人間達は、罪人の刻印制度に反対している。黒い月が出る晩は、黒い月の世界の人間たちがハンターとして、魔界に押し寄せてくる。リュウセン城は防御能力が備わっていたり、防衛を担当するガーディアンなる役職の人物がいたり、生成師はたくさんのガードモンスターを連れている」
城主が突然、長い説明を始める。
「だが、それ以外にも生成師は変身魔法が使える。24時間ルールというものが存在するのだ。24時間経過するまでは侵入者は不法滞在者の扱いにならず、逃げるしかない。変身魔法を使って敵から逃れる。通称、闇のかくれんぼだ。ガードモンスターを操作するのには、宝玉が必要だ。宝玉をタブレットのジュエリーボックスに入れることで、時間のかかる操作を指輪だけで瞬時に行える。また、メイクボックスに純白のマスクが入っている。このマスクにメイクを施しておく事で、瞬時に顔を変えることができる。カラーコンタクトやヘアスプレーは初期から備わっている。マリオネットボックスのマリオネットで骨格を変えることができ、マリオネットに服やかつらを着せておくことで、瞬時に骨格や服装、髪型を自ら以外の者に変えることができる。ただし、マリオネットやマスクは装備している間、魔力を消費する。まずはマリオネットとコロン、メイク道具の購入だ」
ギフト券があったので、それで町にマリオネットとコロンとメイク道具の購入に行く。
リュウセン城で悪魔でないふりをするのに手っ取り早いのは、使用人のエルフに化ける事。
隙をついて逃げる。
俺はエルフのマリオネットを購入し、女に見えるように口紅や淡い色のファンデーションを購入する。 カラーコンタクトも薄い茶色の物を買った。ヘアスプレーもブラウンを購入する。
そして、コロンを購入し、ウィッグも購入し、エルフに見えるように、マリオネットやマスクをデコレーションしていく。
メイド服は城のエントランスで簡単に入手で着た。
これで、顔以外は完成。
このために、メイクボックスやジュエリーボックスって存在したんだな。
「では、マスクを作るのだ」
姿見の前で適当にメイクし、マスクを身につけた姿を見る。
何か足りない。
「そのメイクでは、ハンターの目は誤魔化せないようだな」
必死でメイクしてみると、へんてこな顔になった。
男子中学生の俺がメイクなんかできるはずない。
「この本のようにメイクしてみるのだ」
城主は、妖精物語という雑誌を開く。
中には独特のメイクをした女の子たちが載っていた。
中のヴァンパイアメイクというのに目がとまる。
レシピに、マジックアイシャドウの海の香りというカラー、クリスタルチークのブルーローズというカラー、フローラキッスの不可能な夢というカラー、クラシカルファンデーションにはダウンオブでデッドというカラーの四種を使用と書いてあった。
もう一度、町で買いなおし。
マスクを一枚選んで、メイクボックスから四種類を取り出すと、メイキングの魔法を使用しますか?と質問が出た。
はいと押すと、永久の夢というマスクが自動的に作成される。
魔力はかなり減っていた。
いちいち、マスクにメイクを施さなくっても、決まったレシピを揃えれば、マスクが完成する仕組みになっているらしい。
「これが……」
「この国の現在の流行メイクだ」
ヴァンパイアメイク、正式名称、永久の夢。
城で見かけるメイドたちはこんなメイクの者が多い。
「蒼い血が流れていそうな、いい感じのメイクになった。ではもう一度」
俺はマスクを被る。
「では、マリオネットとウィッグの装着だ。エプロンドレスも」
城主の言うとおりに装着すると、目の前には血色の悪いエルフのメイドが立っていた。
「そして、コロンを使う。すると、HPなどのステータス情報が誤魔化せる」
百合の花に似たきつい香りのコロンを使うと、俺のHPは3分の1ほどの表示に減った。
実際のHPが減った気はしないんだが。
コロンの匂いはふりかけた後、数秒経つと消えた。
「よくできたな。S、A、B、C、D、Eの六種類の判定の中でAランク評価だ。ただし、ビギナークラスで。先ほどのメイクはEランク。失格だ」
「何だか疲れてきた」
「その通りだ。化けるのにかなりの魔力を消費する。では、ばれないか、城内を歩いてみるのだ」
城内を歩くと、きらびやかなメイクをした三人組のメイドが歩いていた。
パッチリとした目。真っ赤な唇。薔薇色の頬。
ヴァンパイアメイクではない。
「アヤメさんたち……?」
「何で分かったの!?」
「それ、失格にならなかった?」
「なったけど、これがいいのよ!! カワイイじゃない」
それだけしか頭にないんだ……。
ハロウィンの仮装みたいなノリなんだろうな。
「ドレスもカワイイのが着たいわ」
「城下町で探してみるか」
がに股で歩いているのは、男……確かユズハって奴。
三人は楽しそうに城下町に出かけていった。
「くっ……」
内股で物陰に隠れながら歩いているエルフのメイドを見かける。
こちらは俺と同じ、お手本どおりのヴァンパイアメイク。
「コウヨウ?」
「み、見るな!! この僕が女装なんて……」
「生きてくためだから!!」
「くうううっ!!」
女装を嫌がり震える姿は、十分不合格だった。
どし、どしっ、どしっ……。
背後からすごい物音がして、ゴーレムが歩いてくる。
周りに生成師がいないのに魔物が勝手に歩いてるって事は、これは仮装?
「ま、まさかカエデか?」
「この仮装は疲れるな」
どんなマリオネットを買ったんだよ!!
ゴーレムなら、メイクしなくて済むかもしれないけど。
「倒れたら、死んでいるふりもできるぞ」
「そうか……」
初期の各ボックス・ケースの収納を考える。
一つ目のケースは非公開設定にしかできず、3段になっている。
メイクボックスは透明なアクリルケースが最初に用意されており、3段目はマスク専用スペース。
十枚まで連ねて入れられる。
上の2段は自由にメイクアップする道具を入れられる。
が、ヘアスプレーがかさばる。
これを入れてしまうと、ボックスの3分の1ぐらい埋まってしまう。
後は、チークと呼ばれる頬の色を塗るものと、ファンデーションを入れると1段目は既にいっぱいだ。
2段目に口紅とアイライン、アイシャドウを入れる。
ここはまだ少しだけ余裕がある。
ヴァンパイアメイクがいつまでも流行ではないらしい。
特にチークと口紅、アイシャドウははっきりと色がついているため、別の物を購入しないと違う顔は作れない。
だが、チャートリアルは終わったみたいで、これ以上化粧品を買えという指示は出ない。
次にマリオネットケース。
こちらは靴箱みたいなものが3段になっており、1段に四つマリオネットを並べることができる。
体を隠し、マリオネットを大きくして、魂をそちらに移すわけだが……。
体が隠れるんなら、魂ごと隠れる方法はないのだろうか?
最後に、ジュエリーボックスを見る。
ごろんとむき出しになった石が五つ、ボックスに転がっている。
ガードモンスターっと言っても、簡易なゴーレムだが、それらのコントローラだ。
大きさに関係なく、一つの箱に収納できるのは十まで。
それ以上収納すると魔力の消耗が激しくなるため、二つ目のボックスを用意したほうが効率がいい。
ただし、ガードモンスターを呼び出すとき、二つ目のボックスの方を呼び出すのには時間がかかると城 主の説明台詞が出た。
そして、ボックスの違う魔物を同時に呼び出す事はできない。
アンティークなオルゴールみたいなジュエリーボックスは、石を使ってジュエリーを製作し、収納していったら、いい感じになりそうだ。
指輪をさしこむスペースみたいなのや、ネックレスを入れる引き出し、耳飾を収納するためらしき穴などがある。ここはカスタムできるらしい。
赤いベルベットの生地は、ワインのようで、内側の色の違うジュエリーボックスが城下町で高額で売られていた。
これも、誰かが目をつけて、豪華なものに仕上げそうだ。
クローゼットは、マリオネットが着ていない物を収納する。
こちらは魔法のクローゼットで、いくらでも収納できるらしい。
そして、付け毛も収納できる。
「黒い月は、十日に一度出る。それに備えて、装備をたくわえるのだ」
魔物を作るのに使えると思ったコインは、メイクボックスにも振り分けなければならない。
面倒なルールがあるんだな。