始まりの日2
急に静かになったと思い、周囲を見回すと雨宮たちは動かなくなり色が白黒に変化していた。
「始まりの日イベント発動おめでとうございます」
女はパチパチと大きな音を立てて大げさに拍手する。
「私はリュウセン城の意識の、深紅。ゲームマスターです。あなたが闇の生成師をダウンロードした日に始まりの日フラグが立ち、今日、始まりの日のイベントが発動しました」
「え? じゃあ、ゲームをダウンロードした瞬間からゲームは始まっているのか!?」
「変な子ばかりでしょう。それはゲームの世界だからです」
「なるほど……って、ダークファンタジーがリアルにって、これから大量の死者が出るとか!?」
「そうです。闇の生成師では大量の死者が出ます。復活させる方法は一つ。SSクラスのイベントフラグを立てて、発動させる事です。イベントが終了すると、エンディングが流れて、あなたがゲームを始める直前の状態に大世界がリセットされます」
「SSクラスのイベント!?」
「そうです。歴史に名を残す新種の魔物生成に貢献し、伝説の生成師になる事がSSクラスのイベントの条件です」
「どれぐらいかかるんだ……?」
「最低で百年ぐらい、何千年単位になる事もあるでしょうね。あなたがゲームオーバーになれば、あなたの時点でのリセットは不可能となります。城は新たなるプレイヤーを必要とします」
な、何なんだよ、それ!?
「じゃあ、俺が死ぬ前に雨宮が死んだら、雨宮の存在は消えるのか!? 鈴木は失踪したままなのか!? これから死ぬ人もそうなのか!?」
「そうです。城は新たな魔物を欲しています。叶えてください」
無茶振りすぎる。
なんて酷いゲームなんだ……。
「ゲームをクリアすれば、死んだ者の魂は元の場所に戻ります。ただし、死んだ者はあなたの事を覚えていないでしょう。生きて共にクリアした者のみ、記憶を共有できます。ここに前回のプレイヤー、ユイがいます」
青灰色のサングラス男、ユイが歩み寄ってくる。
他の者は生成師らも色がモノトーンに変わり、動かなくなっている。
「俺が前回のプレイヤーのユイだ。俺はゲームをクリアする事を放棄した。よって、おまえが新たなプレイヤーに選ばれた」
「どうして……死んだ人を生き返らせたくないんですか!?」
「俺がゲームの世界にのみこまれて、俺の世界では百年以上の時が過ぎた。もう時間を巻き戻すつもりはない」
「そう……なんですか……」
「無気力なプレイヤーは、キャラクター同然の存在となってもらいます。ところであなたをプレイヤーにするかわり、一つだけ可能なリクエストを聞き入れましょう」
おっ!? 救済の言葉だ。
「俺の全てのアビリティをレベルMAXにしてください」
「自分で努力してください」
「俺をいきなり優秀な生成師にしてください」
「自分で努力してください」
「俺の戦闘能力をゲーム内で最強にしてください」
「自分で努力してください」
そうだ、ゲームといえばヒロインがいるはずだ。
今までの反応からして、もしかすると……。
「……雨宮がメインヒロインなんでしょう? アヤメに変えてください」
「無理です。せっかく一番の美少女でクラスメイトをメインヒロインにしたのに、どうしてですか?」
これはどうもハードルがそれほど高くない設定のようだ。
質問で返してくるし。
ここは変更しやすいんだな。
「過激な性格が無理です。可愛くないです。セツナは?」
「無理です」
「コウヨウでも、ユズハでも、レンでも良いですから!!」
「無理です」
「じゃあ、捕まえにきた生成師の人達の誰かでもいいですから!」
「お、おい!! おま……正気か!? 全員男だぞ!?」
ユイが悲鳴に近い声を出す。
あんなサディストがメインヒロインなぐらいなら、男がヒロインの方がましだ!!
「無理です。カエデをヒロインから完全に外してしまうのは。ではマルチヒロインにしましょう。今、指名したメンバー全員がヒロインです」
「ば、ばか! 取り消せ!! 男を七人もヒロインにする奴があるか!! 男を省け!!」
「うーーん。それってできますか?」
「ムリです」
「分かりました。マルチヒロインでお願いします」
「ちょ、お、おま!? 俺までヒロインにするのか!? ふざけんな! 頭おかしいのか!?」
「だって、雨宮がメインヒロインなんて無理です!! それにライバル・悪役を減らしたいです!!」
「さ、最悪だ……こんな奴が次期プレイヤーだったなんて……もっと早く攻略していれば……」
ヒロインの一人になってしまった青灰色の髪のお兄さんは、泣きながらぼやいた。
が、その体は白黒に変わり、世界が振動する。
「現時刻を持って、ユイは正式に闇の生成師のプレイヤーではなくなりました。ユイがゲームを開始する以前の状態には二度と戻せませんし、ユイはゲームのキャラクターとしてこの先、生きていきます」
な、何だよそれ!?
お、俺はどうなるんだ?
ゲームを下りたら、ゲームのキャラクターにされるのか!?
よく分からないけど、足が震えてきた。