22 災厄顕現、あるいは”仮面”の復活
たいへんお待たせしてしまいすみません
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レイド能力が発動し、俺の周囲一切合切が光りに包まれる。
そして光は徐々に衰退していき、やがて輝きは収まった。
――だが、特に何かが起きた様子はない。
キンジョーも、周囲の兵士たちも怪訝な顔でこちらを見てくる。
「なんだ、何も起きないじゃないか。
まぁ、時限式なのかもしれんが、それなら尚の事放ってはおけん
何かされる前に……決着つけさせてもらう!」
キンジョーが両手で地面を打ち鳴らすと、それを合図に兵士たちが一斉にボウガンを構える。
即座に彼らは引き金にかけた指を絞り、次の瞬間俺に向けて大量の矢が――
――飛んで来なかった。
兵士たちは次々に手にしたボウガンをチェックするが、うんともすんともいかない様子だ。
「何故だ! メンテナンスミスか!?」「いや、キチンと今朝全てを調査した!」「なら何故起動しない!」「こ、故障した?」「15台一斉に壊れるなんてことがあるか!!」
阿鼻叫喚、混乱……統率が一切取れていない状況だ。急ごしらえの兵士だったのだろうか。
金にあかせて用意したツケがこういった形で現れているようだ。
「くっ……やるじゃないか、侵入者君。
なら、こっちは避けられるかな……!?」
キンジョーはそのままこちらに駆け寄りながら、腕による一撃を食らわせようとしてくる。
既にその体躯は10メートルに差し掛からんとしており、一撃でも喰らえば、そのままミンチと化して地面の染みになることだろう。
振り上げられた右腕が振り下ろされんとした、その瞬間
「残念ながら、お前の腕は……俺が支配した」
キンジョーの腕が、何かに縛り付けられたかのように動かなくなった。
さながら見えない鋲で釘付けにされたように、ピクリともしない。
「……何をした、貴様! これは……どういうことだ!」
力を振り絞って、腕を動かそうとしているキンジョー。
だが、その右腕一本だけが、どうしても動かすことが出来ない様子だ。
顔は岩に覆われており、その表情を伺うことは出来ないが、それでも彼の焦りは十二分に伝わってきた。
「……ええい、ならばこっちだ!」
続いてキンジョーは、左手で俺を薙ぎ払おうとしてくる。
怪力豪腕。轟音を伴って俺に迫りくるその腕も、また……
「言ったはずだ、支配したと」
俺の一言で、ピタリと動きが停まってしまう。
鼻先からほんの数センチのところで、腕は全く微動だにしない状態で停まっている。
「これは……お前の能力は、まさか……無機物操作か!?」
キンジョーは恐らく、俺たちの能力をある程度まで把握できているのだろう。
だがそれは全てではない。
正確な能力は、『万象に対する支配』
エネルギー、物質を支配するのがベリトの本来のレイド能力だ。
今の所は俺の実力不足と、彼女との同調が万全でないため、万全な状態で行使するのは不可能だ。
しかしそれでも無機物程度であれば支配・操作をすることは造作もない。
「どんな戦いであったとしても、終わりは存外あっけないもんだ。
……キンジョー、商談しようじゃないか」
かつて目の前の男が言ったように、俺は落ち着いた声で語りかける。
「へっ……生憎だが、こっちにレイズできる代物は存在しないぞ」
まさか俺にやり返されるとは思っていなかったのだろう。
気に食わない、としながらもきちんとこちらの話に返答するキンジョー。
やはりこういう所は、根が傭兵だからキチンとしているのだろうか。
「生憎俺は賭け事はしない主義でね。俺が求めるのはただ一つ、ここからの撤退だ。
今すぐに能力を解除し、そして後ろの部下たちを撤退させろ。
そうすれば……」
俺はそこであえて言葉を切り、キンジョーの反応を促す。
「……そうすれば、俺を見逃してくれるってか?」
おどけたように問いかけるキンジョーに、俺は無言で返した。
すると、突然彼はこらえきれなくなったように口を吹き出す。
「ふっ、ふふふ……侵入者君はずいぶんと俺を――いや、傭兵のレイド使いってのを舐めているな」
その言葉と同時にキンジョーの体から淡い光が放たれる。
同時に未だに庭園に散らばっている瓦礫が宙に浮く。
「俺達みたいな金で尻尾を振るような狗は、そのエサ代に見合った成果を出さないといけないんだ。
見逃してくれるからって、一度振った尻尾を巻いて逃げ出すような負け犬は――」
瓦礫は宙に浮きながら、徐々に俺達の周りを覆う。
そして次の瞬間、
「――どのみち死ぬしかねぇんだよ!!」
周囲に浮いていたそれらが、礫となって俺に襲い掛かってきた。
ライフル弾のような速度。拡張された視覚でなければ見切ることもできない。
もっとも、見切れたところで避けきれるかは全く別問題だ。
先ほどのボウガンの速度など比にもならない、文字通り別世界の速度。
恐らくはこれが、彼の隠し玉なのだろう。
だが、
「――哮りて狂え」
その一言で、瓦礫の弾丸は瞬時にして空中で停止し、真逆の方向に飛んでいく。
「なぁ……!?」
「残念だが、商談は決裂か。
とはいえ安心しろ、俺はもう少し温情深い……殺しはしないからな」
その言葉とともに、右手を上げる。
同時に、兵士たちが握っていたボウガンが宙に浮き、キンジョーに向けて一斉掃射される。
魔術によって強化された矢の雨が、尽くキンジョーの装甲を突き破る。
「グ、アアアアアアアアア!!」
キンジョーが苦痛の叫び声を上げた。
だが、その体は微動だにしていない。まるで石像のようである。
それは決して、キンジョーが無傷であるということではない。
レイド能力の行使によって、周囲一体の無機物は俺の操作圏内である。
故に、無機物を取り込んで装甲としているキンジョーは、自身で行動すること自体が出来ないため、倒れ伏すことすら封じられているのだ。
沈黙したキンジョーの姿からは、先程までの戦意一切が喪われている。
と、そんな時に遠巻きにそれを見つめている兵士たちからどよめきが広がるのが聞こえてきた。
そちらの方に意識を移すと、その詳細が鮮明に聞こえてきた。
「仮面のレイド使い――そしてあのレイド能力。
マスクだ……まちがいない……!」
年齢を重ねたのがすぐに分かるほどの老成された声だった。
俺のことをマスクと呼び、それに対して驚愕と恐怖が入り混じった感情が発露されている。
「じょ、冗談はやめろよ爺さん! 最凶のレイド使いはとっくの昔に死んだって話だろ!」
「そうだそうだ! それに、レイド戦争から何十年経ったと思ってんだ! あんなピンピンしたまま戦えるわけねえ!!」
それにたいして若い兵士たちは、非難と否定の言葉で返す。
どちらからも共通して伝わるのは、目の前の事実を拒絶したいことから始まる錯乱の感情だった。
「……だが、俺の親父が言っていたのと同じなんだよ!!
砲弾を止め、敵の動きを止め、戦場を支配するレイド能力! マスクだ!
奴こそ最強最悪のレイド使い――"マスク"だ!!」
爺さんと呼ばれた兵士は、そのまま遮二無二に逃げ出した。
周りの制止の声も聞かずに、一心不乱に駆け出すそのさまは、周囲の空気を一変させるのには十分だった。
これは好都合だ。
俺はゆっくりと兵士たちの方を向き直り、そちらへと歩み寄り始める。
彼らはそれを見てたじろぎ後ずさりはじめた。
さながら怪物を見るような表情を浮かべ、彼らは一人また一人と職務放棄をする。
蜘蛛の子を散らすように、彼らは手にしていた武器を捨てて逃げ出す。
最終的には、その場に残ったのは気を失ったキンジョーと俺達だけになった。
俺が全身の力を解くと、レイド能力も解除されたのか宙へ磔になっていたキンジョーの身体は地面に倒れ臥した。
『ふむ、図らずも都合よい状況になったな。リッカードを追うのにうってつけだ。
――それにしても、ようやく我の能力を使いこなせるものに出会えたか。
やはり貴様は"使える”奴だ、褒めてやろう』
「そりゃどうも……全然嬉しくない褒められ方だがな。
それよりも奴らに俺たちの能力が知られたままってのが、これから先どう影響するかだな
目的の支障にならなければいいが……」
『問題はあるまい、遅かれ早かれ知られ渡ることだ。
それよりも今は目先の目標に集中しろ。
リッカードが隠れた地下室の場所を検索するんだ』
「分かっている。すでにさっきから屋敷中の呼吸音を聞き取っているんだが……
妙だ、さっきの会話で聞いた荒い鼻息が全くどこからも聞こえてこない」
キンジョーと会話していた時、リッカードはフンフンと荒い鼻息を始終鳴らしていた。
それがどこからも聞こえてこないということは――
「――すでに逃げた後、ってことか!!」
『追うぞマト! まだ遠くには行っていないはずだ!』
「ああ……跳ぶぞベリト!」
言うなり俺は、両足での跳躍で夜空へと飛翔をしていった。
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次回は完成次第投稿します。




