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短編集 

忍び寄る影

作者: 不知火Mrk-2

 夜に近づき、辺りは電灯によって照らされている。人通りの少ない路上を走っている少年は息を切らしながら走っていた。

「ああ――、どうしていつも、面倒な事に巻き込まれるんだよ俺は……」

 奏海は、背中から白い翼を生やした三人の天使に追われていた。事情を知らない人は、コスプレをしている人に負われている男子高校生といった構図になるだろう。

実際はそんなに気楽な事はなく、捕まったら死が待ち受けている。だからこそ、生き残るために必死で逃げ回っているのだ。

「待てよテメェ、今日こそは八つ裂きにしてやる!」

「お前に人権なんてねぇんだよ!」

「復讐するためにも殺すしかない……」

 天使とは思えない言葉が背後から聞えてくる。

死ぬとか、殺すとか、普通に考えても不吉すぎるだろ! ああ――、あいつら、さっさと諦めてくれないかな……。こっちは学校帰りだっていうのにさ。

「テメェが立ち止まれば全てが解決すんだよ」

「って、俺が立ち止まったら、お前達に殺されてしまうだろうが!」

「そうだが?」

「そういう事を、さらっと言うなよ!」

 奏海と天使達の距離は縮まりつつあった。このままでは捕まってしまう。

 なぜ天使達に追われているのか? それは、悪魔の力が奏海の右腕に宿されているからだった。右腕に悪魔を連想させるイラストが刻まれている。その刻印を見たり、見られたりすると、悪魔が召喚される仕組みになっているのだ。だからこそ奏海は、刻印が隠れるように、右腕に包帯を捲いているのである。彼自身、いつ悪魔から刻印を得たのか、定かではなかった。

どこかで知り得た情報だが、遥か昔から天使と悪魔は対立していたと聞く。現実世界に逃げ込んだ全ての悪魔を殺すために天使がやってきたらしい。天使と悪魔の勝手な戦いに巻き込まれて奏海は本当に迷惑しているのだ。

 ああ――、本当に面倒くさい! ……ん? 確か、あの角を曲がったところに、空き家があったはず……。あの場所であれば、身を隠せるかもしれない。

 思い立った奏海は、すぐさま行動に移すことにした。

 はぁ、はぁ……上手く逃げ切れたか? 

 空き家の近くに塀があり、そこからこっそりと顔を出して路上を確認する。路上には誰もおらず、何とか天使から逃れられたみたいだ。

 そろそろ自宅に帰るとするか。はぁ、明日は見つからないようにしないと……。

 奏海は、溜め息は吐きながら帰路につくのだった。


「じゃあね――」

「うん、また明日ね――」

 奏海が教室で帰る準備をしていると、周囲から別れ際の挨拶が聞えてくる。忘れ物がないかを確認し終えると、バッグを片手に持って、彼は教室を後にした。

 今日も天使達と関わらないようにしないと……。昨日は散々な目にあったからな。

 天使達が、地上で行動を開始するのは大体夜の七時過ぎあたり。丁度部活が終わり、学校から帰る時間帯であった。部活をやらずに帰ればいいのだが、直ぐに帰宅したくない理由があるのだ。

「奏海君、もう部活行くの?」

 考え事をしながら廊下を歩いていると、一人の女の子から声をかけられる。それは、奏海自身が好意を寄せている先輩であり、彼女は教室の入り口から姿を現したのであった。先輩は長い髪が特徴的であり、美人というよりも可愛い系に近い。

 部活をやらずに帰りたくない理由は、先輩の存在が大きく関わってきている。

「は、はい――」

 突然声を掛けられ、奏海は緊張しながら返答する。

「じゃあ、一緒に行こうか」

「はい」

 奏海は先輩に促されながら部室へと向かう事となった。彼は見た目によらず、家庭科部に所属している。理由は単純明確で、先輩と関わる事ができるからだった。奏海は、見た目に惹かれたのではなく、先輩の人柄に魅力を抱いたのである。

「先輩……今日はどんな料理を作るんですか?」

「うぅん……昨日はオムライスを作ったし……どうしよっか、まだ決めてない」

 先輩は可愛らしく微笑みながら奏返答してくれた。彼女の笑顔で奏海の心を癒される。先輩と関わるこの瞬間こそが、彼にとっての至福の一時だった。

 家庭科室の前に辿り着くと、先輩は肩に掛けているバッグから垣を取り出し、部屋のロックを解除する。

「今日はハンバーグにしよっか」

 先輩は家庭家室に入るなり、行き成りそう言ったのだ。先輩と一緒であれば、別のどんな料理でも構わなかった。

「先輩が言うなら俺、ハンバーグでいいですよ」

「んっ、作りたい料理があるなら、奏海君もハッキリと発言してもいいんだからね!」

 先輩に軽く指摘され、人差し指で小突かれてしまう。ちょっとした彼女の仕草が可愛らしかった。告白できなくても、先輩に話しかけられる事が嬉しかったのだ。

「はっ、テメェ、こんなところに居やがったのか!」

 刹那――室内に聞き覚えのある声が響くと、窓ガラスが粉々に砕け散る。窓ガラスを壊して、家庭科室に足を踏み込んできたのは三人の天使であった。

 なっ、何でこんなところに天使が? 天使って夜の間しか出現しないんじゃ?

「な、何なの?」

 隣にいた先輩は、硬直状態に陥っていた。天使を目撃したのも今回が初めてであり、驚いてしまうのも仕方がないと言える。

「先輩、早く逃げないと」

 奏海は先輩の片腕を掴み、家庭家室から立ち去ろうと試みた。しかし、一人の天使が入り口を塞ぎ、逃げられない状態に追い込んでくる。

「クソッ! 逃げ場所が……」

 彼は唇を噛み締めた。

「おい、お前が死ねは全てが解決するだ。さっさと、その悪魔の宿った右腕と共に死んでくれないか?」

 天使のリーダー格がそう言った。

「悪魔? 何それ?」

 聞き覚えのない言葉に先輩は首を傾げる。

 ……クッ、どうすれば……。奴等から逃れられる手段は一つだけある。それを使えば先輩を助けられるけど……。

 奏海は思考していた。この盤面を打破できるのは、右腕に宿る悪魔を召喚すること。けれど、人間では無いと分かると、先輩は敵視するかもしれない。好きな人から恐怖心を抱かれるのが一番怖かった。

「……仕方がない……この力を使うしか……」

「この力を使う? どういうこと?」

「先輩、今から起こる事を見ても、誰にも言わないでください」

 よく分からないと言わんばかりの表情を見せる先輩。奏海は彼女に視線を向けてから制服の袖をたくし上げ、右腕に捲かれた包帯を取り除いた。

 悪魔の刻印を目視した時、室内に三メートル程の悪魔が出現したのだ。悪魔の姿は禍々しく、この世の者とは思えない。それを見た先輩も驚きを隠せないようだった。

「とうとう現れたようね」

「私達が殺してやるわ」

「死ねっ!」

 周囲を取り囲んでいた天使が武器を使って一斉に攻撃するものの、悪魔が放つ魔力で動きを止められたのだ。

「「「グッ――、ぎゃああああ!」」」

 三人の天使は、あまりの苦しさに一斉に悲鳴を上げる。身体は魔力によって締め付けられており、今にも死にそうな顔をしていた。

 最終的に、天使達の姿は消滅していく。それと同時に、召喚されていた悪魔も姿を消した。

「はぁ、はぁ、何とか助かった……」

「い、今のは?」

 脅える先輩を目撃して奏海はショックを受けた。

やっぱり、先輩に嫌われたのかなぁ……。ああ、これじゃあ、家庭家部どころか、学校もいられないよ。

「何か分かんないけど、ありがとね」

「えっ? さっきの見て、何も思わなかったんですか?」

「色々思ったわ。けど、奏海君が悪魔だって別に構わないよ。私、奏海君の良いところ知っているし、そんなことで嫌いになったりはしないわ」

「先輩……」

 彼女に受け入れられた事が素直に嬉しかった。

悪魔なんて嫌だったけど、先輩を助けられたんだし、よしとするか。

先輩の優しい笑顔を見るためにも、天使と悪魔に立ち向かっていく覚悟を決めた瞬間だった。


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