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12 伝説の魔剣、あるいは命の価値

ギリギリでしたが、投稿していきます。

『ラズリーズ……まさかあんな貴族が持っているだと!?』


 ユーガーが手にしたラズリーズを見た途端、ベリトの表情が一変した。

 さきほどまでの余裕溢れた態度は消え失せ、相手の出方を伺っている様子だ。


(ベリトはあの剣が何なのか知っているのか?)


 俺はベリトにだけ聞こえるように、仮面を通して思念を送る。

 どうやら契約した結果、俺と彼女の間にはなにやら精神的な繋がりが生まれたらしい。


『ラズリーズは、数百年前に作り出された剣の名前だ。

 ラインケルに伝わる"魔具"の中でも国宝級に貴重な一品……Sランク魔具だ』


「その"マグ"ってのは、"魔"法の道"具"って書いて魔具って呼ばせるのか?」


『あぁ、その解釈であっている。

 ――魔具はこの世界の至る所に広まっている。

 お前が式典を受けた街の明かりは、だいたい光魔法の魔具によって照らされている。

 高価だから富豪か貴族くらいしか、普通は手に入らん一品だがな。

 魔具は国によってランクが設定されており、ランクが一つ違えば値段の桁も跳ね上がる』


(……で、あの剣はその中でもひときわヤバイ一品てことか)


『ラズリーズはSランク魔具。国宝級の価値がある。

 我も現物を見られるとは思わなかったが……あのオーラは本物のソレ・・だろう。

 気をつけろマト。例え相手がロクに剣術を使えない貴族であったとしても、あの剣を握っているのなら話は別だ』


 ベリトが俺に注意を促すと同時に、ユーガーはゆっくりと俺に歩み寄ってきていた。

 先程までの慌てふためきようが打って変わって、演技がかった所作で剣を構えている。


「ふ、この世界に召喚されてから、ロクに外の世界を見れなかった君は知らないかもしれないな。

 この剣はラインケル最高級の魔剣の一つ。かつてこの国を荒らし回った悪魔を封印している、破壊の剣だ。

 メッツォとエマーズ殺害の報酬として、私が頂いたものだ」


 気味の悪い笑みを浮かべながら、ユーガーはこれみよがしに刀身を俺に晒してくる。

 黒い上品な光が切っ先から根本まで光条となって走った。

 どうやらユーガーはその魔剣によっぽどの自身があるようで、俺に向かって懇切丁寧に由来まで教えてくれる。

 この言葉が正しければ、ユーガー一人で殺害計画を建てたのではなく、誰かと共謀したということか?

 しかし今聞いたところで、教えてくれそうにはないだろう。


「へぇ、そりゃご丁寧にどうも。

 でも良いのか? そこまで言われて丁寧に食らってやるほど俺は親切じゃないぞ」


「あぁまさか! 私だって君みたいな輩にそこまで親切にしてやる義理はないとも。

 だが、いくら君でも見えない斬撃・・・・・・を避けるのは至難の業……だろう!!?」


 それと同時に、ユーガーは逆袈裟斬りの要領でラズリーズを切り上げた。

 俺と彼には未だ10メートル以上の距離があった。

 普通であれば当たるわけもなく、黙ってそれを見ているだけだっただろう。


 ――――だが、この攻撃は明らかに普通・・じゃなかった。


「マズイ……!!」


 とっさに俺は右に向かって跳躍する。

 すると先程まで俺が居た場所の地面がえぐれ、そのまま斬撃痕を残して直進していく。

 間違いない、これは不可視の飛ぶ斬撃だ。

 とっさに回避したことで俺は難を逃れたが、その斬撃は未だ勢いを殺さずに突き進む。

 その進行方向には――


「う、うう……」


 ――ようやく意識が回復しかけていた兵士の姿があった。


「おい、危ない!! 避けろ!!!」


「……え?」


 咄嗟にその兵士に警告を発するが……遅すぎた。

 朦朧とした意識の兵士では、高速で飛来する斬撃を避けきれるわけもなく、あっけなく斬撃は彼の身体を通り過ぎる。


「お……ユ、ユーガー様……?」


 一拍遅れ、彼の左肩から右横腹にかけて紅の斜線がかかる。

 次の瞬間には、兵士の身体は真っ二つに裂かれていた。

 鎧に胴体は完全に覆われていたはずだが、それすらもバターのように滑らかに切り裂いている。


「くそっ……」


 俺が悔しがるのと対象的に、ユーガーは惨たらしい姿になった元部下に対して、尚も冷酷な視線を向けていた。


「ふん、キチンと避けることもできんとはつくづく使えん部下め

 まぁいい、元より貴様達は金だけむしり取り、与えられた仕事もまともにできん連中だ。

 ここでマト・タカヤマ同様に、ラズリーズの試し切り相手になるがいい」


 ユーガーの発した言葉は、事実上の処刑宣言だった。

 その言葉は周囲の兵士たちに衝撃と絶望を与えた。


「そ、そんな! お、お慈悲を!」

「これまで10年余りも使えてきたではありませんか!!」

「お許し下さい!」


 だがユーガーはそれらにも全く意に介さない様子で、


「黙れ。所詮貴様らは金で雇われただけの、使い捨ての道具に過ぎん。

 道具なら道具らしく……最後は持ち主の役に立て!!」


 反吐が出るような叫びと同時に、再び俺に向けて剣を振る。

 それも今度は一度ではなく、二度三度。

 素人目に見ても酷いと分かる太刀筋だった。

 だがラズリーズに秘められた魔力が、その三流の剣戟を必殺の一撃に変える。

 見えざる斬撃が二重三重と、波になって次々に飛来してくる。


「くそっ! 好き勝手やりやがって!!」


 可能であれば接近してユーガーの顔にでも一撃食らわせてやりたいところだった。

 しかし飛んでくる剣戟があまりにも高速なのと、連続でやってくることで避けるのがやっとだ。

 そして俺が避ける度に、周りの兵士たちが切り裂かれ――周囲に悲鳴と鮮血が溢れる。


『ハハハハハハハッ!! あの貴族、最初はタダの小物だと思ったが……

 なかなかどうして、大した外道じゃないか……面白い!!』


 なにが楽しいのかわからないが、ベリトはユーガーの行いに愉悦の笑い声をあげる。

 一方こちらはレイド使いの身体能力を持ってしても、避けるのが精一杯だった。


「どうしたどうしたマト・タカヤマ!! それがお前の全力か!?

 この私に手も足も出ないじゃないか!」


 高笑いと共に、相も変わらず剣を振り続けるユーガー。

 俺はそれを避け続け、数瞬後に兵士の断末魔があがる。

 それからも俺は回避を繰り返しながら、なんとか状況打破しようしとしたが……




「いよいよ進退窮まったな、マト・タカヤマ」


 気がつけば、俺は大断崖の先端まで追い詰められていた。

 既に兵士たちは、その全員がラズリーズの餌食となって物言わぬ死体と化している。

 三方向を大断崖に囲まれた状況で、俺はユーガーと対峙する。


「もう逃げ場はないぞ。正真正銘ここが貴様の死に場所だ。

 ここまで手こずらせおって、帰ったら部下の補充をしなければならんな」


 余裕の笑みを湛えながらユーガーは剣を構える。

 左右後ろに避ければ大断崖を転げ落ちることになる。

 落下中に追撃を受ければ今度こそ避けられない。

 上に飛び上がればその隙を狙ってくるだろう。

 ――ハッキリ言えばコレ以上避けるのは不可能な状況だ。


 絶体絶命の場面であるが、俺はそれでもユーガーに問い詰めたいことがあった。


「……お前にとって家来や民衆というのは……金で買える、替えが利く存在なのか?」


「なにを当たり前のことを……金があればなんでも買える!

 地位も、名声も、人の命すらも!!

 あそこで転がる部下とて私が買ったものだ!

 私が何をしようと、誰にも文句は言わせるものか!!」


 その言葉に、俺は不意に召喚初夜でのメッツォが言った言葉を思い出した。

 アイツは貴族ではあったが、少なくとも人々を変えの利く物のように扱ってはいなかった。

 領主として、統治者として自分にできることを必死に考えていた。


 ――改めて目の前の貴族を見つめる。

 人の命を何とも思わず、自分の利益の為に利用し続ける……

 そんな奴に、メッツォは殺されてしまった。


 不意に、俺の心に仄暗ほのぐらく灯る感情が芽生えた。

 憤怒よりも熱く、悲哀よりも冷たい――暗闇のような感情だ。

 その正体は俺自身にも分からない。


 だがその時俺は確かにこう思った。

 コイツに生きる価値はない・・・・・・・・と。

 

「マト・タカヤマァ!!

 貴様を殺した後、ラズリーズを利用して私は更に成り上がる!!

 メッツォも貴様も、私の野望の為の踏み石に過ぎんのだ!!

 我が野望の為に……死ねぇえ!!!」


 半ば正気を失ったかのような絶叫が大断崖に響き渡る。

 ユーガーは狂乱状態のまま剣を最上段に振り上げ、これまでで最大級の溜めと共に振りぬく――



 ――よりも早く、俺は渾身の力で足元の地面を踏みつけた。



 周囲の地表に大きな揺れが走る。

 それは斬撃が発生するよりも早く、ユーガーの足元にも広がる。


「なっ……ぬ、ああああああああ!?」


 ユーガーは振り抜くこともできず、体勢を崩して転げる。

 俺はその隙を見逃さない。

 持てる全速力で彼の元へと疾走すると、手元からこぼれ落ちていたラズリーズを奪い取る。

 そのまま抜き去ると、俺は彼から数十メートルは離れた場所まで一息で走り抜けた。


「き、貴様! よくも私のラズリーズを!! 返せ!!」


 激昂しながら、よろよろと立ち上がるユーガー。

 しかし、その足元には既に……俺が蹴りつけたことで発生した地割れが迫っていた。

 地面に生じたヒビは加速度的に広がっていき、やがて彼の周辺全てを埋め尽くした。


「こ、これはまさか……」


 ユーガーが気づいたときにはもう遅い。

 ヒビは裂け目となり、裂け目は亀裂となり……そして亀裂は地面を崩す。

 その場から逃げ出そうと駆け出す彼を、大地の崩落が飲み込んだ。


「うわああああああああああ!?」


 それを見届けた俺は、ゆっくりと崩落した崖のそばへと歩み寄り

 足元に広がる大地の裂け目を見下ろした。

 ……そこには何とか崖のフチにしがみついているユーガーの姿があった。


「ぬ……ヌウウウウウウウ!」


 完全に落ちかけていたかのように見えたが、間一髪のところで崖の淵をつかむことができたらしい。

 両手で必死に掴みながら、這い上がろうとしている。

 しかしロクに体を鍛えたこともない生活が祟ったのか、腕にいくら力を込めてもその体が持ち上がる様子はない。

 そうこう奮闘しているうちに、上から見下ろす俺に気づいたようで、懇願するように媚びた声で話しかけてくる。


「た、助けてくれ……」


 助命の嘆願。

 数時間前に俺を突き落としたユーガーが、今度は自分自身が落ちかけ、俺に助けを求めている。

 しかし俺は手を差し伸ばすこと無く、彼に向けて話かけた。


「ユーガー・フラテス、さっきお前はこう言ったな。

 金で買えないものはない、例え人の生命でさえも……と」


「そ、それがどうした!! 早く……早く私を助けろ!!!」


 両腕に疲労が溜まってきているのか、さっさとしろと言わんばかりに声を振り絞るユーガー。

 だが、俺はそれにも構わず話を続ける。


「一つ、質問をさせてもらう。

 お前は、自分の命にいくらの値段をつける・・・・・・?」


「か、金が欲しいのか!? それなら……わ、私を助ければメガリオン金貨30枚をやる!!

 貴様のような庶民には、一生かかっても稼げん金額だぞ!!」


「……金貨30枚、それがお前の命の価値。

 そう言うことでいいんだな?」


「ま……待て! 100枚だ! 金貨100枚やる! だから助けてくれ!!」


 俺の言葉を脅迫ととったのか、青ざめた表情でユーガーは訂正してくる。

 それに対して俺は無言で返す。

 ユーガーの身体がずり落ちた。徐々に限界が迫っているようだ。


「わかった! 金貨だけじゃない! 私から口聞きして貴様にかけられた罪を消そう!!

 その上で貴族の位もあげようじゃないか!! これで生活には困らんだろ! だから早く……!」


 黙っているだけで、どんどん助けた時の報酬が跳ね上がっていく。

 俺はそれを冷めた眼で見つめつづける。

 彼の身体は更に地面に引っ張られ、もはや一刻の猶予もない。


「う、うううう……なら全部だ!

 私が持っている全てをやる!! 貴様が望む全てを私は与えよう!!

 だから……だからお願いします!! 助けてくださいぃいいいい!!」


 半狂乱になりながら、とうとう所有する財産の全てを与えようと宣言するユーガー。

 口調も尊大なものから、へりくだった懇願のものに変わる。


 それを聞いて、俺はようやくユーガーに向けて右手を差し出した。


「た、助かった……!!」


 ユーガーはこれ幸いとばかりに必死の形相で、差し出された右手を両手で握りしめる。

 そこまで俺は確認すると、改めて口を開いた。


「持っている全財産、それがお前の命の価値。

 ――そういうことだな?」


「あ、ああ! なんでもやろう!

 約束だ! なんなら引き上げてくれればすぐにでも血書を書こうじゃないか!」


 ユーガーは安堵で顔を緩ませながら、卑下した声でそう答える。

 俺はそれを聞き、差し出した右手にグッと力を込め――








「だが俺にとって、お前の命の価値は……ゼロだ」





 ――ユーガーを握っていた手を放した。


 彼の身体は全くの虚空に浮かぶことになり……そして落下する。


「あ――あああああああああああああ!!!!!」


 彼にとって最期となる絶叫が、大断崖全体に響き渡る。

 そしてそのまま、ユーガーの体は崖の底に広がる暗闇へと飲み込まれていき、やがて何も見えなくなった。

 あとに残ったのは、断末魔の叫びの残響。


 そして俺とベリトと……

 そして彼が遺したラズリーズだけだった。

お読みいただきありがとうございました。


2日連続三話投稿なんてことやったせいで、書き溜めがピンチです。

とはいえここまでのお話をなんとか日曜日にお届けしたかったので、しかたなしといったところです。


次回は明日投稿予定です。

さすがに0時はキツイのでやりません。

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