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プロローグ 8と9の間、あるいは昔話の始まり

キリの良い所まで書きためたので投下します。

『大断崖と呼ばれる巨大な崖が、この世界の中心に開いている。

 そこに落ちた者は、決して出てくることはなく、またその魂は地底に囚われ続ける』


 監獄で囚われている時に、同じく囚われている人が話していた"言い伝え"だ。

 その人は捕らわれていた二週間の間、ありとあらゆる拷問を受けそして処刑された。

 罪状は強盗殺人。だが彼は無実だった。

 自身の無実を拷問室の中から叫び続け、独房で俺に向かって涙ながらにどうして罪を被せられたのかを嘆き、そして処刑された。

 監獄に放り込まれた人は、皆そうだった。

 皆一様に嘆き、絶望し、失意の中で処刑されていく。


 初めてソレ・・を見た日から、二年の月日が過ぎた。

 俺は投獄されてから二年間もの間、拷問を受け続けた後に此処に運ばれたのだ。


 ――この深く暗い谷底へ、突き落とされて。



「もう、長くないか……」


 血で滲む口で、ようやくそれだけ絞り出す。

 視界は霞み、意識は朦朧。

 全身に至っては痛みどころか一切の感覚を感じない。

 脊髄のどこかしらがイカれているのかもしれない。

 今までにこれほどまでの怪我を負ったことはないが、確信を持って言える――明らかな致命傷だ。

 17歳の人生としては平均以下の結末といえるだろう。


 レイド使い――この世界に召喚された人間は皆その能力を手にして呼び出される。

 彼らは皆常人の数倍の身体能力を自在に操り、固有の能力は全てチートじみている。

 全てのレイド使いは国家の保護を受け、貴族と同等あるいはソレ以上の待遇を受けている。


 俺もかつてはレイド使いとして召喚され、丁重な客人として"扱われていた"

 そう、過去形の話だ。今は違う。

 何故か能力を持たず召喚された俺は、冤罪を押し付けられこの監獄に投獄された。

 そして二年間の間拷問を受け、そして処刑としてこの谷間に投げ落とされて……今に至るというわけだ。


「思い返せば……ロクな目にあっていないな、この世界に召喚されてから」 


 レイド能力、身分、名誉……真実。

 何も手にしないまま、俺は命を落とそうとしている。

 無念、と言えばそうである。

 だが事実として俺は無力であったし、今この瞬間もそうだった。

 最初から最後まで、何もできなかったのだ。


 こうして考えている意識も、もはやほとんどまとまらない。

 白色に濁り、そして深く沈んでいく。


「……終わり、だな」


 そして俺は意識を手放そうとし――






「なんだ……もう終わりか、少年?」


 ――不意に聞こえたその言葉が、俺の意識を覚醒させた。

 この無機質な空間には似つかわしくない、鈴を鳴らすような少女の声・・・・

 俺と同じく落とされたのか? だがそれにしては声に元気が有り余っている。


「誰だ……死刑囚仲間か?」


 軽口を叩くが、それに言葉が返ってくることはない。

 霞む視界であたりを見回すが、人影は見当たらなかった。


「何処を見ている……? ここだ、ここ」


 その発言でようやく音源が特定できた。

 そこに視界を向けて、少女の正体を見ることが出来た。


 地面……正確にはそこに転がる"仮面"だ。

 金属でできたドミノマスクにも似ている。

 青白く光る仮面は、かすかに震えながら少女の声で、俺に向かって語りかけてくるのだ。


「なんだ? 喋る仮面を見るのは初めてか?」


「……あぁ、召喚前の世界ではよく見ていたけどな。マンガの中で」


 にわかには信じがたいが、そもそも異世界召喚なんてものが既にモノガタリじみているのだ。

 今更喋る仮面が出てきたところで、そういうものなのかと考えるしか無い。

 ……もっとも、死ぬ前に見る幻の一種とも考えられるし、俺はそう考え始めているのだが。


「随分と酷いザマだな? だが運がいいとも言える」


「この状態が? ……ああ、そりゃ運がいいとも。お前とは違って、手も足も有るからな」


「そこまで軽口が叩けるなら大したものだ。

 だが貴様は確かに運がいい。なにせ――この谷に落ちて息があった・・・・・のは、貴様が初めてだからな」


「その挙句、今こうして死にかけながら、喋る仮面なんていうマボロシを見ている」


「ふん……走馬灯そうまとうと断じるか。まぁそれも良い

 どうせ幻と思い込むのであれば、死ぬまでの間の暇つぶしに昔話でもどうだ?」


「昔話……?」


「教えてみろ、貴様がこの谷底に落ちるに至った全てを

 恨みであれ憎しみであれ、我はその全てを呑み干してみせよう」


「……で、最後に嘲笑ってくれるってわけか?」


「実際にどうするかは、貴様次第だ」





「…………」


 俺は数瞬逡巡し、そして口を開いた。




「話せば長くなる――」

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