リュウセン公国へ
「さ、同級生になる六人と城主様が座っている丸テーブルの周りにある椅子の中で、空席になっている所に腰掛けてください。ゲームがスタートします」
「はい……」
城内のあまり広くない部屋がモノトーンの状態になって、円卓を囲んで座っている六人+仮面黒マントの男がいる。
俺はぺたぺた歩いていき、椅子に腰掛けた。
その瞬間、周囲がカラフルな状態になりイベントスタート。
「私は魔界公爵で、この城、リュウセン城の城主で、リュウセン公国の主でもあるエリア・ショウ・リュウセン。君たちを今日からこの城の住人として歓迎する。それとファーストステップクリアおめでとう」
ぱちぱちと手を叩く仮面の男。
「クリア?」
レンが怪訝そうな表情で尋ねる。
「魔界まで無事戻ってくることだよ。実は十二名を人間界に行かせたのだが、五名落第した」
「訳わかんねー」
「君達はもともと悪魔なのだよ。悪魔にもどって、魔物を作る魔物生成師となるべく教育をこれから受ける運命だったのだ。そして、親権を持つ者などが手放した」
そう言い、男は目の前の器を動かす。
中に入った赤い液体が、強すぎる月光を乱反射し、僅かに煌いた。
月光が異様に強い。
外を見ると月が三つ見えた。
ここ、魔界なんだな。
「指輪が左手の薬指にあるだろう? タブレットを出現させるためのアイテムだ」
はっとし、俺達は左手の薬指を見た。
そこには冷たい色をして輝く指輪がある。
「じゃあ、親に見捨てられたのか、僕は……」
レンが青ざめて嘆く。
「あれだけ留年して、ご両親が困っていたよ。君、生成師の勉強のほうが向いているんじゃないかね?」
城主の無情な言葉。
「そんな!?」
涙ぐむレン。
だがあまり同情の視線は集まらず、冷ややかな目で見られた。
「俺は親なんていねーぜ」
ユズハが冷ややかに笑い、仮面の男に挑発的に尋ねる。
「寮費を払わないと、寮母がお怒りだったよ。彼女に借金を肩代わりしてサインをもらった」
またしても、同情の集まらない理由……。
「僕は真面目だぞ!!」
言い返したのは、コウヨウ。
「潔癖症で、わがままで、跡取りにしたら家が滅ぶとご両親がお嘆きだったよ。弟さんは良い子らしいね」
「そ、そんなっ!?」
変な奴ばっかりだな……。
「君は……」
「母さんが売ったんでしょ。もういいよ。母さんと一緒なの疲れた」
セツナが気だるげに自白する。
あああ、ダメだ、これは。
「君は……」
「運命を受け入れますので、プライバシーの保護をお願いします」
雨宮は説明なしかい!
「俺は? 兄上はどうして!?」
俺もゲームだからこういう設定になるのは当たり前と分かりつつ尋ねてみる。
「君の兄上は弟をサラリーマンにするのがつまらないと、おっしゃっていた」
あああ、兄上、野心家だし、そういう事言いそうな気がする……。
酷いよ、兄上!!
「あたしは……? あたしの両親がそんな事言うはずないわ」
「ああ、君かい。君の実家は破産し、娘が帰ってきたらどうしようとご両親がお困りだった。良家の令嬢として養女に迎えると言うと、契約書を読みもせずにサインしたよ」
おかしそうにのどの奥を鳴らして笑う仮面の男。
最後に説明を受けたアヤメはテーブルに突っ伏して号泣し始めた。
さすがにこれだけは、可哀想すぎる理由だ。
どうして、アヤメだけこんな悲惨な設定にするんだ!!
ひどいじゃないか!!
「てめえ、なんて事を!」
「私は別に嘘はついていない。君達はこれからリュウセン城の住人で魔界伯爵の身分になる」
「いい加減にしろ!」
ユズハが仮面の男に向かって突進していく。
だが仮面の男の姿が一瞬消え、次の瞬間ユズハは腹を押さえてうずくまっていた。
仮面の男の姿はユズハの真横に移動していたが、ゆっくりと自らの席に戻っていく。
ユズハは苦しげに咳き込むと倒れて、意識を失った。
「では、まず最低限のルール説明をしておこうか。
その一、城から勝手に脱走しない事。
その一、城の重大な秘密は絶対に外部に漏らさない事。
その一、教官をしている者を殺害しない事。ただし、これは教官に選ばれた者側にも課せられたルールで、教官は生成師候補生を殺害できない。フェアなルールだ。
その一、教官と学生、あるいは学生同士で金銭を使った駆け引きで、試験を優位に進めない事。生成師同士になれば問題ない。
これらのルールを破ると、重罪、あるいは死刑が待っている」
言い切ると、城主は部屋を後にした。