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21 ”巨人”のレイド、あるいは覚醒

12tの怒れる男(メガロマニア)……ふざけた名前だが、油断するなよ。

 こっちはまだ、レイド能力が使えない状態だ。

 奴の能力がどんなものであれ、全力でかからんと死ぬぞ』


(言われなくとも……そうするさ!)


 ベリトの言葉に即座に返答すると、俺は足元に落ちていた岩をキンジョー目掛けて投げつけた。

 奴の攻撃がどういったものかわからないが、近距離戦を選ぶよりは、投石で様子を見たほうが良いだろうという判断からだ。

 タダの投石ではない。

 レイド使いとしての身体能力を十二分に活かした上での、全力の投石だ。

 投げられた石は、ライフル弾のソレに匹敵する速度で、まっすぐに突き進んでいく。


 キンジョーは全く避けることもせず、悠然と構えている。

 流石に石を、この速度でぶつけられてはタダで済むはずないと思うのだが……

 そして石は彼の右腕に真っ直ぐ突っ込んでいき、直撃した。

 普通であれば痛みで顔の一つでも歪ませるはずだが、表情は一切変わらない。

 いや、むしろこれは――


 ――投げられた石がキンジョーの腕の上で、溶け合うように変質していた。


 まるで石が、彼の鎧になっていっているかのようだ。

 それだけではない。よく見れば足元の地面も、少しずつ彼の身体を纏うかのように移動している。

 少しずつ、少しずつではあるが、キンジョーの体は周囲の物体を取り込んでいっていた。


『なんだこれは……!

 周囲の物質を取り込んでいるのか、奴は!』


「投石にも動じない理由がわかった……

 無機物を取り込む能力なら、いくら投げられようと装甲に変化させられるもんな」


「そのとぉーり!

 情熱的なプレゼントのお礼に、更に補足してやろう!

 この俺の装甲に限界はない! 纏えば纏うほど、俺の身体は巨大に、そして硬くなっていく!!」


 キンジョーの得意げな宣言のとおり、彼の身体は物質を取り込むほどに大きくなっていた。

 既にその身長は2メートルを有に越しており、その見た目はさながらファンタジー小説のゴーレムのようにゴツいものになっている。

 特に腕に至っては、通常時の10倍以上の大きさという、明らかに不釣り合いな大きさにまでなっており、今現在もハンマーのように膨れ上がっている。

 つまり、時間が経てば経つほどに状況はこちらに不利になっていくということだ。


「なら、そうなるまえに……その鎧剥がしてやる!」


 抜刀するは、腰元に差していたラズリーズ。

 間髪をいれずに振り抜き、斬撃を彼に向けて飛ばす。

 胴体ではなく、腕を狙い、攻撃手段を奪うのが狙いだ。


「ほう、斬撃を飛ばすとは中々面白い攻撃を持っているな。

 ……だが!」


 彼が腕をかざすと、庭に置かれていた石像が動き出し、斬撃から守る盾のようにキンジョーの目の前で立ちふさがる。

 当然石像は真っ二つになるが、そこで斬撃は消えてしまい、キンジョーへは届かない。

 しかも真っ二つになった石像は、そのまま溶けるように形を崩しながら、キンジョーの鎧へと変化していく。


「近くのものまで呼び寄せられるってことか……都合のいい能力しやがって」


「はっはっは、お褒めいただきありがとうございます

 てか、レイド使い同士の戦闘に、チートはつきものだろうが……っと!!」


 もはや3メートル程の大きさになったキンジョーは、その身からは想像もつかないほどの俊敏な速度で、こちらに飛びかかってきた。

 両手を組んで最上段からの振り下ろし……ダブルスレッジハンマーである。

 通常であれば隙の大きな、大ぶりの攻撃であるが、この腕の大きさと速度で放たれるソレは、もはや巨大落石並みの破壊力を持っている。

 俺は最大限に強化した脚力で右に跳ぶことで、なんとかそれを回避する。

 直後に攻撃が地面に着弾。

 噴煙が周囲に巻き上がり、辺りの視界が砂煙で見えなくなる。


『なるほど……連続圧死事件の凶器は、奴の拳だったというわけか!!』


「そりゃ、あの大きさの拳で叩き潰されたら、全身もペシャンコになるわけだ!」


 今となってはどうでもいい答え合わせであった。

 こうしている間にもキンジョーの体は周囲の石像を、装飾を吸収し続けている。

 時間が経てば経つほど状況は不利になる一方だ。

 先程から隙を見て斬撃を飛ばしているが、結果として奴の装甲を厚くするだけに終わっている。


 巻き上げられた粉塵が徐々に収まり、視界がひらけてきた……

 次の瞬間、俺に向けて無数の矢が飛んできた。

 四方八方から飛来する矢の雨。

 だがこの程度では……俺を捉えるには程遠い。キンジョーの拳よりも遥かに遅い。

 その全てを回避しながらも、俺は矢を放った連中の姿を視界に捉える。

 そこには屋敷のバルコニーに並び、こちらをボウガンで狙っている兵士達がいた。


「あれは……リッカードの部下共! もうコッチの方に気づきやがったか。

 だが、人数よりも矢の数が多すぎるような……?」


 並んでいる人数は十五人ほど。

 しかし先程俺を狙った矢の本数は、五十本を有に超えていた。

 明らかに数が合わない。


『あれはカンタータだな。

 端的に言えば、魔力による自動装填で、連射可能なボウガンだ。

 Eランク魔具だが、あの数で包囲射撃されれば、レイド使いとてタダではすまんぞ』


「当たらなければどうってことないが……ダメだな。

 次はキンジョーと、連携を取り出すに決まってる」


 そうなればもうこちらは終わりだ。

 矢の連射で逃げ場をなくしつつ、そこにキンジョーの本気の一撃を決められる。

 兵士たちに斬撃を撃ってもキンジョーに止められ、そこに矢の一斉掃射がやってくる。

 ……詰みだ。

 この状況のままで奴に勝てるヴィジョンが見えない。


『よくやったが……運が悪かったな

 我としてもこんなところで野望が潰えるのは口惜しいことこの上ないが……』


 諦観の言葉を呟くベリト。

 ――だが、俺はまだ諦めたわけではない。

 真実を求めると決めた以上、こんなところで弱音を吐く訳にはいかないのだ。


「何言ってる、まだ可能性は残ってる……だろ、ベリト?」


『なんだと? 貴様それはどういう――ッ!?

 ま、まさかマト、お前は……!?』


「ああ、そうだ……こっちもレイド能力を使う!」


 この状況のままでダメなら、一か八かベリトのレイド能力に懸ける。

 絶体絶命の状況で、起死回生の一手を打つとしたらそこしかないのだ。


『だ、だがまだレイド能力の復旧は未完成で――』


「どうせこのまま放ってけば、二人共死ぬなら同じことだ!

 それに――」


 俺はそこで言葉を一旦置くと、


「――それにどうせ死ぬなら、俺はお前に懸けて死にたい。

 お前のレイド能力、お前の執念に、お前のたった一人の共演者として……!」


『マト、貴様……』


 俺の叫びがベリトの心のどこまでに届いたか分からない。

 だが、俺の言葉に一切の嘘偽りは無い。

 共に歩むと決めた以上、生半可な気持ちでベリトの夢を諦めさせるつもりはないのだから。


『……いいだろう、そこまでの口上を聞かされて、黙ったままで入れる我でもない。

 ならば見せてやろうではないか……我が生涯を捧げた、唯一無二にして最凶最悪のレイド能力を!!』


 ベリトが叫び、吠え、そして俺の視界は揺らぐ。

 世界中に彼女の声が響き渡るかのような、姦しい残響が俺の耳を支配する。

 同時に、俺の身体から鮮血の如く真赤な光が放たれる。


「あれは……マズイ! お前たち、俺の準備に構わず撃て!」


 キンジョーの檄が飛び、兵士たちは手にした連射式ボウガンカンタータで、一斉掃射を仕掛けてきた。

 ……だが、もう遅い。

 放たれた矢は、その尽くが俺の身体をすり抜け、そのまま地面に突き刺さる。

 レイド能力を発動中、レイド使いには攻撃が通用しない。

 改めてそれが真実であったと気付かされた。


    ――――屍骸の幽山 黒血の大河


 ベリトの声が、周囲に響く。

 レイド能力の詠唱が発動されたのだ。

 同時に俺の脳内には、地獄絵図とも形容できる景色が映し出された。

 辺りは一面の荒野。そして横たわる無数の屍体。溢れ出る死血。

 これは……恐らくはベリトの中にある、心象世界そのものなのだろう。

 なんとおぞましく、恐ろしい景色か。

 一切の温もりも無く、一条の光さえ差さない、虚無と絶望の空間だ。


 俺はベリトの言った、「我が能力を使いこなしてみせろ」という言葉を思い出した。

 彼女の能力を使いこなすということは、つまりはこの景色をみつめ続けるということだ。

 彼女の中にある地獄を、取り込み続けるということなのだ。

 あらためて、自分がとんでもない存在と契約してしまったことを思い出す。

 普通であれば、神も仏も、こんな女からは裸足で逃げ出すだろう。




 ……だが、俺はベリトの能力と向き合うと、そう決めた。

 だから躊躇わない、逃げない、向き合い続ける――!


「来いよ、ベリト。お前の全てを受け止めてやる!

 お前の絶望、そして怒り。

 その全てを――


    ――――全てを呑み干し、われは嗤う……!」


 最後の言葉と、詠唱は同時だった。


 俺の身体から放たれる光が、屋敷一面を包み込んだ。

 そして身体の中で、俺とベリトの意識の境界は崩れ、俺達は1つになる。

 さぁキンジョー、お待ちかねの瞬間だ。

 これから始まる仮面劇の、その最前列に招待してやる。

 その演目名のうりょくめいは……


「…………厄災顕現ダムネイション


 それは、俺とベリトにとっての真の覚醒の瞬間であり――

 そしてこの世界に、最凶最悪のレイド使いが復活した瞬間であった。

お読みいただきありがとうございました

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次回はちょっと間があきますが、少々お待ちください。

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