始まりの日1
時計台に到着すると、まだ指定の時間まで二十分は優にあるのに、既に三人+チョコレート色の制服姿の男がいた。長身で甘いマスクをしており、モデルのような男だった。
「その人もユーザーなんですね」
「ああ。レンだ。よろしく」
俺はレンに握手を求められ、手を差し出す。
かなりがっしりと手を握られた。
その力の強さはちょっと怖い。
「ところで、どうして今日の集いがあったのに、俺は呼んでくれなかったんだ!? 学年が違うからハブなんて酷いじゃないか!」
駄々っ子のように悔しげに地団太を踏むレン。
彼のショルダーバッグからは本屋の袋が姿を見せていた。
漫画や文庫本サイズの小説より大きい。
昼食の時に聞いた参考書だろう。
本当に偶然にここに来たのかもしれない。
「受験生でしょ。それに七人で揃うと、何かイベントが発生すると思ったの」
セツナが色付きリップを塗った口を開く。
おそらく、彼女がそう思ったので、誘わなかったのだろう。
「どうしてだ?」
「ユーザーが全員同じ学校でもいいはずなのに、ばらしてあるって事は、全員集まった時に何かが起きる。それにはまだ早すぎるんじゃないかと思ったのよ。だから、あじさいの二人には帰ってもらった」
なるほど。
七人揃うと、イベントが始まるんだ。
もしかすると何かものすごく大きなイベントが。
まさか、始まりの日なのか!?
思い当たった瞬間、俺は背後を振り返り、トイレに移動するための細道の影に雨宮と石田先輩がいるのを見つけてしまう。
雨宮、どうしておまえはそんなに嫌な性格なんだ……。
周囲から色がなくなり、動かなくなり、モノトーンの世界が広がっていく。
俺達ユーザーだけが色があり動く。
しまった!!
完全に何かのイベントが始まりかけている!!
地響きがした。何かが来る……。
雨宮と石田先輩が姿を現し、俺達と合流する。
「何してんだ!! おまえら!!」
「悪い。とにかく逃げよう!! 何か来る!」
「通路は?」
「ここは地下だから、簡単に外には出られない。東西南北のどこかの通路から、階段で一階を探さなきゃ!!」
通路の北側から、ドラゴンの背に乗った青灰色の髪をしたサングラスに黒マントの男の姿が見える。
あれって、闇の生成師の天界担当生成師のユイ!!
七人かたまって、南側を向くが、そちらからも魔物らしきものが生成師と姿を現す。
若葉のような髪と瞳、森の妖精のような容姿をした冥界担当生成師のヒスイ。
彼はロック鳥の背に乗り姿を見せた。
鳥の四本ある脚が一瞬で数人を掴み上げ、地面に叩き落しそう。
東からはトイレの通路を壊して、ロック・ゴーレムが姿を現す。
生成師でありながら、城のガーディアンを務めるレイも一緒だ。
金髪の若々しい健康的な男の姿をしており、その姿は大天使聖ミカエルに似ているらしい。
西側に向かって七人全員で走り出すが、そちら側からはワーウルフの集団が姿を見せた。
低いうなり声を上げて、俺達を威嚇する。
今にも飛びからんとする体勢だ。
その体躯は長身のユズハやレンよりひとまわり以上大きい。
狼を連れている赤毛の男自身も二メートル近くあるのではというほどの長身で、とてもかないそうにない。一般客担当生成師ルネ。墓守でもある不気味な男。
囲まれた……。
「始まりの日、スタートだ」
青灰色のサングラスの男がぱちんと指を鳴らす。
一瞬で辺りはアリスモールの愛らしい内装から、年代物の城の内装に変わる。
同時に深紅のドレスを纏った女が姿を現した。