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教官選び~前編~

 次は教官選びのイベント。深紅に聞かされた。

 これはかなり気合が入っていた。

 さて、どんな方法で選ぶのかな?

 イベントが開始されると、俺達は城に呼びだされた。

 城の地下深くに、鎧の騎士らに取り囲まれて連れて行かれる。

 俺たち、地下十階にある部屋までいった。

 途中で、履物をかえたり、服ごと丸洗いする小部屋を通ったりする。

 そして地下十階の南側にあるドアを開けると、そこから先は巨大なプールがある部屋だった。

 プールは四つに仕切られており、中には捕まった日に見た魔物にも匹敵するような大きさの魔物が丸まって眠った状態で水の中に浮いていた。鎖で体をプールに固定されている。 四つに仕切られたプールのそれぞれ真横には大きな柱らしきものが立っていた。

「さあ、これから君たちの師匠を選んでもらおう。ルールは簡単だ。造ったものを観察して、どれを造った者の師事を得たいか決める。ただし、魔物を作った生成師の情報は名前・容姿・性格の一切を伝えない。ただ造られたものだけを参考に選ぶ。それだけだ」

 城主はマントをばさっと翻し、さあ行けと俺達に行けと促す。

「どうする……? あ、こら、カエデ!! 勝手に行動するな!! みんなで相談して決めるんだ!!!」

 レンが勝手に仕切っている。

 だがカエデは無視してプールサイドを歩いていく。

「それと今回のイベントはなるべく君たちの意志を尊重したかったが、残念ながら一つだけ、君たちの自由意思を奪うルールがある。一人の教官は四人までしか担当できない。一人に人気が集中した場合、早い者勝ちとさせてもらう。制限時間は三十分だ」

 城主の声にカエデが眉を顰めた気がした。

 奴はせかせかと歩き、プールの奥の方に向かっていく。

 城主は緊張感を与えるために、早い者勝ちと言ったようだが、焦ったのはカエデ一人だけのようだった。

「どうする……? 四クラスにわかれるか? それとも二クラスにまとまるか……?」

 レンはレイの言葉に迷っているようだ。

「ともかく、作ったものを見よーぜ。造り主の性格がもしかすると分かるかもしれない」

 コウヨウは素早く近くのプールを覗き込むが、中身は眠ったままだ。そこで、城主はルール解説を始める。

「その塔の中に製作者がいる。そこに向かってどう動かすか話しかければ、彼らが動かしてくれるだろう。だが向こうは一切何も言葉を発しない」

「あたし、部屋を案内してくれたレイさんは良い人だと思うわ。あの人が作った魔物を探したい」

 アヤメはレイ希望か。

 まずは六人でバラバラに別れて、魔物をチェックすることにする。

 魔物のいるプールの真横には企画書があり、日本語で書かれていた。

 俺はセツナと、カエデが観察していた部屋の北西側にあるファイアー・ドレイクという魔物の入ったプールに向かい、企画書を読んだ。

「この魔物の種類はドラゴン科ファイアードレイク種にあたり、兵器利用よりも愛玩用の能力に特化している。例えば人語などの学習能力が高く、人懐っこい性格にしている。乗竜もできる。その分、コストダウンや安全性のため、戦闘能力を削っており、吐く炎はガスバーナーより弱く、キャンプファイアーの点火に便利な程度である。カラーによって性格が異なり、室内で飼うのに向くレア・カラーや、室外で飼うのに向くノーマル・カラーがあり、こちらはノーマル・カラーのため価格も安い。天界人や冥界人が子供にプレゼントする事を想定して造られており、実際の購買層も天界人や冥界人が多い。従来のドラゴンと同じく、飛行能力はない。なお、竜族はドラゴン族に勧めてはならない……」

 俺は大声に出して文章を読み上げる。

「うるさい!!」

カエデに蹴飛ばされる。

「ごめん……」

「こっちも似たよーな文章だ。っという事は、書いたのは同一人物か……!?」

 部屋の北東側からレンの声がする。

「大体、教官なんて引き受けるのに温度差があるはずだ。やる気がある奴とない奴の差が文章に必ず出てしまうはず。この文章は製作者以外の誰かが書いたんじゃないか!?」

 コウヨウの言葉の後に一瞬、城主の笑った声が聞こえた気がするが、そうと確認できないうちに沈黙が訪れる。ただ水温だけが室内に響いている。

 もしかするとこの文章は全て城主が魔物を解析して書いた推薦文なのかもしれない。

「ところで、魔物を動かしたいのだが……。時間が無駄に過ぎていくだけだ」

 カエデが俺達に話しかける。

「分かった。みんな~、こっちの魔物を動かすから!!」

 セツナの叫びに、視線が南西方向のプールに集中する。

「魔物に何か遊びの芸をさせろ」

 カエデは近くの塔に指示を出す。

 すると、ファイアー・ドレイクの額のアメジストが光り、それは丸まっていた身をのそりと動かした。小さく欠伸をすると立ち上がる。鎖はそれほど長くなく、ファイアー・ドレイクの口や尾はプールサイドまで届かないようだ。

 それは俺達を眺め、主人ではないと知り威嚇してくるが、鎖が邪魔をして喰らいつけないと知ると、渋々と言った感じでプールサイドの端っこの方を蹴って、空中でばくてんを披露した。それが終わるとご褒美の餌が欲しいと言わんばかりに愛らしい声を出して鳴くが、塔内の者に無視された。

 それは不機嫌そうに丸まって、プール内でふて寝する。

「なるほど。感情豊かなのはわかった」

 カエデは青い目を閃かせて、少し満足げに呟いた。

「じゃあ次はこっちの魔物を動かさないか? ……制御装置でもあり心臓部でもあるジュエリー・ハートが十個あるゴーレムだ。これは砂・水・大気などを取り込んで十体に分裂できる魔物で、工事現場などで使える。エコを意識した製品だそうだ。これが、レイさんの作った魔物なんじゃないか? ゴーレムの分裂を!!」

 レンが叫ぶと、水中に沈んでいたゴーレムがのそりと起き上がる。これもプールの底に鎖でつながれており、それで動きを制限されて不自由そうな体勢で起き上がる。

 額部分に十個あるエメラルドが輝いた。

 その瞬間、エメラルドのうち九個はゴーレムの体外に排出され、エメラルドはプールの水を吸収してゴーレムらしきものへと姿を変える。

「確かにエコだ……」

「レイさんっぽいね」

 俺達は納得するが、近くにいるカエデは関心がなさげで、無視している。

「次はこっちのオニキス・オブ・ヴァンパイアを動かすぜ」

 ユズハが大声で宣言する。

 ヴァンパイアは目をさまし、ゆっくりと起き上がった。その姿は美しく作られており、夜の貴族に相応しい高貴な雰囲気を纏っている。

「これは兵器として使えるものだそうだな。どう戦うのか、デモンストレーションを見せてもらおうか?」

 ユズハの言葉に応えたかのように、ヴァンパイアはプールサイドの壁を蹴って牙と爪を伸ばし、腕を振り下ろした。プールの水は爪が接触していないのに、風圧で一瞬、爪の傷跡のように水のある部分とない部分とに分断される。が、すぐに水は元の状態に戻った。

 かなり戦闘力のある魔物なのだろう。しかも見た目は美麗だ。

「こっちは外れだろうなー。デス・コード。幽霊の生き物みたいだが、能力は各生物の嫌いな周波数の音をだすことができ、動きを一瞬止められる特殊能力を持っている。それだけらしい。じゃ、俺達の嫌いな周波数の音を出してくれ」

 コウヨウの言葉に、大きなベルを手にした幽霊がその手を大きく左右に動かす。

 リーンと異常に高い音がする。鼓膜が痛い。

 俺は金属系の甲高い音がするのかと思ったが、それ以上に高い音が響き渡り、一瞬意識が途切れそうになった。

 間近にいたコウヨウはふらついて地に崩れ落ちる。

 デス・コードはベルを鳴らし続ける。

 苦しくてたまらない。

「その辺でやめたまえ」

 城主の冷やかな声がする。デス・コードは動きを止めた。城主は今の音声に全く動じなかったようだ。

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