初授業
『光貴、また本を読んでいたのか……?』
俺が目覚めると、兄上が微笑んで俺の寝顔を眺めていた。
初夏の寺は、もうすぐ雨が降りそうで湿気を含んだ空気。
俺の肩に置かれた手も……。
兄上が村に戻ってきたんだ!!
「あにうえー」
「あにうえっ……!?」
揺すられる手に、俺ははっと目を覚ます。
ユイが力任せに俺の肩をゆすっていた。
大笑いするセツナと、肩が震えているが声を出さないカエデ。
ユイは一歩、二歩と後ずさりする。
あれ……?
「起きろ、くそガキ!!」
ユイはきゅっと唇を結ぶと、手にしたテキストで俺の頭を殴打した。
「いたい……」
「誰が兄上だ!」
「あれ? 違うの……?」
何だか悲しくなって、涙が出てきた。
「あ、ナツキ、大丈夫?」
セツナが驚いて、心配そうに尋ねる。
「もういい。授業に戻る!!」
「さっさと戻れ、ユイ」
「先生って言えっつってんだろ、カエデ!! ガキのくせに生意気な!!」
「分かった、ユイ」
「だから、先生と呼べ!! それから先輩の生成師はさん付け!! 分かったな!!」
ぷりぷりと怒った様子で、ユイは授業を再開した。
やがて、ものすごい量の天使語の文章を作成させられ、授業は終わる。
「はーっ!! アヤメやユズハと話してこよーっと」
セツナは席を立って、Aクラスに向かう。
「ナツキ、さっき言ったの、これからだから。コウヨウに声をかけておくからな」
「分かった」
こうして、初授業は終わる。
「ナツキ、もう少し丁寧に字を書け!!」
「えー!? やってるのにー!!」
「もっと、テキストの字をよく見て真似るんだ!! ほら!!」
ユイが俺の手をつかむ。
その時、顔が接近し、サングラスの奥に隠された瞳が姿を見せた。
アーモンド形の目、つぶらな瞳。
俺は素早く、サングラスを奪い取る。
「わー、かわいー!」
「おい、バカ!! やめろ!! 本当にガキって扱いに、困るな……何百年ぶりだろう……」
「あ……えっと、ご兄弟でも、いらしたんですか……?」
「昔の話だ……おまえ、兄がいたんだな……」
「俺、兄上に見捨てられちゃったみたいです」
話していて、だんだんと涙が出てきた。
「泣くな!! 俺が育ててやるから!!」
「本当ですか!?」
「本当だ!!」
「やったー!!」
無性にうれしくなって、俺はユイ先生に抱きつく。
「お、おい、こら!! 生徒に抱きつかれるなんて、先生失格だろ!!」
「そうは思いませんけど?」
「そ、そうか? と、ところでサングラスを返せ!!」
「やです」
俺はサングラスを背に隠す。
「こいつ!!」
ユイ先生は必死にサングラスを取り返そうとし、二人でじたばた暴れた。
「ナツキ、待ち合わせに遅刻だ!!」
不意に教室のドアが開き、カエデが冷たい声で告げる。
「あの、その、これはだな……!!」
何やら必死に言い訳しようとするユイ。
「さっさと来い、ナツキ!!」
俺はカエデにつかまって、引きずられるように一階に連れていかれた。
ユイは慌てて俺が置いたサングラスを手に取った。




