アリスモール4
石田先輩は俺を抱え込むようにして、中華の店に向かって引きずっていく。
「何なんだよ、あの女は!? どこのわがまま姫だよ!? どこの成金だよ!? おまけに一緒の女は女官かなにかかよ!?」
「知るか。さっさと解散になってよかったな」
あああ、二次会が始まった瞬間、愚痴会。
先行きが不安だ。
「大体三人で茶会って必要あんのかよ!? 勉強してんのかよ!」
「してないだろうな。あまり深く干渉しあわない方が良さそうだ」
「ともかく、飯がゆっくり食えそうでやれやれだ……」
俺達は中華料理店に入り、席に着く。
六人がけの席に案内され、俺と石田先輩は横に座り、雨宮が正面に座る。
「化粧室に行ってくる」
雨宮はかに玉炒飯の注文を済ますと、席を立った。
「今日はびっくりの連続だったな。あの女ども仰天だ」
石田先輩はうんざりした様子だった。
「そう? 俺、アヤメって子、一緒にいたら楽しそうで、いいなって思ったけど」
「げえええ!? あのブスで、しかも頭のおかしい女か!? 雨宮が聞いたら怒るぞ」
俺は首を傾げる。
雨宮にどうこう言われる筋合いはないと思うけどな。
まるで俺がゲームの主人公で、雨宮がメインヒロインみたいな事を言われても……。
「あのさ、雨宮って口を開いたらろくな事を言わない奴だけどさ、おまえに構ってほしいんだと思うぞ」
「構ってほしいとか言われても……」
「可哀想じゃん」
「誰が?」
気がつくと、雨宮が俺の横に座っていた。
「うわっ!? いつの間に戻ったんだよ!?」
そして、なぜ俺の横なんだ!?
「おっと」
雨宮が手にしていたお冷が俺の顔面に直撃する。
石田先輩も少しぬれたみたいで、ハンカチで水を拭った。
「聞こえてたんじゃないか、今の話」
小声で耳打ちされる。
聞こえたからって、どうしてお冷をぶちまけられなきゃならないんだろう。
その後、特に会話もなく淡々と食事をした。
空気が重い。
「ところで白井。さっきセツナから受け取ったメモはなんだ?」
「あ、あれ?」
ばれてたんだ……。
俺はパーカーのポケットに突っ込まれた紙切れを取り出して開けてみる。
それは個人情報交換に使われたメッセージカードと同じものだった。
『午後六時半に時計台の前で待っています。市立鶯谷高校三人より』
俺、呼び出されてたんだ……。
恐る恐る雨宮の顔色を伺う。
隣では石田先輩も落ち着きのない態度で、ぎこちなく料理皿を眺めている。
「行ってくるんだろう?」
「特に言う事はない?」
「聞かせられる情報があったら、聞かせてもらう」
雨宮、妙に大人な反応だなー。逆に不気味なんだけど。
それから俺は雨宮や石田先輩と別れて、時計台に向かった。