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19 潜入作戦開始、あるいは作戦計画書

「……さて、潜入にあたってだが。

 ベリト、確か宿屋でお前は、機能を一部回復したと言っていたな」


『言ったとも。それも今回の潜入にうってつけのものだ』


 俺の問いに、ベリトは仮面を通じて自慢げに返した。

 それがどんなものか知らないが、少なくとも今は頼れるものはなんでも利用させてもらおう。


「なら早速教えてくれ。

 今の俺は何が出来るようになったんだ?」


『単純に言えば、身体機能の大幅な活性化、および強化だ。

 昨日の戦闘時よりも大幅に運動能力は向上しているし、五感は数十倍に拡張されているぞ』


 ベリトの言葉を言い換えれば、俺の身体は今、非常に強化されているということになる。

 昨日の時点で大分常人からかけ離れていた気がするが、それよりも更に強くなっているということだ。

 更に五感の拡張というのも気になった。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚が向上されているということは――


「――ってことはもしかして」


 俺は改めて目を凝らすと、100メートル先にある、リッカードの屋敷をみつめた。

 すると、意識すればするほど、その詳細が見て取れる。

 普通であれば決して見ることが出来ないような、窓の先にある部屋の中身すら視認できた。

 まるで自分の目が高性能望遠鏡になったようだ。


「スゴイな……レイド使いってのは」


『全てのレイド使いにコレが出来るわけではないぞ?

 我が特別なだけだ。フッハッハッハッハ!』


 自慢げに高笑いするベリトだったが、その気持ちもわからなくはない。

 正直言って俺も、この状況に心ならずもテンションが上がってしまっている。


 と、ここで俺は窓に映る人影に気づいた。

 他の部屋と比べても明らかに豪華な内装に、豪華な革張りの椅子。

 そこにふんぞり返るようにして座る、一人の男の姿があった。


 傲慢にスーツを着せたかのような、居丈高な男。

 ……俺はその姿に見覚えがあった。

 二年前の式典で、壇上から降りた時に俺に絡んできた貴族。

 あの時メッツォがたしかに、貴族のことをリッカード卿と呼んでいた。

 数瞬の出来事だったし、直後監獄に送り込まれたから脳の何処かに置いてきてしまったが、まさか彼がリッカード・ウィンザーだったとは。

 だが、彼が部屋にいるのなら話は早い。

 あの豪華な部屋が執務室として、先ず間違いないだろう。


「……ベリト、向かうべき部屋が見つかったぞ」


『あの部屋か。噂を聞く限り慎重な性格かと想っていたが……

 窓際を執務室に選ぶあたり、まだまだツメが甘いな。

 私であれば、この距離から投石で一発で殺せるぞ』


 俺であっても、その方法は考えつく。

 あるいは、この警護状態にそこまで自信を持っているということか。


「どちらにしろ、あそこまで行くには骨が折れそうだが……」


『問題ない。今の貴様なら、この距離ぐらい跳んで見せるだろう』


「……そう言ってくれると思った!!」


 ベリトの言葉を受けて、俺は助走とともに丘をてっぺんから跳びあがる。

 蹴上がった身体は重力の支配を抜けて、瞬間――夜風に包まれる。

 そのまま俺たちは放物線を描くと、屋敷の屋根に着陸する。


 ……本当に一息で屋根まで飛んでしまった。

 生半可な強化ではここまで出来ないだろう。

 改めてベリトの秘めた能力というものに驚嘆する。


『まだ本気はこれからだぞ? 貴様次第で、この三倍以上は動くことも出来る。

 我の期待に応えられるかは、貴様がこの力を使いこなせるかどうか次第だな』


「そりゃまた期待が重いね……っと、静かに!」


 足元から微かに聞こえてきた声。

 ベリトの声を抑え、同時に聴覚を研ぎ澄ませる。

 すると、男と思わしき足音と、扉を開ける物音がクリアに聞こえてきた。

 これも今の俺が使える、強化能力の一つなのだろう。

 屋根を越えた先の声も聞こえるというのなら、諜報活動の必要もなくなってしまう。

 宿屋でベリトが言っていたことは、あながち間違いでもないのかもしれない。


 物音についで、男の声が聞こえてきた。


「キンジョー、君か。ノックもせずに雇い主の部屋に入ってくるとは、やはり黒髪人は躾がなっていないようだな」


「へいへいすみませんねぇ、こっちも雇い主様に急ぎの用事があったもんでさ」


 最初に聞こえた苛ついた男の声、これは間違いなくリッカードのものだろう。

 二年前に聞いたものと同じだ。

 次に聞こえてきたのは、キンジョーと呼ばれた若い男の声だ。

 飄々とした話し方に、雇い主という発言……

 俺の推測が正しければ、こいつこそ雇われたレイド使いだろう。

 やはり俺たちがたてた推理は正しかったのだ。


「……いいか、私は君に金を払い、用心棒として雇っている。

 しかも少しじゃない、莫大・・な金を払っているんだ!!

 その金額には、私に対する生活の質の確保も含まれている!

 生半可な要件であれば、許さんぞ!?」


「こっちも些細な事ならこっちで解決するよ。

 例えば……商売敵が雇った暗殺集団の撃退、とかな。

 だが今回はそうもいかない。レイド使いがアンタを狙ってる」


「なっ……レイド使いだと!?」


 キンジョーの発言に、途端に驚愕の叫びを上げるリッカード

 しかし驚いたのはこちらも同じだった。

 この男は既に、屋敷に俺たちが侵入したことに気づいている。

 ほとんど音も無く着地したと言うのに、驚くべき察知能力だ。


「そ、それで……侵入したレイド使いはどこに居る!?」


「こっちもこれから探し出すところでね。

 音は聞こえたんだが、一瞬すぎて音の居場所まではわからなかった。

 探す前にアンタに伝えとかないといけないと思ったんだ」


「バ、バカモノ! 何をグズグズしてるんだ!

 早く侵入者を見つけろ! そして殺せ!!」


「……へいへい、りょーかいしました、よっと。

 そんじゃ、アンタは安全・・な地下室に避難でもしててくれ」


「そ、そうさせてもらおう!!」


 リッカードの慌てる声と共に、ドタバタとした肥満気質の足音と、バタンッと乱暴に戸を開ける音が聞こえてきた。

 どうやら、かの貴族殿は文句を言うだけ言って、自分はとっとと避難したらしい。


「……けっ、守銭奴が」


 完全に走り去ったのを察したのか、キンジョーは雇い主への文句を吐き捨て、彼もまた部屋を後にした。

 どうやら主従関係は良好とは言い難いようだ。

 何にせよ、今この瞬間、執務室は空になった。

 潜入するとしたら、今しかない。

 俺は念波を送って、ベリトに合図を送る。


(……降りるぞベリト)


『ようやくか、じっとしているというのも飽きるものだな』


(お前は最初から仮面の中だろ……っと!)


 極力音を建てないようにしつつ、ベランダから執務室内部に侵入する。

 窓ガラスは閉められていたが、上部の換気用に開けられた窓から入ることが出来た。


(時間はあまりない。早く書類を見つけないとだが……)


『おいマト、どうやら貴族様は早速、今日の新聞記事を読んでいるみたいだぞ』


 ベリトの言葉を受けて、執務室に置かれた机の上を見ると、そこには、俺達が今日読んだものと同じ新聞が置かれていた。

 向こうはユーガーが死んだことを知っている。

 であれば、先ほどの狼狽えようはそれを知ってのことだったのかもしれない。

 しかしこれを受けて警備が、今以上に厳重になるのは容易に想像がつく。

 やはり今夜中に決めなくてはならない。


『しかし……この部屋の中から貴様の求める書類を探し出す、ときたか

 今夜中には絶対に見つからないだろう、これでは』


 彼女が言うとおり、執務室には机だけでなく棚が多く置かれており、書類が所狭しと置かれている。

 この中からメッツォ殺害事件との関わりを示す書類を探すのは手間だろう。

 そもそも書類が残っていることすら確証がない。

 加えて、いつキンジョーや兵士がこの部屋に入ってこないとも限らない。

 普通に考えれば不可能な状況だ。


 だが――


「――心配するな、ベリト。

 俺達はラッキーだった。

 そう、リッカードがこの新聞記事を読んでいてくれたことが……

 俺たちに真実を届けてくれる」


 視覚拡張。

 強化された視界が、部屋全体の詳細をひと目で俺に送る。


 執務室に置かれた棚は数多い。

 その殆どは帳簿か、過去の書類なのだろう。ほとんど読まれた気配はない。

 棚の取っ手にも、時間とともに積もったほこりが付着している。

 当然だろう。そういうものはいざという時にしか読む必要がないからだ。


 しかし、もし彼が新聞記事を、事件の仲間が死んだ記事を、もし読んだのなら……

 小心者の彼が次にどうするか、俺には手に取るように分かる。


 いざという時・・・・・・のための書類を確認する。間違いなく。


 つまりこの中で、取っ手にホコリが付いていない棚を探せばいい。

 その中に俺達が求める書類があるはずだ。


「……ビンゴ」


『……さすが、と言うべきか。

 よくぞここまで使いこなすものだ』


 そして、それ・・は実際、いとも簡単に探すことが出来た。

 ホコリが付いていない棚の中に、いかにも無造作に突っ込まれた箱。

 その中に入っていた、一枚の書類。

 その文面には……


【メッツォ・サースライト殺害、及び当該レイド能力者の確保計画書】


 俺が求めていたもの、そっくりそのままがそこにあった。

 逸る気持ちを抑え、俺は書類を読み進める。


【目的:メッツォ・サースライトの暗殺。そして彼が召喚する運命確定能力者の確保】


 ……おかしい。

 読んだ瞬間に俺は違和感に気づいた。

 運命確定能力者というのは、先ず間違いなく雪菜のことだろう。

 だが、何故この作戦を立てた奴は、彼が雪菜を召喚すること・・・・・・・・・を知っていたのだ?

 レイド能力は、能力授与の式典まで本人にも召喚した貴族にもわからない。

 少なくとも俺はそういう説明を受けた。

 にもかかわらず、この作戦は文面からして式典前に書かれているのに、まるで雪菜の能力を知っていたかのようだ。

 一体誰によって建てられたんだ?

 よく見ると作戦参加者の名簿が、作戦内容の下に書かれている。


【参加者名簿】

【ユーガー・フラテス(実行担当)】

【リッカード・ウィンザー(実行担当)】


 まず最初にユーガーとリッカードの名前がかかれていた。

 彼ら二人は実行犯を担当したらしい。

 そのまま下の方を読み進める。


【アントン・ブルースタンス(人材担当)】

【イルハム・アル=スライマン(財源担当)】


 知らない人物の名前がここに来て出てきた。

 彼らもまた作戦に関与しているようだが、どうやら立案してはいないらしい。

 詳細は気になるが、今は後回しにしなくては。

 求める作戦立案者は、その下に書かれていた。


【ロード・ペルソナ(作戦立案者)】


「……仮面の指導者ロード・ペルソナ?」


 コレが本名……なわけないか。

 恐らくは仮名か、それに近しい称号なのだろう。

 これでは本人の個人性パーソナリティについて何もわからない。


『であればちょうどいい、リッカード本人に聞けばいいだろう』


 ベリトの提案は、この場で降ろせる決断としては最も妥当だった。

 奴であればこの、ロード・ペルソナという人物について、何らかの情報を知っていてもおかしくない。


「確か、地下室に行ったと言っていたな。

 恐らくすぐに見つかるだろうが……」


「おっと、サービスタイムはそこまでだ」


 飄々とした声が、扉の方から聞こえてきた。

 緊張を隠しつつ、ゆっくりとそちらの方を見ると、そこには――

 ――にこやかな笑みを浮かべた、二十代の東洋人男性が立っていた。

 緩やかな洋服を着ているが、その立ち振舞には隙が一切ない。

 彼こそ間違いなく……キンジョーだろう。


「さぁ……ここからは商談のお時間だ、侵入者君」

お読みいただきありがとうございました。


次回は明日投稿予定です。

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