悪魔の雨宮さん4
俺はほこりっぽいモスグリーンの絨毯の上で目を覚ます。
くしゅん、っと、寝起き早々くしゃみが出た。
あれ……?
俺、どうしてたんだ?
横向きに寝転がっていた。
丸まったような体勢のまま、ひっくり返って床に転がっている。
……昨日、歯磨きしてない!!
それどころじゃなかった!! 鈴木はどうなったんだ!?
考え込んでいると、部屋をノックする音がした。
見ると時計は朝の七時前になっている。窓の外は明るく、鳥の澄んだ声がする。
十時間以上ひっくり返っていたのか、俺!!
「はい」
俺はノックに返事をした。
「鶯谷警察の者ですが、少々お話を伺いたいのですが」
ドアアイから外を見ると、警官服を着た男が数人、寮の二階におり、生徒の姿もいくつもあった。
俺は迷わずドアを開ける。
「昨日、何が? 鈴木は無事ですか!?」
「それをこちらが聞きたいんですよ」
警官は困った顔で笑みを浮かべている。
鈴木は昨日、寮には戻っておらず、寮母が捜索願を出したらしい。
しかも、二階では派手な悲鳴と足音。
誰かが通報したんだろう。
最後に目撃されたのは学校で、美術部の鍵を返しに職員室を訪れたのを職員が目撃しているらしい。
まさか、雨宮の言うとおり、教職員とか、顔見知りの犯行なのだろうか……。
鈴木は大人しい優等生で、俺が話しかけたとき困ったように笑って返事をした。
評判の悪い生徒ではなく、女子に人気だったがこんな事になるなんて。
「昨日、開けてくれとか声が聞こえて、バタバタと足音がしました。鈴木だと思うんですが」
「それは他の部屋の子も証言している。それ以外に何か聞かなかったかい?」
「それが、ドアを開けようと思ったんですけど、その後、意識が……」
そこで、他の生徒の聞き込みを終えた別の警官がやってくる。
「君、その服は?」
「え?」
「焦げ目が入ってるよね。悪いけど、着替えてそれは提出してもらえるかい?」
「なるほど、金属のドアか……」
最初に声をかけてきた警官がしげしげとドアを眺める。
まさか、電流の類で外から何かされたのか……。
「分かりました」
「じゃあ、ドアを閉めるから、悪いけど着替えてね」
俺は服を警官に渡して、その後彼らの勧めで病院で検査したが、髪が少し傷んでいる程度で、怪我はしていないと何もしてもらえず帰らされた。
昼前に学校に登校すると、雨宮と視線が合い睨まれた。
昼休みになると、話しかけられる。
「白井、屋上」
冷たい声と表情。
「う、うん……」
俺は視線を泳がせながら雨宮について、屋上に向かった。
「おまえ、私の制止を無視してドアを開けようとしたんだってな。ノックに返事する声が聞こえたと、近くの部屋の奴が言っていたそうだが?」
あ、雨宮の目が怖い……。
「は、はい」
上級生に謝るように俺は震えながら呟いた。
「で、鈴木は行方不明。もしドアが開いていたらおまえも行方不明になっていただろうなー?」
妙に朗らかな雨宮の口調。
「……」
「反省してるのか?」
「多分……」
心の中では、反省なんて無理だって思う。
外で殺されかけてるかもしれない人がいるのに、無視するなんて無理だ!!
「白井、うつ伏せになれ」
「!?」
「早く」
あ、雨宮さん。睨んでる目がめちゃくちゃ怖いんですけど……。
渋々、うつ伏せに寝転がる俺。
次の瞬間、パシリと乾いた音が響いた。
同時に尻に痛みを感じる。
ま、まさか俺、女の子に尻叩きされてるのか!?
そ、そんな恥ずかしい事があっていいはずが!!
あ、兄上にも尻叩きされた事ないのに!!
「や、やめっ!?」
それから三十回ほど俺は尻叩きの刑にあった。
怖い。痛い。
もう、雨宮に逆らうのはやめよう……。
雨宮は悪魔だ……。