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11 初戦闘、あるいはレイド使いの力

投下していきます

「マト・タカヤマ……

 何故、貴様がこの場に!? 確かにこの目で谷底に落ちる所を見たのだぞ!」


「確かに落ちたさ、そして戻ってきた」


「馬鹿な……今まで誰も昇れなかった大断崖を、どうやって登った!?」


「どうやって、か……跳んだんだよ、崖を」


 言葉通りの意味だった。

 仮面をかぶった状態の俺は、レイド使いと同等の身体能力を手にしていた。

 普通であればとても登坂できないような状態の崖だったが、全身の筋肉を活かすことで跳躍するように登ることができた。


「……バカな、ありえん」


 当のユーガーは俺の答えを全く理解出来ていないようだった。

 いや、理解したくないのかもしない。

 いままで無力であったはずの存在が、想像の埒外の力を手に入れて――今ここに立っている。


『ふん、どうやらこの貴族様はこういう事態になることを全く予期できなかったようだな。

 ――恐るべき想像力の欠如だ。

 だから目の前で何が起きているか信じられない。戸惑い、うろたえることしか出来ん』


 ベリトはユーガーのうろたえる顔を覗き込みながら、意地の悪い笑みを浮かべる。

 しかしユーガーは彼女の姿に気づいていないようだ。

 やはり俺以外には姿を見えないのか?

 しかし崖の底で俺は、仮面をかぶる前から彼女の姿を確認できたはずなのだが……


今は・・そうしているだけだ。

 姿を見せるも隠すも我次第。そのほうが貴様にとっても都合が良かろう?』


 俺の疑問を察したのか、ベリトはそれに対して適切な答えを返してくれた。

 都合のいい身体をしているが、事態をややこしくしないでくれるのはありがたい。

 俺が『マスク』の能力を手に入れたと知られるのは、まだ(・・)今じゃない方がいい。


「さて、ユーガー、俺は質問に答えたぞ。

 今度はお前の番だ。質問に答えろ」


「…………」


 ユーガーは未だに絶句したまま、呆然と俺を見つめている。


「黙っているのは終わりだ。

 俺はお前の質問に答えたんだ。お前が答えなければフェアじゃない――」


 ユーガーの質問に答え、ユーガーに質問をする。

 あくまでフェアであることを相手側に印象づける、これは俺の哲学でもあった。

 本当に公平であるかどうかを判断するのは難しいし、この際関係ない。

 公平感・・・があることが重要なのだ。


「――ユーガー、答えろ。

 あの日……二年前にあった選定の儀で、お前がメッツォとエマーズを殺したのか?」


 俺の質問に、ユーガーの表情がピクリと動いた。

 大断崖で突き落とされる直前に聞いた時と比べれば、だいぶ分かりやすい反応だ。


「質問を変えようか……何故殺した?

 お前たち首都に住む上級貴族なら、メッツォのような地方に住んでる辺境伯を相手にする必要はなかったはずだ」


「……そんなに知りたいか? お前を大断崖に落としたきっかけを、そこまでして知りたいのか?」


「あぁ、今の俺に必要なのは真実。ただそれだけだ」


 俺がそういうと、ユーガーは――


「なるほどなぁ……だが、君は質問を二つした。

 だから答えてやれるのは最初の一つだけだ」


 底意地の悪いニヤケ顔を浮かべた。


「……そうだよ、私たち・・が殺した!

 あの品行方正な田舎ザルに、都会の流儀とやらを教えこんでやったのさ……!

 君にも見せてやりたかったなぁ……死ぬ間際のアイツの表情を!!」


 なにがおかしいのか口角から泡を飛ばして、ユーガーは狂笑を上げている。

 監獄で見せた、すました態度が嘘のようだ。


「エマーズは違うだろ。彼は式典の進行を任されるほどの上級貴族だったはずだ

 これがバレれば貴様も只じゃすまないぞ」


「ふん、奴はこれから始まる新たな流れについてくることも出来ない老いぼれだ。

 失ったところで痛くも痒くもないな。

 どちらにしても……今から死ぬ貴様には関係のない話だが」


 ユーガーが右手を挙げると、周囲の空気が一変した。

 あたりを見回すと、部下の兵士たちが俺の周囲を包囲している。

 各々が剣、槍を手に携え、皆一様に切っ先を俺の方に向けている。


「通例では我が監獄の処刑は、大断崖に突き落とすことで執り行われているが……

 今現在をもって変更しよう。

 八つ裂きにされて悶え死ぬが良い!!」


 処刑宣言と同時に、ユーガーの右手が振り下ろされる。

 その瞬間、周囲の兵士たちが一斉に俺に向かって突撃してきた。

 俺はその様子を冷めた眼で見つめながら、目の前のユーガーに向かって口を開く。


「話し合いで聞き出せるのはここまでか。

 なら、尋問・・はここまでだ、ユーガー・フラテス」


「……なんだと?」


 俺が落ち着いているのが不可解なのか、眉を吊り上げながら問い直してくる。


「わからなかったか? じゃあ分かるように言い換えよう。

 ここからは、拷問・・の時間ってことだ……!」


 俺がそう告げると同時に、右脇から兵士が槍で突いてくる。

 背後からは剣の斬撃が、左からは刺突剣での突きが飛んでくる。

 そのどれもが良く訓練された、無駄のない動きだった。

 三方向からの同時攻撃、かつお互いに当たることの無いように動線も洗練されている。


 ――だが、今の俺には遅すぎた。


 軽く足に力を入れ、跳躍する。

 一瞬にして俺の身体は宙に飛びあがり、彼らの攻撃はことごとく虚空をかすめた。

 驚愕する一同の顔を上から見下ろしながら、俺は右足を槍の穂先にのせ、左足を柄の下に潜り込ませると……


「そらっ!!」


 テコのように両足に力を加えた。

 たちまち槍を持った兵士の体が跳ね飛ばされ、はるか遠くに飛ばされる。


「うわああああぁぁぁぁぁぁっ!??」


「バカな!?」「嘘だろ!?」


 呆気にとられた残り2名の兵士たちに、致命的な隙が生まれる。

 着地と同時に左の兵士に掌底を当て、弾き飛ばす。

 兵士はゴム球のように勢い良く、5メートルほど飛んだかと思うと地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。


 返す刀で背中側に居た、3人目の兵士に横蹴りを放つ。

 鎧にヒビが入り、兵士の身体に蹴りがめり込む。

 今度は足が伸び切る直前に寸止めをし、蹴りのエネルギーを相手の体内に留める。


「カハッ! お……ご……」


 兵士は全身の息を一気に吐かされたような音をさせると、そのまま悶絶しながら崩れ落ちた。

 俺の周囲に居た兵士は全員気絶し、他の数十人の兵士は唖然とした様子でそれを見ている。


『ふん……なかなかうまく使えているじゃないか。

 初めてレイド使いの身体能力を手にしてからここまで戦えるやつはそうは居ない。

 それにしても……見ろ、コイツらのマヌケ面を。よほどレイド使いの強さに圧倒されたと見える』


 周囲の兵士たちの様子をあざ笑いながら、ベリトは俺を褒めてくれた。

 だがこれは俺のセンスというよりも、この仮面に秘められていた力によるものと言ったほうが良いだろう。

 瞬く間に三人の訓練された兵士を戦闘不能に陥らせる……これがレイド使いの身体能力というものなのか。

 想像を絶する力では有るが、10分前に手に入れたばかりの力で傲れるほど俺は恥知らずではない。

 ただ、目の前の障害を排除するためであればなんであれ利用させてもらう。それだけの話しだ。


「ほ、本当に手に入れたというのか? ……レイド能力を!?」


 ユーガーはいよいよ半狂乱でこちら側を見つめてくる。

 一度下の存在だとみなした存在が、力を手に入れることがよほど気に入らないらしい。


「あぁ、どうやら俺は運が良かったらしい。

 ……人から見下されるのは初めてか? 俺は何度も見下されてきたけどな」


 そう言い返すと、目に見えてユーガーの顔は真赤に染まっていった。

 青筋まで立てているところを見ると、逆鱗に触れたようだ。


「グッ、グゥゥウウウアアアアア!!!!

 貴様ッ! この私を侮辱したなぁ! 貴様は永遠に下の存在だ……私の下なんだ! 決して見下させん!!

 ……お前たち、なにを突っ立っている! 早くこいつを殺せ! さもなければ貴様達も監獄に送り込んでやるぞ!!!!!」


 声も枯れんばかりに叫び倒し、ユーガーは周りで呆けていた兵士たちに命令する。

 俺を全員で殺せ、さもなければ貴様達を監獄送りにすると。

 それを合図に、兵士たちはじわじわと俺に近づいてくる。

 どうやら隙を伺って、集中攻撃をするつもりらしい。


『やれやれ、先程の動きを見て何も学んでいないようだな。

 マト、せっかくだから一対多戦の実践をしてみろ。今からお前の素質を見極めてやる』


 ベリトは勝手なことを言っているが、どちらにしろこのままではどうしようもないだろう。

 兵士たちを倒さなければユーガーから情報を引き出すことは出来ない。


「だとしたらやることは決まってるな――」


 俺は周りで今か今かと俺の様子を伺う兵士たちを見回し、深呼吸をする。

 そのうえで右手のひらを仰向けにして水平に向けると、胸の前に持ってきて手招きをする。

 映画で拳法家がよくやる挑発を真似したものだ。


「――かかってこいよ、兵士諸君」


「……言ったなくそったれ!!」


 その一言で、兵士の中で血気盛んな奴が突っ込んできた。

 皮切りにして次々に兵士連中が切りかける。

 中には包囲が崩れたことに対して仕方なしに加勢する者もいたが、どちらにしろ好都合だ。


 切りかかってくる兵士の斬撃を横に逸して避け、そのまま顎に拳を浴びせる。

 途端に昏倒するのを横目に、更に迫ってくる兵士たちに向き直る。

 迫る剣戟、迸るアドレナリンとともに避け、カウンターでの浴びせ蹴り


 斬撃、回避、打撃、刺突、跳躍、蹴撃――――


 二分も立たないうちに、俺の周囲に動ける兵士は誰一人居なくなった。


『よくやった。これであればレイド使い同士の戦いでも、そうそう遅れをとることはないだろう

 そうだな……我のレイド能力を使いこなせれば、ランク50位以下であれば善戦以上に戦えるはずだ』


 俺の戦闘を見た上で評価を下すベリト。

 自分自身でも苦戦したつもりはなかったが、しかしレイド使いの身体能力あってのものだったので、案外そんなものなのかもしれない。

 レイド使い全体が400人ほど居るということを聞かされていたので、その中で50位までは勝てる見込みが有ると考えれば上々だろう。

 それにしてもベリトが持っていたレイド能力とはどのようなものなんだろうか。

 ゆくゆくはそれを使うこともあると考えれば、今のうちに知っておく必要があるだろう。


「そういえばお前のレイド能力ってどんな能力なんだ? 予め使っておきたいんだが」


『……それはまだ駄目だ』


 意外にも否定の言葉を返された。


「何故だ? レイド使い同士の戦闘になれば能力を使わなければいけないこともでてくるだろう?」


 俺がそう尋ねると、何故かベリトは顔を赤らめて黙り込む

 俺が疑問を顔に浮かべながらじっと見つめると、観念したのかボソボソと説明の為に口を開く。


『こ、この仮面に封印された際に、能力制御の領域の大部分を失ったんだ。

 修復するまでには多くの時間を必要とする……

 今の状態で無理に使えば、貴様もタダじゃすまない。……最悪死ぬ」


「……つまり、お前も万全じゃないってことか。この場にレイド使いが居たら死ぬところだったというわけだ」


 どうも彼女自身も五体満足ではないというわけだ(仮面になっているわけだから当たり前だが)。

 契約の際にあれだけ自信満々に自分のことを自慢していたベリトだが、言っては悪いが期待が少し外れたと言ったところだろうか。


『う、うるさい! 幸いここにいるのはろくに身体も鍛えていない貴族と、もう再起不能の兵士たちだけだ!! あとは貴族から情報を引き出すだけだろう!!』


 カチンと来たのか、ムキになったような言い方で俺を促してきた。

 だが確かに後はユーガーから情報を聞き出すだけだ。

 そう思った俺は彼の姿を探し始めたのだが……


「……あれ、アイツはどこに行った?」


 いつの間にか姿をくらましていた。

 まさか逃げられたか! そう思って馬車が停めれてていた方を見たが、馬車は元あった場所に停まったままだ。

 それであればまだ近くにいるはずだ。

 でもどこに?


「まったく……時間稼ぎもできんとは、つくづく使えん家来どもだ」


 溜息まじりの嫌味ったらしい声が野営テントから聞こえてきた。

 そちらの方に視線を向けると、右手になにかを携えたユーガーの姿が見えた。


 其れは、一言であれば両刃の片手剣であった。

 だが全身に纏った雰囲気は、尋常でなく禍々しいものだ。

 恐らくは直刀であるはずだが、揺らめくオーラによってさながら波刃剣フランベルジュのように見える。

 刀身が黒ければ、その柄も純黒。

 柄の中心に収められた真紅の宝玉が、魔力めいた放射の中心であるようだ。


「反逆者の真似事もここまでだ、マト・タカヤマ

 こうなれば私直々に、我が国が誇る魔具――ラズリーズで貴様を切り伏せてくれよう!!」

お読みいただきありがとうございました。

次回は今夜投稿予定です。

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