レクリエーション 変身
「育成候補生の間、授業は大きく分けて、魔物生成、魔物設計、変身訓練、戦闘訓練の四種類がある。今日は一番簡単な変身を軽く説明する。理由は、十日に一度、黒い月が出る。それがあさってだから授業前だが、説明を行う。その日は、ハンターがやってくる。その日のうちに黒の月の世界に帰る者が大半だが、数日リュウセン公国にとどまるハンターも中に入る」
初めての授業前のレクリエーションは、変身術の指導だった。
ユイが、サングラスをかけたまま、俺とカエデとセツナの前で、授業を開始した。
「また、しばらくは元の世界に戻るから、元の姿に戻る必要もある。これは、マリオネットとカラーコンタクトとウィッグを使った状態にしとけば、自動的に向こうの世界の姿は保存される」
俺達の前に三つのマリオネットが出された。
それぞれ、俺達の姿に似たシルエットの人形だ。
デッサン用の人形に似ているといえば、何となく形の想像はつくだろうか。
肌の色が青白くなってしまったのだが、マリオネットは俺達の元の肌の色をしていた。
そして、カラーコンタクト。
紅い目になってしまった俺はもちろん、カラーコンタクトのブラックをもらったけど、カエデとセツナもカラーコンタクトのブラックをもらっていた。
雨宮は元々青なのに、配る意味ってあるんだろうか?
「では、マリオネットなどの購入と、マスクの製作を行う」
俺達はユイに連れられて、城庭に待っていた馬車に乗り込んだ。
「城下町で、マスクに化粧を施す物を買う」
俺達はゲームと同じように、ユイにタブレットを支給された。
コインは0だが、引換券が1000枚支給されていた。
引換券10枚が、銀貨一枚(一万円程度)の値段だと説明される。
これは、城下町での変身用品のみに使えるアイテムだ。
まずはマリオネットショップに向かう。
ちっちゃいので、実物大にした時のイメージが分かりにくく、店に一体を実物大にできるスペースがあった。
「今回は、一般エルフを購入する」
引換券30枚だった。
一般エルフはマリオネットの中でも最安値の商品だが、城内にいるメイドやウェイトレスはこのシルエットに近い者が多い。
木を隠すなら森といった感じだ。
隣にはウィッグの店があった。
こちらは安く、引換券10枚とかで様々な髪型がある。
だが、セツナが興味を持ったウィッグは宝石が飾りつけられていて、引換券200枚だった。
やはり、良い物は高いんだな。
ここでも買い物を済ませた。
「次に、身につける服。城内の服は、城内で入手できるが、城のメイドとウェイトレス以外の服は、服屋で探す。町民に化けて隠れる場合もある」
表通りにある服屋は、ワゴンに無造作に服が詰まれている。
高級な感じはしないが、意外とこの手の店って安くない気がした。
アヤメだったら目がハートマークになるかもしれない服屋通りは、半月で販売しているものが入れ替わってしまうという、人間界に近い販売スタイルだった。
民族衣装っぽい物が多いのは、元の世界と違うけど。
「前の世界はどうか知らんが、リュウセン公国は夏は涼しいが、冬に雪はほとんど降らない。年中同じ格好の客も多い。だが、フォーマル服以外は流行の変化が激しい」
「へえ……」
セツナは、フォークロア調の服を広げている。
関心があるらしい。
が……。
「セツナ……それは、引換券300枚と書いてあるが……」
「え!? 本当!?」
セツナはカエデの言葉に、慌てて値札を確認し、売り場に服を戻した。
アヤメだったら、即お買い上げだったかもしれないけど、この子は堅実そうだ。
「では、次は化粧品に行こう」
化粧品店は蝶々が飛び交っているアジアンな雰囲気の店と、きらきらのビジューがエレガントなユーロピアンな雰囲気の店をユイに紹介された。
まだ他にも店はあるみたいだけど、ここが安いショップらしい。
「まず、大事なのがコロンだ。コロンを使えば、ステータスの偽装表示が行われる。コロンによって、数字が大体決まっている。一ヶ月ほどで新しいコロンが発売される。ステータスの偽装表示は大事だ。悪魔はHPやMPが高いから、城の使用人や町人と違うのが、一発でばれてしまう」
カエデがアジアンな雰囲気の方の店、白蘭を気に入ったらしく、そちらの店のコロンを見ることに。
白蘭のコロンはワインレッドやエメラルドブルーなど、カクテルのような美味しそうな色をした物が透明な瓶に入っている。
紅桜や白薔薇など、花の名前が付けられていた。
結局、カエデが白蓮のコロンを、セツナが黄桜のコロンをお買い上げ。
「ナツキは?」
ユイが俺を見る。
コロン……?
メンズとかなさそうだが……?
「レディースのコロンを俺が……?」
「変身する時は女に化けることが多いんだから、レディースだ」
このゲーム、辛い……。
結局、紅椿のコロンを買う事に。
シャンプーだ!!
シャンプーにこんな匂いの奴があったはずだ!!
思っていると、カエデが俺の買ったコロンをじーっと見ていた。
カエデさん、怖いんですけど?
「……やめておこう」
え? 何?
何かよく分からないけど、怖かった……。
まさか、同じものを買おうとしたとか?
気味が悪い。
「さて、後は、ファンデーション、アイシャドウ、口紅、チークを買う。買う前に、近くの書店で、メイクの参考本を買う」
俺は妖精物語という雑誌を買った。
これにヴァンパイア・メイクの作り方が載ってたはず。
セツナは俺と同じ妖精物語を買い、カエデはアンティーク通信という雑誌を買った。
店を出て公園で本のメイクレシピを見る。
「レシピどおり作れば、簡単にマスクは作れる」
各自、簡単なレシピが作れるように、買い物を済ます。
そして、城に戻り、教室に戻ってマスクの製作を行った。
必要な物を揃えて、最初から覚えている魔法、メイキングを使うとマスクは完成する。
被ってみると、本当にエルフの女の子みたいな顔になる。
「だが、このマスクの制作方法は初級でしかない。天使や死神、悪魔を騙しきる事はできない」
マスクを外したユイは俺の顎をつかむ。
そして、サングラスを外し、顔を近づけ、俺の顔にアイラインを引いて、メイクを始めた。
うーん。
カエデ以上の美人さんで、男なのが残念だ。
そして、化粧映えしそうな顔立ちだった。
「できた」
「わー」
「ふーむ」
セツナとカエデが感嘆の声を漏らす。
俺は鏡を渡されて、覗き込んだ。
そこには、アヤメそっくりの顔が出来上がっていた。
「え!?」
びっくりして鏡を落としてしまうが、ユイの鏡はひび一つ入らない。
「あの女になら、似ると思った」
「意外と顔が似てるのか……?」
カエデの少し驚いた顔は、滑稽に思えたけど、それ以上にさっき見た自分の顔がアヤメそっくりになった事の方が衝撃だった。
「口紅やアイラインは書くのに慣れなければならない。だが、レシピ以外の顔にも自在に変える事ができる」
授業の終わりが近づき、俺達はタブレットの中のメイクボックスやマリオネットケースに買ったものを収納していった。
「ここでも最初のメイクボックスはみんなに見せられないのね。少し残念」
セツナは授業が楽しかったようだ。




