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西館

 床ではユズハがうずくまったまま、意識も回復せず、苦しんでいる。

 まさか、死亡フラグが立ったのか!?

「さて、皆さん。では、お部屋に案内します」

 先程の重低音の声とは違う、柔らかく爽やかな男の声が聞こえてくる。

 そして、金髪をした背の高い男が姿を現した。

 肩幅があり肉付きは良さそうだが、甘いマスクで外人の俳優のようだ。

 リュウセン城の生成師でガーディアンを兼ねたレイ。

「レイです。生成師をしていますが、メインの仕事はキャスル・ガーディアンです。場合によりましては皆さんの教官が当たるかもしれませんので、よろしくお願いします」

 先程の男に比べ、随分と大人しそうな印象を受ける男だった。

 ゲームで見かけてもしゃべり方も丁寧で上品・大人しそうな性格の設定だったが。

「樹の怪我の具合は?」

「それはこの子の名前ではありません。ユズハです……まあ、明日になったらだいぶ良くなってますね。治療はできません。城主様の罰には手が出せないんですよ」

 腹の具合を見たり、脈をはかりし、レイは答える。

「そうそう、ユズハを部屋に運んで落ち着いたら、レストランに移動しましょう。歓迎会の準備をさせてるんですよ。明日から食事が制限されるから、今日ぐらいはケーキをご馳走しようと、僕とあなた方を世話するスタッフさんとで準備してましてね」

「私はパスだ。そういったものに出席するつもりはない。情報は自分で集める」

 カエデ、そう言うと思った。

「出席したほうがいいですよ。会議もした方がいいですし」

「そうよ、みんなで参加しましょう!!」

 セツナがカエデの腕を掴むが振り払われた。

「私はお前たちとは違う。私は両親に反対されたが、自らサインしてこの城にやってきた。異端だろう?」

「どうして……?」

 アヤメが涙を浮かべた目で睨む。

「野心だな。大人しく生きているのが嫌いだから」

 驚きの声が一斉にあがる。

「ですがね、カエデ。野心が強いのでしたら、ぜひ会議に参加される事をお勧めします。先程の城主様のルールは覚えているでしょう」

「ああ」

「その中に金銭を使った駆け引きで、試験を優位に進めない事とあったでしょう。裏を返せば、金銭以外を使った駆け引きが非常に多いんです」

「金銭では安易すぎるから禁止と言う事か」

「そうです。生き残った生成師というのは駆け引きを駆使して生き残った悪魔が非常に多いですし、そもそもお客様とは常に駆け引きのようなものです。親しくなければないほど、駆け引き能力は重要になっていきます。試験にはもちろん、その能力を向上させなければクリアが難しいものも含まれています」

「……よくしゃべるな、おまえ」

「親切だと言っていただきたいです。新密度マイナス1ですよ、カエデ」

 本当に良くしゃべる男だと俺まで驚かされた。

 だが、こういう人に指導された方が楽なんだろうか。

「教官が当たるとは、くじ引きか何かで?」

 俺はレイに質問する。

「くじ引きっぽいですけど、もう少し候補生の選びたい人を当てやすい方法ですよ。一つ、アドバイスをします。先生の有能・無能に関わらず、同学年の子とは、ばらけて指導を受けた方が有利ですよ。どれだけダメな先生でも、たった一人の教え子となれば雑には扱いません。優秀に育て上げれば、将来いろいろと手伝ってもらえますからね。逆にひとりの先生に何人も集中すると、候補生同士の人間関係のもつれや、先生側の判断で、無能な子の間引きが行われる可能性が高くなります……育成教官と育成候補生は親子も同然の関係なのです。与えられる愛情の量こそが、優秀な生成師を作り上げる……」

 俺、ゲームの世界で親みたいな師匠ができるのかー。

 どんな悪魔かな?

 俺はどういう方法で先生を引くのか、教えてもらえないまま、城の西にある建物、西館に案内された。一階の回廊で繋がっている。

 西館は特に守りがかたく、生成師候補生をガードする様々なシステムが備わっているという。

歓迎会を受け、ケーキを食べた。

 魔界のものは味が変わっていて、フルーツなど味わいが濃厚だったが、悪くない。

「今日は特別です。明日からは、自主練を行ってコインを獲得しないと、このカフェは利用できないですよ。タブレットを使って券売機で欲しいものの券を買います」

 もう既に、コインのシステムが始まるのか。

「なあ、ここからあんたは逃げたいと思わないのか?」

 レンがいきなりまさかの質問。

「知れば知るほどに、逃げる気を失くしますよ。自分の過去を。そしてこの城の事を……二百年以上居住する僕自身、まだ知らない事だってたくさんあると思います。薄暗いこの城だって住めば都です」

 意味深に呟くレイ。

 他の者達が一斉に彼に質問を浴びせたが、自分の目で確かめてくださいという返事するのみだった。

 それから、俺達はレイさんに部屋の案内を受ける。

「西館の二階は会議室です。三階と四階は教室や実習室。五階と六階が学生の居住階と浴室になります。七階は最上階でロッカールームと特別会議室があります。ロッカールームや教室・実習室は後日使用方法の説明があると思います。では女子は六階に移動して部屋割を決めてください。男子はこの子……ユズハ君でしたっけ? あの子は一番近い部屋……510号室に寝かせます。後、誰かルームメイトになって、彼の介抱をしてくれると助かるのですが。レン、引き受けてくれますか?」

「え? 俺!?」

 嫌がっている。

 まさか、俺がユズハの介抱をしないといけないのか!?

「うぐいす同士だろ。引き受けろよ」

「ナツキもそう思うのか!?」

 じっと涙目で見つめられる俺。

 涙目のレンをコウヨウが睨む。

「お、俺、けが人の手当て、した事ないし……」

「決まりだな。僕らは501号室に行こうぜ」

 コウヨウが俺の腕を引っ張り、501号室に向かって歩きだした。

 途中に、全ての部屋をチェックしてまわる。

「最初から、僕らは男子四人なのが決められていたみたいだな。501部屋と502号室はきれいに掃除されているが、503号室、504号室と先に進むにつれて部屋の汚れ具合が酷くなっている。レイは知らないんだろうな」

「そうだな……」

「二つルールを作るからな。まずは、共有しない部屋は散らかしても良いが、飲食物と汚いものや枯れる花など、それに水や化学薬品などを絶対に持ち込まない事、それと毎日あった事を報告する。支給があれば紙に書いてでもいい。異論はないか?」

「報告……難しそうだけど」

「気になった事だけで簡潔な内容で良い」

「どうして、俺なんだ?」

 俺は首を傾げる。

「情報を得たいが、他にあんまり条件の良さそうな奴がいないんだよ」

 俺、特にコウヨウの中で評価が高いわけではないんだ……。

 無難そうなやつってことか……。

 ヒロイン設定したはずなのに冷たいな……。

 別にいいや。

「分かった」

「じゃあ、決まりだな」 

 俺はコウヨウの決定事項を呑み込んだ。

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