アリスモール3
「さ、お買い物しましょ」
アヤメの希望で洋服売り場のフロアに行く。
まずはアヤメがお気に入りブランドの店に行き、買い物かごいっぱいに服を詰め込むと、試着して似合うものは半分以上お買い上げ。
俺の生活費の一か月分以上が一瞬で消えた。
続いてセツナが探しているという、サブバッグを探して回る。
何店舗か見て周り、本人希望のビジューが付いていないもの(取れたらみっともないから、不経済でシンプルな物がいいらしい)で、値段がそこそこ、見た感じもそこそこのものを探し、チェック柄にピンクの持ち手の付いた大き目のかばんを購入した。
昼飯代より少し高いぐらい。
次に、3コインの店。
セツナが偽パールのロングネックレスを買い、意外にも雨宮がウッドのコースターを三つも買った。
「そんなの買うんだ」
俺は驚いた。
物を買うのに関心がないと思ってたから。
「天然素材の物は何だか気になってな」
雨宮ってお茶を飲む習慣があるんだろうか。
男子寮は一階に給湯室があるから、女子寮もどこかにあるんだろう。
二人の清算が済むとその店から、北に向かって歩き……。
「あー、ここのお店、見ましょ!」
アヤメがトレンド物をあちこちのメーカーから買い付けていると言う、男女の服が揃ったショップに入る。
「見て見て!」
彼女が真っ先に手に取ったのは、真っ黒だが猫耳フードの付いたパーカー。
「ちょっといい? 君?」
「え? 俺?」
俺はアヤメに声をかけられて、驚く。
そのまま、着ていたパーカーを脱がされて、猫耳フードのパーカーを着せられた。頭にフードをかぶせられる。
「かわいー!! 写真撮りたい!!」
鏡で見ると確かに似合っているように、見え……悲しい。
「買ってあげるから、着て!!」
アヤメの言葉に一瞬、みんなの表情が凍りつく。
「お、おい。よせよ。今日あったばかりの年下の野郎にまずいぜ!!」
不良っぽい茶髪男のユズハが意外にも常識的なことを言う。
「えー!! 可愛いのにー!! 写真撮りたいのにー!!」
雨宮が俺の腕を掴むと、無理やりパーカーを脱がせる。
い、痛いんだけど……。
そのままパーカーは売り場の山に投げ捨てられた。
「ほらみろ。あじさいの奴らびっくりしてんじゃん!」
「えー!」
そこでセツナが笑い出したので空気が少し和む。
「上のフロアに行きましょう。アヤメ、ネックレスがみたいでしょう。ドラッグストアも」
俺達はセツナの言葉どおり、上のフロアに移動した。
ドラッグストアでは、アヤメは何かきらきらした化粧品を買っていた。
「おまえ、化粧するのか!?」
石田先輩はびっくりしたが、アヤメの方もびっくりした表情になる。
「これ、リップクリームよ?」
がっくり。
石田先輩の肩が元気がなくなる。
女物の化粧品に疎いのを思い知ったらしい。
俺も分からなかったんだけど。
ここではユズハがハンドクリームを買っていた。
「バイトで、手荒れしてたもんね」
アヤメの言葉に、トラックの運転手ではなく、ユズハが厨房で皿洗いとかしてるのかと気付いた。
一方、紫陽花チームの雨宮と石田先輩は、胃薬や頭痛薬を買っていた。
別のフロアに移動する。
装飾品のあるフロアだ。
「ねえねえ。このネックレスとこのネックレス、どっちがいいと思う?」
アヤメはフロアを移動するなり、ネックレスの高級店に飛び込む。ピンクゴールド地金に赤系統の石のついたネックレスと、シルバーのパールネックレスを見比べだす。
その値段は高く、そんな物を買うのなら、服の一着でも買えば良いのにと思う。
「着る服によるねー。合わせてみないと分かんない」
「どっちも買えよ。おまえ、迷うとなげーんだよ」
セツナとユズハは意見しない。
正解かもしれない。
どっちが気に入ってるのか、今の反応でよく分からんなかったし。
「えー!! どっちが素敵か答えてよ!!」
「値段高いほう!!」
「樹、投げやりすぎるわ!!」
アヤメは脹れる。
「でも樹のお勧めした方があたしもお勧め。ピンクゴールドの方が美影の顔に映える気がするから。それに暖色系の服多いでしょう」
さすが、アヤメの女友達やってるだけあるな、セツナ。
もっともらしい事を言ってお勧めできるんだ。
そんな彼女は、3コインの店でネックレスを買ってた。
「そんなもん、何に使うんだ?」
石田先輩があきれた様子で尋ねる。
「お茶会をするのよ、あたしんちで、三人で!!」
石田先輩の顔が引きつって、ぐちゃっとなる。
あちゃーっ、変な方々だといった感じで。
「今、付けてみたら?」
「今のお洋服に付ける予定はないの」
俺、玉砕……。
「もういいから、両方買え!! 後から、どっち付けるか決めりゃいいだろ!!」
「そーねー」
コートが買えそうな値段のネックレスを二つあっさりとレジに持っていくアヤメ。
ユズハ、扱いに慣れてるなー……。
「ねえねえ。若葉もネックレス買わない? ピンクゴールドより安いのなら、一個プレゼントするわ。ついでにカエデさんも」
レジでネックレスを包装してもらう間、他の女子二人に話しかけるアヤメ。
「必要ない」
無表情で言い切る雨宮。
「あたし、さっきパールの買ったから」
「えー! 3コインのでしょ。こっちの方がキラキラしてて可愛いわよ?」
「うん。でも、あたし、ドレスも安っぽいから合わないし」
「そう」
ラッピングされるネックレスを、アヤメはきらきらとした目で眺めていた。
すごい美人ってわけじゃないんだけど、あどけない表情が愛らしい。
俺はじっと彼女を見つめていた。
「飯食って話そうぜ。腹減った」
「じゃあ、いつものイタリアンにしましょ。奢りだから!!」
ユズハの言葉にアヤメが嬉しそうに言う。
「私は中華がいいから、別行動させてもらう」
「僕も」
そこで、周囲の視線が俺に集中する。
あああ、今までこんな状況なかった!!
どうすりゃいいんだ!!
どっちでもいいけど、どっちか選ばないといけないって面倒だ!!
「ナツキは中華がいいよな?」
石田先輩が強制するように俺を見る。
「え、うんとまあ……」
アヤメが意味ありげに俺を見てきたが、諦めたように視線を逸らした。
「じゃあ、今日はここで解散しましょ」
セツナの言葉で決まってしまった。