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02 歓迎の式典、あるいはドヤ顔の乙女

長かったので分割しました。

 召喚されて三日後の夜、俺達はメッツォの呼んだ馬車に乗りラインケルの首都「インラント」にやってきた。

 正味七時間ほどの小旅行であったが、首都の町並みはどうにも逼迫した雰囲気を醸し出している。


『ラインケル国軍は君を待っている!』

『鉄は刃に、木は柄に』

『新たなる秩序、新たなる力』

『力なき国に守れる民無し』

『武王エスタンスは貴方の生活を見守る』etc…


 馬車の中からざっと見渡しても、そこかしこにこれだけのスローガンが立ち並んでいる。

 建物の雰囲気は中性に近いが、これだけ見るとさながら戦時中の近代国家のようだった。

 国としての方針がこうも露骨であれば、話に聞くレイド使いが必要に迫られるのも道理といえば道理だろう。

 と、馬車がひときわ巨大な建物の前に差し掛かったところで止まった。


「お待たせしました、ここが式典の会場、エスタンスパレスです」


 メッツォが手をたたくと、馬車の扉が開き使用人たちが俺たちの手を取って下ろそうとする。

 降りたところで目の前の建物を改めて見上げる。

 いかにも国の贅を凝らして作り上げたかのような威容の宮殿であった。

 白亜の大柱一つとっても、大人十人が腕を繋いだところで、円周の長さには足りないであろう程だ。


「す、すごい建物……」


 家出少女――後に教えてもらったが、名前は羽那斗うなと 雪菜ゆきなというらしい――は口をポカリと開けて見上げている。


「ここはエスタンス国王が政務を行なう場所でもあります。

 私も実は登庁をするのは初めてなのですが……」


 心なしかメッツォの方も緊張した面持ちでいる。

 ちなみに此処にいる全員が正装をしている。

 俺と雪菜の分はメッツォが領土の職人に急ごしらえで作らせたものだが。



 会場に至るまでにうんざりするほどの人と挨拶をさせられ、その上でようやく式典の場所までたどり着いた。

 扉を開くと、そこはおよそ1000人は余裕で入る規模のホールであった。

 会場に入ると、途端に周りに様々な人々が俺たちを取り囲んだ。


「これはこれは! メッツォ様とレイド使いの方々! 遠路はるばるようこそインラントまでお越しくださいました! こちらに料理がございますのでどうぞこちらへ! 申し遅れましたが私はセンベルク家の長子、ブルガルド……「まぁ! なんと威風堂々たる面持ちのレイド使い様でしょう! ワタクシはリオーノ家の……「おお、レディ! 私は貴方に会えるのを文字通り一日千秋の思いで待ちわびておりました! この後の舞踏会では是非私と……」


 猫なで声でこちらに話しかける集団。

 レイド使いとお近づきになりたいのであろう貴族たちだ。

 見た目こそ上等な服を取り揃えているが、どいつもこいつも人を肩書でしか見ていないような目つきをしている。

 まともに相手をするだけ損であろう。


「え、ええと……そのぉ……!?」


 一方の雪菜の方はこういった扱いに慣れていないのか、アップアップといった様子である。助け舟を出すことにしよう。


「あーごめん、料理だけいただくよ。雪菜、こっちに」


 俺は雪菜の手をつかむと、そのまま貴族たちの間をかき分けて会場の中央まで歩いていいた。

 雪菜の方もよろめきながらなんとかついてくる。

 貴族の方はメッツォが対応してくれているようだ。

 流石こういう時の社交辞令には慣れていると見える。


 すこし離れたところで雪菜の手を離す。

 助けてくれてありがとう、と微かに震えた声で告げる彼女は、いまだこの場の空気に慣れていないようだった。

 とはいえ確かにシャンデリアの綺羅びやかな空間というのは、初見では緊張するのは仕方ないとも言えるだろう。


 と、俺はやにわに自分が空腹であることを思い出した。

 そういえば朝早くに家を出てから何も口にしていない。

 かれこれ七時間ほど食事をしていないことになる。

 見ると近くのロングテーブルには宮廷料理が所狭しと並んでいる。

 立食パーティに近い形式なのだろうか。


「あっちはメッツォさんがなんとかしてくれるよ。

 とりあえず腹減ったし、あそこからなんか貰ってくる」


「あ、じゃあ私は空いてる席探しておくね!」


 せっかくだし雪菜の分も適当に持ってこようかと思っていたが、雪菜の方は気を利かせて空席を探し始めたようだ。

 また貴族の連中に捕まらないことを祈るばかりである。

 料理の数々に近づいてみると、何とも豪勢な料理の数々である。

 目玉料理と思わしき巨大な牛の丸焼き(使用人の男がひっきりなしに切り分けている)に始まり、魚料理、野菜料理、アラカルト、デザートの数々が並んでいる。

 恨めしきは自分の乏しい料理知識では、それがなんという料理なのかを推理するできないところだが。

 それらを適当にトングのような金具で装っていると、卵料理のところで他のトングとかち合ってしまった。


「――あら、ごめんなさい。

 そのエッグドートがとても美味しそうに見えたもんで……って、あんたもしかして東洋人? レイド使い?」


 女性の驚声につられてそちらの方を見ると、そこには黒髪ロングの涼やかな風貌の女性が立っていた。

 黒髪ロング、という髪型はこのパーティでは些か珍しいものだった。

 というのもラインケルという国は国民のほとんどが金髪か茶髪だったからだ。

 事実俺と雪菜は今日までの三日間で幾度となく、頭髪に向かう視線を意識せざる得ない場面に出くわした事があった。

 それは向こうの女性にとっても同じだったのだろう。

 俺の顔を見てレイド使いであるという見当まで一瞬でたどり着いてしまった。

 だがこちらから見ても同じことだ。もっとも、こっちはもう少しばかり踏み込んで言えるが。


「そうだけど、あんたもなんだろう? まぁ……この国のレイド使いではないみたいだけど」


 俺の言葉に女性はくりん、とした眼を益々丸くさせた。


「……どうして分かったの?」


「アンタの服装だよ。そのドレス、赤がまったくないだろ?」


 先程こちらに話しかけてきた貴族の集団。

 メッツォのとっておきの洋装一式。

 そして今日のために拵えられた俺達の服。

 みな共通して衣服の何処かに赤のラインが取り入れられていた。

 恐らくは赤色がラインケルの象徴なのだろう。

 しかしこの女性のドレスにはそれらしき部分が一つもない。

 それが意味することはただ一つ。

 この女性はこの国に与する女性ではないということだ。


 俺が説明すると、女性の方はおおっ、と驚嘆しつつ拍手し始めた。


「すっごーい! 君頭いいんだね!

 その通りだよ、私は隣のアプロム王国所属のレイド使いなんだ。

 あ、名前は川霧葉月かわぎりはづきね」


 ウインクしながら自己紹介する女性は、名前から察するに日本人であるようだった。

 そういえばこちらに召喚されてから、人種問わずに言語を意識せずに会話ができている。

 恐らくは召喚の術式に何らかの魔法がかけられているのだろう。

 とりあえず名乗られたのであれば、名乗り返すのが筋だろう。


「俺の名前は鷹山マト、三日前に召喚された。

 で、川霧さんか。なんで他国の人間がこの式典に呼ばれているんだ?」


「葉月でいいよ。こっちもマト君って呼ぶから!

 で、質問の答えだけど……この式典は他国の貴族も参加できるようになってるのよ。

 他国に自分たちの国にはこんなスゴイレイド使いがいるんだぞー! っていうのを見せつけるためなんでしょうね。

 私はタダでご飯が食べられればそれでいいんだけどさ」


 アハハ、と笑う葉月は話しながらもヒョイヒョイと自分の口に料理を運んでいる。

 それでいてよく此処まで流暢に話ができるものだ。

 しかしこれで彼女がこの式典に居る理由が分かった。

 そう考えるとこの料理の数々ももてなしの為というだけでなく、国力を誇示するための目的もあるのだろう。


「それで、君は三日前に召喚されたってことは……今日はじめてレイド能力を与えられるんだね!

 うっわー、なんかワクワクしてきちゃった!」


「なんで葉月がワクワクするんだよ」


「だってワクワクしない? この世界で一つだけの能力なんだよ!

 私の時なんか前の日はドキドキして眠れなかったなぁ」


 自分の過去を思い出して眼をキラキラさせている。

 そういえば葉月は既にレイド能力が与えられているのだ。

 一体どのような能力なのだろうか。


「葉月の能力はなんなんだ? せっかくだし教えてくれよ」


 そう尋ねると、葉月は一瞬キョトンとした顔をしたかと思うと、直後ムッフッフと不敵な笑みを浮かべ、腕組をしながらこちらを見下ろしてきた。

 ――しかし身長的には俺のほうが大きいので、正確には仰け反りながら見上げる形になっているのが涙を誘う。


「知りたい? そんなに私の能力を知りたい?」


 ドヤ顔を浮かべながらこちらににじり寄ってくる葉月。


「……やっぱいいや。別にそこまで知りたくもないし」


 俺の一言に、葉月の身体は見事にひっくり返った。

 どうやらあの体勢はかなり無理をして作っていたようだ。


「なんでよー! 気になりなさいよー!」


 無茶苦茶な物言いである。

 だがそもそもからして、気になれば後でメッツォに聞けばいいだけの話だ。

 この世界のレイド使いの情報はかなりのところまでオープンになっているようだし。


「ひどい! せっかく私の能力を実演付きでお披露目してあげようと思ったのに!!」


 ピーピーとうるさくなりだしたところで、不意に背後に人影を感じた。

 振り返ると、そこには金髪の無骨な印象の男性が立っていた。白いスーツの肩部には赤いラインが入っているところを見ると、ラインケルの者であろう。


「やけに耳障りな声が聞こえたと思えば、やはり貴様だったか……“天降ろし”」


残りは今夜、続きとして投稿予定です。

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