悪魔化
俺は奇妙な感覚の中、意識を取り戻した。
「紅い……!? 君の目が紅いのはどうして?」
いきなり、目の前に愛らしい顔が現れる。
奴の愛用帽子のリボンがひらひらと揺れた。
ナンバーツー生成師、ヒスイの顔がどアップ。
ちょ、ちょっと、もう少し離れてくれ!!
愛玩犬じゃないんだから!!
あ、あんまり、至近距離で激しく顔を動かさないで!!
キスしてしまうじゃないか!!
そこは城の医務室のようで、ベッドが二十ほど並べられ、傍には闇の生成師の世界での同級生らが横たえられている。
俺とほぼ同じぐらいのタイミングで、周囲も目覚めたようで、周りからうめき声や、動き出す音が聞こえてくる。
「ここは……」
俺がベッドから起き上がるとアラームが鳴った。
緊急事態というよりは、料理が出来上がった時に流れるようなのん気な音だ。
アラームの音が鳴ると、すぐに隣室から城主らが姿を現した。
城主以外にユイとレイの姿があり、ルネの姿だけがない。
「げっ!?」
ユイは俺を見るなり、慌てて駆け寄り、俺の顔を引っ張った。
「もう少し、接客向きの顔になるように処置を施したはずなのに、全然かわんねーし、しかも目の色が変わってる!? この俺が失敗作だと!? しかもこんな重大な生成で……そんなはずが……」
「痛……嫌だ!」
俺は悲鳴をあげて、ユイの手を払いのけた。
「そうかな? 子供っぽくて可愛い顔じゃない。でもユイさんが失敗しちゃうなんてねー」
ヒスイはユイをバカにしきった様子で、嘲りの笑みを浮かて、盛大に手を叩く。
笑いすぎて涙があふれ出てきた。
俺の顔ってそんなに酷い顔なのか!?
「あああ!?」
「えええっー!?」
同じころ、俺の背後にあるベッドでも別の騒動が起こっていた。
ユズハとセツナが大きな悲鳴に近い声をあげる。
「どうかしたの?」
アヤメが、ほどけた長い髪をかき上げた後、一瞬目を疑ったように表情を変え、髪を掴んで、真紅に変わっているのに気付く。
髪の色、イチゴみたいな色に変わっちゃったんだね……。
「えっ……? えええ!?」
アヤメは一瞬呆然とし、それからユズハとセツナに視線を向けて、その後、もう一度髪を掴みあげて凝視し、盛大な悲鳴を上げた。
「いやあっ!? 何これ……っ!?」
「君は顔立ちと背丈があまりにも、ここでの接客に向いていないと判断した。悪魔らしくない。だがレイの生成はあまりもまずいから、下手に顔を弄らせない方がいいと判断し、鉱物を使って髪と瞳の色を弄るに留めておいた。顔が潰されなかったことを感謝してもらいたい」
城主、鬼畜過ぎる……。
「酷いっ……あたし、帰ったら赤鬼って言われるわッ!」
言うなり、アヤメは派手に泣き叫ぶ。
「ごめんなさい。僕が生成が下手なばっかりに、ごめんなさいッ!」
レイは泣きだしたアヤメを抱きしめて、一緒になって泣きだす。
その後に、ユズハとセツナはお互いの顔を見比べてから自らの腕を確認し、自分たちの肌の色味が薄くなっていることに気付く。二人は嘆くようにため息を漏らす。
俺も自分の腕を確認してみたが、やはり死人のような青白い色に変色していた。
雨宮も、髪が金髪になっている。
俺がこの部屋にある鏡を覗き込もうとすると、再びユイが再び俺の顔を覗き込んで、頬を引っ張る。
「どうしてだ!? この俺の生成は完ぺきなはずなのに!! どうしてこんな失敗作が!? 完璧な接客向きの顔にしたはずなのに!?」
「痛い! 嫌だって!」
「おい、止めろよ、おまえ!」
ユズハがユイを睨みつける。
だがユイはユズハを見るなり胸を撫で下ろした。
「これだけ不細工でも認可されるんだから、まあ、こっち方がましか……」
「てめっ……いい加減にしろ!! 誰が不細工だッ!!」
ユズハはユイに殴りかかろうとしたが、途中の位置にいたレイに素早く足払いされる。
「うおおっ!?」
ユズハはバランスを崩して額から床に衝突した。その額が腫れて真っ赤になる。
「ぷっ。いい感じになったな」
ユイはケラケラ嗤う。俺の生成に失敗したので自棄になっている部分もあるようだ。
「おまえ、何するんだ!?」
「ユズハ、隣のクラスの先生を殴ったりしたらダメですよー」
「何が先生だ!! 悪趣味な革服を着たヤンキーだろ!!」
「褒め言葉なんだろう?」
ユイが喉の奥を鳴らして笑うと、ユズハは顔をゆでだこのようにし、怒りに拳を握りしめた。
「どうして、どうして君の瞳は紅いの!? どうして!?」
また、ヒスイが迫ってくる。
「やめてー!!」
俺は必死にヒスイを追っ払おうとする。
「そうだ、君に素敵な帽子をプレゼントしようと思ってたんだけど、持ってくるのを忘れてた。今度持ってくるよ」
……この悪魔、何がしたいんだろう……。
「候補生諸君、君たちは魔王の血の混じった教官の血を与えられ、生成能力が備わり、悪魔として覚醒した。これから生成師として勉学に励むように」
そう言い残すと、城主はロングマントを翻し、颯爽と去っていった。
いよいよ、勉強が始まるのかー。
まともな内容だといいけど……そうではなさそうだな……。




