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悪魔の雨宮さん3

 俺は囚人みたいに、金属の扉でひとりひとり個室に隔離する形になっている紫陽花あじさいの男子寮の部屋に入る。

 この寮はワンフロアに15の部屋ある。

 俺にいるフロアは2階で、10階建てだ。

 ネズミ色の壁は長く塗りなおさなくて済むよう、誤魔化しでこの色にしてあるようで、あちこちにひびや亀裂が入っている。

 くもの巣もあちこちにはっているが、回ってくるはずになっている掃除当番の知らせが来ない。

 もしかするとこの寮は、代々の寮長が掃除をする気がなく、ほったらかしにしてるのかもしれない。

 俺は別に予習とかするタイプじゃないし、復習と課題を済ませたらそれで終わり。

 後はゆっくり、アプリ。

 闇の生成師以外のゲームをダウンロードできないか試してみたが無駄だった。

 ため息をつく。

 時刻は午後七時になっていた。

 今日は水曜日で、一階の食堂が定休日。

 寮生は各自、夕食を外で調達してきて、部屋で夕飯を済ますことになっている。

 俺は夕食用に買ったカツサンドをむさぼりながら、闇の生成師を起動させた。

 カフェオレか、ミルクティーかを選べず、ドリンクを二つ買ってしまうのが我ながら情けない。

 プールの画面からのスタートになる。

 本日プールをシェアすることになったのはカエデ。

「来てたんだ」

「人間界の勉強に熱心なんだな。だが、こちらの情報も勉強しておいたほうが良いかもしれないぞ」

「勉強とは?」

「行けるポイント全てに移動する。魔物を満遍なく作って、魔物のレシピや生成過程を始まりの日に備えて覚えておく。始まりの日がいつなのか知らないが、近いうちに必ずやってくる」

 始まりの日って名前のイベントがいつかあるんだ……。

「カエデは今日はどこに行くんだ?」

 俺はカエデの情報に、ゴーレムばかりを作るのを止めて、今日はマーメイドとワーウルフの生成に挑戦してみた。マーメイドは人とサカナをベースに海を連想させるアイテム、ワーウルフは人と狼をベースに森を連想させるアイテムが材料となる。

「私はリュウセン城城下町に行く。まだ行ったことがない。魔物素材入手ポイントの一つらしい」

 俺はカエデと城の庭に向かう。

 そこにはアヤメ達の姿があった。

「あら、お二方。奇遇ね」

 カエデは返事をしない。

「アヤメさん達も城下町に?」

「先輩方に勧められたから。カエデとナツキって知り合い?」

「学校が同じだけだ」

 カエデがあっさりと返事をした。

「そう。でも知り合いなのね。良かったら今度、オフ会をしない?」

「できたら参加したいけど……」

 俺はカエデの反応を気にしながら返事をする。

「検討してみる。コウヨウにも聞いておく」

 雨宮、参加を検討するんだ?

 しかも、石田先輩を呼ぶかどうかまで考えて。

 やはり、何としても情報が欲しいのだろう。

「分かったわ。アリスモールって知ってる?」

 女の子とかカップルが好きそうな店がたくさん入ったショッピングモールだ。

 デート用のアトラクションが上階にあり、真ん中のあたりの階には女の子が好きそうな服やら装飾品、可愛らしい日用品、化粧品などの店が集まり、一階や地下は女子会などで使える洒落た飲食店などが入っているんだとか。

 クラスメイトがデートで行ったとかで、長々と自慢話をしていたのを聞いた。

 俺には無縁の場所だと思ってたけど、行く日が来るのか……。

「……」

 カエデ (雨宮)は、そういう場所、嫌いなんだろうなー。

「まあ、送迎バスが出てる駅がどこかぐらいは知ってる」

「じゃあ、あさっての土曜日11時に送迎バス乗り場でいい?」

「うん。ん……!?」

『やめてくれー! 赦してくれ! 助けてくれー!』

 外から、男の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。

 声変わりしきっていないその声は、女のように甲高く廊下に響き渡った。

 続いて複数のバタバタと廊下を走り回る足音。

『開けてくれ! 開けてくれ! 開けてくれー!』

 次々と二階のあちこちの部屋を激しくノックする音。

 やがて、ノックは俺の部屋のドアまでやってきた。

 その勢いはノックと言うより、無理やりドアを叩き潰して、中に逃げ込もうという意志が感じられるほど。

『開けてくれー!』

 この声は、クラスメイトの鈴木じゃないのか!?

「どうかしたの?」

「ドアをノックする音がする。開けてくれって」

「なにそれ?」

「こんな時間にか。変な奴じゃね?」

 それまでメッセージを書いていなかったセツナとユズハがメッセージを打ち込んでくる。

「バカ!! 無視しろ!! 開けるな!!」

 俺は雨宮の制止のメッセージを無視して、ドアを開けようと立ち上がった……。

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