恋愛する気のない私に学校一のイケメンが告白してきた件について
恋愛に興味がない私に学校一のイケメンが告白してきた件について(後編)
後編になります。
「知佳さん知佳さん」
「おはようございます一之瀬君」
あの一緒に出掛けた日から、私と彼の距離は少しだけ縮まった・・・ような気がする。私が距離を詰めたわけではなく彼から詰めてきただけなのだけれど。朝からにこにこと自慢のキラースマイルで近づいて周りの女の子が倒れている。これを無自覚でやっているなら彼の将来が心配です。
「おはよう知佳さん。これから移動?」
「ええ・・・一之瀬君は?体育?」
私の手には化学の教科書が、彼は制服姿ではなく学校指定の紺色のジャージを身に纏っている。ジャージ姿すら様になるとはやはりイケメンか。
「そ、今日はバスケなんだ。俺の勇姿を知佳さんにも見てもらいたいんだけどね」
「お気持ちだけ受け取っておきます」
相変わらず彼の気持ちを受け入れない姿勢でいるにも関わらず、彼は私のこの態度をものともしないで真っ直ぐに気持ちをぶつけてくる。
「そろそろ行かなくちゃ。それじゃあ知佳さん、またお昼にね!」
「え、あのっ・・・」
爽やかに廊下を駆けていく彼を止めれるはずもなく・・・
「朝からお熱いねぇ」
友人達の冷やかしを一身に受けることになった。
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あれから彼女との関係は少し変わった気がする。と言っても、友人以上ちょっといい人かもくらいにしか上昇してないんだけど。それでも彼女の中にいる男で1番好印象であることは確かだろう。今日の朝も、まあ言い逃げのようになってしまったけど、昼の約束を取りつけたし・・・
「ふふっ」
「うおっ!?なんだ拓海、いきなり笑いだして」
中学から一緒の友人に気味悪がられてしまったが、そんな小さなことは気にならないくらい俺は機嫌がいい。
「いや、今日も知佳さんと仲良く昼御飯を食べるんだよ」
「あ~花崎さんね・・・しかし彼女もよくお前を相手にしてるよなぁ。普段のお前を知ってる俺から見れば、彼女の前で終始笑顔のお前はキモい」
「五月蝿いよ」
俺は手に持っていたボールをキモいキモいと言いながら腕を擦る友人に向かって思いきり投げつけた。
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「お待たせ知佳さん、学食行こうか」
「・・・・はい」
そして訪れた昼休み、やはりやって来たよこの人。彼が私に会いに頻繁にやって来るものだから、最早彼が現れただけではクラスメイトは騒がなくなってしまった。慣れとは恐ろしいものだ。
「知佳さん今日はなに食べるの?」
私にメニュー表を手渡してにこにこと私が注文するのを待つ彼。私はメニュー表に目を落とすとメインのページとデザートのページを交互に見た。
「えっと・・・ミートドリアと、チーズケーキにしようかと」
「オッケー、じゃあ注文してくるよ」
私の言葉を聞くやすぐに席を立つと真っ直ぐに厨房の方へ向かった。彼と一緒だとだいたいこのような対応をしてくれる。それがどうにも付き合いだした彼女にするような態度でなんだか擽ったかった。
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「クスクスッ、今日はチーズケーキか・・・美味しそうだね」
君が、とは言えず美味しそうにケーキを頬張る彼女をただ見つめた。前の俺達だったら考えられないこの距離感に甘い雰囲気。一方的にこちらが好きオーラを放っているだけだけど、周りから見たら俺達はもう想いを通じ合わせた恋人にしか見えないかもしれないな。早く彼女も自分の気持ちに気づいてくれたらいいけど、この片思いのような状況も楽しんでいる自分がいる。
「知佳さん可愛いなぁ」
「お前、まじでキモいよ」
窓から見えた彼女は友人と笑いあっている。明るく暖かい笑い声にどうしても口元が弛む。早くその笑顔を俺にも見せてくれたらと思う。そしてまたもや友人にキモいと言われてしまった。
「もうすぐ1ヶ月か?よく続くねぇ・・・」
「好きな子を自分のものにするのに時間は惜しまないよ」
まあこの友人がそう言いたくなるのも分からなくはない。なにせ俺がこんな風に誰かに執着することも、好かれようとあらゆる努力を惜しまない姿も見せたことはなかったのだから。だからこんな風に言われるわけだが・・・
「これだけ頑張って振られたら笑えるよな」
「・・・笑えないし、そうなった時は全力で憂さ晴らしでもしようかな」
お前で・・・と言わなくても俺の笑みで気付いたようだ。
「いや、きっと大丈夫さ!お前の熱意はきっと彼女に届くはずだ!」
「そうだねぇ・・・そうなることを祈るよ」
俺はいつのまにかいなくなってしまった彼女の姿を探すように、窓の外に目をやった。
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「知佳さん、放課後暇?」
帰り支度をしていると、彼が突然やって来て放課後の予定を聞いてきた。私はその日特に予定もなかったので首を横に振ると、彼は更に明るい笑みを向けてきた。
「じゃあさ、体育館に来てくれない?実はバスケの練習試合の助っ人に入ることになってさ、知佳さんに見てほしいんだ」
「まあ、見るくらいなら・・・でも私ルール分からないよ」
ゴウルに入れたら点が入るとか両手でついちゃだめくらいしか分かりません。
「いいよそんなの分からなくて。俺だけ見てくれてたらいいからね?」
「分かった」
まあ見るだけならいいかと私は彼に着いて体育館へ向かった。どうやら練習試合と言っても部内の紅白戦のようで、どこかの高校から他の生徒が来るわけではないらしい。それでもやはり花形の部活だけあってちらほらと観客の女子生徒が目についた。もしかしたら彼女達の目的は彼なのかもしれない。そんなことを考えていると、バスケ部の人達がストレッチとウォーミングアップを終えコートに入ってきた。その中には彼の姿もあり、同じチームの人と仲良さそうに話している。
(あんな顔もするんだ・・・)
私の前で見せるどこか余裕のある笑みではなくて、どちらかと言えば子供っぽい・・・年相応の笑顔だった。私はいつもの笑みよりも、今の彼のほうがずっと親しみやすいなと思った。そんなことを考えながらボーッと彼を見ていたら彼が私の視線に気付いたように此方に目を向ける。そしてにこりといつもの笑みに戻すとヒラヒラと手を振ってきた。私は振り返すべきだと思いながらやはり恥ずかしくて思わず視線を逸らしてしまった。
「また花崎さんか・・・」
「まあ仕方ないけど・・・やっぱり」
「ねぇ・・・」
私に聞こえてないと思っているのだろうがきっちり聞こえている。やっぱり良くは思われていないか・・・それはそうだろう。学校一のイケメンが私ばかり構って当の本人はその好意を袖にしているのだから。答える気がないのなら早く断ってしまえと言うのが、きっと彼女達の・・・彼に好意を寄せる女の子達の総意だろう。
(そうだよね・・・こんなのは彼にも失礼だし・・・そう思っているのに、どうして私は彼を拒めないのだろう・・・)
胸に燻るこの熱がなんなのか分からずに、なにか答えが見つからないかと彼の試合を見ることにした。
「うわぁ・・・すごい」
バスケの知識が皆無の私でも、彼のずば抜けた運動能力と反射神経くらいは分かる。まるでコートいっぱいに視界が向けられているようにどんどんパスやシュートが決まっていく。そうなるとこれだけ上手いのになぜ部活に入らないのか疑問に思う。これだけ出来るのなら、私だったらちゃんと部活に入ってレギュラーを狙うんだけどな。まあ彼なりの考えがあるのだろうから、私が口出しすることではないのだけど。
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「今日はかなり調子いいよな」
「まあね、俺には勝利の女神がいるからね」
視線を彼女に向ければ、友人は「ああ成る程」と納得した。彼女に格好悪いところなんて見せられないしこういうところでポイント上げないと勿体ないからね。だからいつも以上に動いた。彼女の視線をただ一身に受けたくて。
「これだけやれるんだからまた勧誘されるだろうな」
「まあ入る気はないけどね」
やはり遊び程度でしかやっていない俺では徐々に差が見えてしまうだろうし、本気で取り組む程の意欲がまるでない。今回は彼女に格好良いところを見せたいという欲が優先して了承したまでだ。そんな俺が皆と同じラインに立つなんて失礼だろう?・・・と言うのは建前で彼女との時間が減るのが嫌なだけなんだけどね。
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彼の告白からそろそろ1ヶ月が過ぎようとしていた。彼の行動は最早全校生徒が知るものとなりいつ私が陥落するか、賭けのようなものも行われているらしい。そんことを聞けば卒業まで答えないでいようかとも思ってしまうのだけど。そんなことはお構いなしに彼は私の前に現れる。
「ねえ知佳さん、俺のこと・・・少しは意識してくれてる?」
適度な距離を保ちつつ私から離れない彼は甘いマスクで誘惑をする。それを見た周りの子達はやはり黄色い悲鳴をあげたり写メを撮ったり・・・みんな忙しいな。
「ん~ちょっとは好かれていると思うんだけどなぁ」
へらっと笑う彼は悪戯をした少年のように見える。これがまたいいと女の子達は言う。確かに、バスケの試合の時に見たあの少年のようなキラキラした笑顔は、私も好きだ。
「そろそろ知佳さんに俺の彼女になってほしいなぁ・・・」
「だけどまだよく分からないよ」
私の中に燻るこの熱の正体・・・恋をしたことがない私には、これが一体なんなのか分からないでいた。もしこれが恋ではなかったら・・・付き合った後で気付いてしまったら・・・彼を傷付けてしまうだろう。だから答えられないでいる。
「そうか・・・なら手っ取り早く強行手段に出ようかな」
「え・・・?」
ぼそりと呟いた彼の言葉は聞き取れなかったけれど、その笑みに嫌な予感しかしなかった。
それから少しして、彼が可愛い女の子と楽しそうに笑っていた姿を目撃した。
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俺は最後の勝負に出ることにした。これはとても危険な賭けだ。下手したら彼女は俺と視線すら合わせてくれないだろう。それだけならまだ我慢できるがもし嫌悪の視線を向けられたら・・・そう思うと震えてしまう。本当に、これは俺の命運を懸けた賭けなのだ。でもそうでもしないときっと彼女は気づかない。俺に向ける気持ちがなんなのか・・・頼むから気付いてくれ、そう思いながら俺はある人物に相談を持ちかけた。
俺は彼女と話したときから初めて、彼女の傍を離れた。そして俺の隣にいるのは・・・
「まったく、この私が協力してやってんだから成功しなきゃタダじゃおかないからね!」
口の悪い従姉様だ。この従姉様、俺の血縁者だけあって見た目だけは頗る良い。中身が残念な為にいまだ彼氏の1人もいない哀れな少女である。ちなみに顔も似てなく名字もまったく違う為、言わなければ親戚関係だとは気付かれない。それを知っているのはあの友人だけだ。
「しかしあんたが恋ねぇ・・・女の子なんて歯牙にもかけなかったあんたが・・・恋だって!!ぷぷっ」
本当、なんでこいつが従姉なんだろう・・・少しでも血が繋がっていることが残念だ。
「しかも相手があの花崎知佳ちゃんでしょ?清らかな彼女に堕とされちゃったわけねー」
「俺が彼女に惚れてるのは確かだけどその彼女を侮辱したような発言は許さないよ」
「そんなつもりまったくないけど?ただ彼女が凄いと思っただけよ。なんだっけ、最初の告白で結婚を前提にお付き合いしてくださいだっけ?あれ聞いたあんたの信者達がその後凄かったらしいわよー阿鼻叫喚?」
そんなことも言ったなぁ。今となっては懐かしい思い出だな。俺は勿論そのつもりでお付き合いするし、絶対逃がさないし。まだ付き合ってもないけど。
「彼女に嫉妬させて自覚させるためにわざと私と仲良さそうにしてるとこ見せてさぁ・・・逆に嫌われなきゃいいわね」
「ちゃんと境界線は見極めてるつもりだし、お前を選んだのも最後に説明するときすぐに納得してもらえるからだ。従姉なら一緒にいても不思議じゃないし、下手に他人を選んだりしたらそっちのほうが後々大変だからね」
自分のことを好きなのではと勘違いされでもしたらそれこそ彼女に逃げられてしまう。
「きゃー怖いわ!ここに確信犯がいますぅ!女の敵よー!!」
このふざけた従姉を見るとこの作戦が成功するのかと若干不安になった。
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「最近来ないね一之瀬君」
「もともとこれが普通だったんだよ。彼が来てたことが異常なのよ」
彼が可愛い女の子と一緒にいるのを目撃した日から3日、彼は私のところへ来なくなった。その代わりにあの女の子と一緒にいるところを度々目にすることになる。ついに諦めたのかと、私はまるで他人事のように思った。
「それでいいの?一之瀬君、あんなに好きだって態度で表してたのに・・・」
「だけど人の心は変わるものだよ。現に彼は私のことは諦めて次の恋をすることにしたんだもの」
そう・・・私が彼のことをとやかく言う資格はないのだ。だって私は答えなかった。彼の想いを知っていながらそれを受け入れることをしなかったのだ。そんな私が今更・・・寂しいだなんて、傍にいてほしいだなんて言えない。
「知佳がそう言うなら私達はこれ以上は言わないけど・・・自分の気持ちに素直になりなよ?」
「ありがと」
素直にか・・・
友人達と別れ1人歩く帰り道、またも目にしてしまった彼等。それはとても親密そうで、もう私が入る隙間なんてないように見えた。彼が笑う度にズキンと痛む心・・・胸が熱く苦しいのは、きっとあの笑顔はもう自分に向けられることはないと知ってしまったから。
なんだ、もう分かってたんじゃないか・・・
私は、ちゃんと彼を好きだったんだ。
でももう遅い。今更気付いたって、彼はもう彼女を選んでしまったんだから。でも、それでも・・・
「人を好きになる気持ちを教えてくれてありがとう」
この気持ちを知ることができたこと、初恋と失恋が同時にやってきてしまったけど、そんなに悪いものではないかな。この経験が、きっと私を次の恋に導いてくれるから。
「一之瀬君、幸せになってください」
私は彼への想いと決別するように、風をきって歩き出した。
この日を境に、私は変わったと言われるようになる。きっとそれは彼のお陰だ。彼のお陰で、私は知らなかった気持ちを持つことができたのだから。
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「あんたの思惑は失敗したみたいね」
「うるさい・・・」
俺の作戦は上手くいっているように思えていた。そう、最早過去形なのだ。彼女は変わった。周りには良い意味で、俺には最悪の形で。初め持っていた男への警戒心を弛め、話しかけやすくなった。高嶺の華だった彼女はそれだけで彼女に好意を寄せる男共を引き寄せる。女の子達とはもともと関係が良好だった為、彼女らが防波堤となり邪な気持ちを抱く輩を排除していた。
「俺のせい、だよな・・・」
「否定はしないわね」
ストレートな言葉にグサリと心臓をぶっ刺される。
「あんたがあんな変なことしないで彼女に好きだって言い続けていたら、彼女はちゃんと答えてくれたと私は思うわ」
「早く、彼女が欲しかったんだ・・・同じくらい想いを返して欲しかったんだよ」
遠目に見える彼女を想いながら呟く。今彼女は同じクラスの男と仲睦まじそうに話している。あの男が立つ位置は、本来なら自分のものであるはずなのに。
「諦めなさい。彼女はもう答えを出したのよ。あんたになにも言わなかったってことはそういうことでしょ」
彼女は俺を選ばなかった。いや、その選択肢を捨てたのか。俺の自分よがりな行動のせいで。諦めなきゃいけないんだよな・・・自業自得だし、彼女の幸せを考えれば、俺は身を引かなきゃいけない・・・どんなに好きでも、俺は彼女を傷付けてしまったんだから。そうするしかない・・・分かっている、だけど・・・
「諦められない・・・そんな簡単に割り切れない。初めてなんだ、こんなに誰かを好きになってそばにいてほしいと思ったのは」
他の誰かじゃない。彼女がいいんだ。
「はあ・・・最初からそれを言ってあげれば良かったのよ。まあもう手遅れかもしれないけどやるだけやってみなさいよ」
「ああ、ありがとう」
俺は従姉に礼を言うと、視線の先の彼女に向かって走り出した。
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「最近花崎さんよく男子に話しかけられるようになったね」
「そう、かな」
同じクラスのクラス委員である男の子が私に話しかけてきた。確かに、私はあの日から少しずつ男の子とも話すようにしてきた。と言っても、日常会話くらいしか話してはいないんだけど。
「うん。前はね、こう・・・話しかけにくい雰囲気があってさ、悪い意味じゃなくてね」
そうだったのかと改めて思う。じゃあ変わったことは私にとっても悪いものではなかったのね。
「こうやって話してると睨まれるんだよ僕。君に近づくなーってね」
「そんなことないと思うけど・・・」
首を傾げると彼は苦笑し、私の背後に目を向けた。そして再び私に視線を戻すと柔らかく微笑んだ。
「君の王子様が来たみたいだね。僕はもう戻るとするよ」
「え?」
「教室でね」と一言口にすると彼は背を向けて歩いていってしまった。一体どうしたんだろうと思っていると、
「知佳さん・・・」
ここ1ヶ月聞いてきた彼の声が、私の背後から聞こえてきた。幻聴か・・・そう思っていると再びあの声がした。
「知佳さん、こっち見てくれないの?俺のこと、もう忘れちゃった?」
そんなはずがない。だって、私はこの声を・・・私を呼ぶ貴方の声をずっと聞きたかったのだから。
「ごめんね知佳さん。俺のせいで知佳さんが傷付いてしまった・・・こんな俺が知佳さんに言っていいことじゃないかもしれないけど・・・俺は知佳さんが好きだ。知佳さんが他の誰かのものになるところなんて見たくない」
後ろを向いているから、彼がどんな表情でいるか分からない。けれどその声はふざけたものじゃなくとても真剣で強張っていて、普段の彼から想像もつかないものだった。
「もう、知佳さんは俺のこと・・・」
消えるように小さくなった彼の声に少しだけ振り向くと、私は目を見開いた。だって・・・
「泣いてるの・・・?」
綺麗な彼の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
「あれ・・・?変だな、なんで涙なんて」
制服の袖で涙を拭う姿に、私の封印したはずの想いがカタカタと音を立てて出てこようとしている。
「ごめん、こんな姿見せたいわけじゃないんだけど・・・だけど、やっと知佳さんの顔が見れた」
止まらない涙を拭いながら笑う彼にあの日の、あの可愛い女の子と楽しそうに笑う彼を思い出しぎゅっと胸が痛くなった。
「一之瀬君、好きなんて言わないで。貴方にはもう可愛い彼女がいるでしょう?彼女がいるのにそんなこと言っちゃ駄目だよ。貴方はそんな人じゃないでしょ?」
「違う・・・違うんだ知佳さん。彼女はそんなんじゃない。俺が好きなのは知佳さんだけだ」
あんなに可愛い彼女がいるのになんて酷いことを言うんだろう。これが私が好きになった人だなんて。
「がっかりしたわ。一之瀬君って最低な人だったのね」
私の言葉にはっとした後、サーっと血の気が引いたように顔色が悪くなった。
「ちがっ!!今のはそういう意味じゃないんだ!!・・・今から全部話すけど、怒らないでくれる?」
すがるように見つめてくる彼に嫌だとは言えず、私はコクりと頷いた。
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彼女の冷たい視線と言葉に一瞬自分がなにを言ったか思い出し、それがとても酷いものだと気付き血の気が引いた。だから弁解というか、自分がした愚かな行動を包み隠さずすべて話すことにした。嫌われるかもしれないけど、今よりずっとましだ。
「つまり、私を嫉妬させて一之瀬君のことを好きだと意識させたかったと・・・」
「うん・・・ほんとに、自分でも馬鹿なことしたと思う」
「そうだね」と肯定されまたグサリと心臓に言葉が刺さる。いや、当然のことなんだけどさ。
「私は、あれを見て貴方を諦めることを決めたの。貴方が幸せになるなら私の気持ちなんて言わないでいようって」
彼女の言葉に、信じられないと目を見開いた。作戦は半分成功していたのだ。結果的に失敗してるけど。
「じゃあ知佳さんは俺のこと・・・」
「好きになってた。貴方の幸せを願うくらいには」
にこりと微笑む彼女に、治まっていたはずの涙が再び溢れ出す。
「まだ、好きだと思ってくれてる?」
「・・・・そうだね。あの女の子が従姉だって知ってホッとしたってことは、うん・・・やっぱりまだ貴方のことが好きみたい」
「知佳さん!!!」
俺は驚く彼女に構うことなく思いっきり抱き締めた。ギュウギュウと締め付けてしまったからか暫くして離した彼女はぐったりしていた。
「ごめんね知佳さん、あんまりにも嬉しくて力加減忘れてた」
「ハァ,ハァ・・・気を失いかけたわ」
ふらっとよろめいた彼女を抱き留めると彼女の黒髪から華やかな香りがし、それが鼻を擽る。その頭に頬擦りしたいけどぐっと我慢する。
「知佳さん、俺知佳さんのこといっぱい傷付けちゃったけど、それでも俺の彼女になってくれる?」
「もうこんなことしないなら・・・」
「絶対しない!!!知佳さんが嫌なこともうしないから!!」
この時の俺はかなり必死だったろう。彼女の言葉1つで今後の俺の幸せが大きく変わるんだから。
「ふふっ、こんなに必死な一之瀬君初めて見るかも。うん、一之瀬君・・・私の彼氏になってください」
桃色の唇から紡がれたその言葉に、俺は一瞬ショートしたように動けなくなる。ただそれはほんの一瞬で、次の瞬間には再び彼女を抱き締めていた。今回も力加減を忘れて。
「知佳さん、知佳さん、知佳さん・・・!!!俺凄く嬉しい!!やばい、幸せすぎて死んじゃいそう・・・でも知佳さん悲しませたくないから死なないけどね!!」
それくらい嬉しかったんだよと今度は綺麗な黒髪に頬擦りする。周りにはいつのまにか生徒が集まっていたけどそんなもの気にならないくらい、今の俺は彼女しか見えていない。
「分かったからっ!放して苦しっ・・う、人にも見られてるし・・・」
「見せつければいいんだよ。俺と知佳さんがこんなにも好きあってるって。知佳さんに横恋慕してるやつもこれで諦めるね」
もう彼女に言い寄ろうとするやつもいなくなるだろう。良かった・・・彼女を捕まえることができて。後少し遅ければ、俺もあいつらと同じ場所にいたかもしれないのだから。
「私より一之瀬君のほうが女の子に人気あるくせに」
「俺は知佳さんだけでいいよ。知佳さんさえいればなにもいらない」
とびきり甘い顔をしていることは自覚している。そんな俺の顔を見てりんごみたいに頬を赤く染める彼女にキスしたくなったけど、それは2人きりになるまで我慢しよう。
「あ、そうだ。あのね?」
「ん?なに?」
頬を染めたまま上目使いする彼女に獣の本能が呼び覚まされそうになるけどぐっと耐える。
「一之瀬君の従姉さん?私も会ってみたいんだけど・・・」
どうやら彼女は従姉のことを気にしているみたいだ。まあ会って彼女が安心するならば、俺は彼女のしたいままにさせようと思う。
「いいよ。でも知佳さんが思ってるみたいなやつじゃないからね?ほんとに想像とはかけ離れてるんだからね?」
たぶん見た目だけであの従姉様を可愛らしいものだと思っているみたいだけど現実は違うからね。その後俺は約束通り彼女に従姉様を会わせた。やはり見た目と中身のギャップに彼女は戸惑っていたみたいだけど、今ではかなりの仲良しになっている。たまに俺といるより楽しそうなのは気に入らないけどね。
そしてもう1つ、あの大観衆の前での2度目の告白から、俺と彼女は学校公認のカップルとなった。まああれだけ派手な告白をしたのだから当たり前なのだけど。お陰で2人とも告白されることがなくなった。俺達の仲を裂くような馬鹿がいなくてとてもありがたい。
今日も俺は愛しい彼女のいる教室へ向かう。
「知佳さーん」
いつものように愛情込めて彼女の名前を呼ぶと、
「拓海君」
彼女が微笑んで俺の名前を呼んでくれる。付き合う前では絶対になかったことが今は当たり前にある。それがとても幸せだ。
でも俺の・・・俺達の最終ゴールはここじゃないよ?最初に言ったよね?
『結婚を前提にお付き合いしてください』
「知佳さん、ずっと俺だけの知佳さんだからね?」
end
おまけ
「知佳さん」
彼とお付き合いを初めて早1ヶ月。順調に進んでいる私達はまだまだ初々しい関係である。まだ手を繋いだことしかありません。彼曰く、「知佳さんのペースでいこうね・・・俺が我慢できなくなるまで」と最後恐ろしいことを口走っていたことは聞かなかったことにしたい。
「知佳さん?」
ちなみにここは彼の家の彼の部屋。遊びに来てと言われ断る理由がなくて来てしまった。きっとお母さんか誰かがいるだろうと安心していたせいかもしれない。現実は誰もいなかったんだけどね。
「ふふっ、知佳さん暖かいなぁ・・・柔らかいし」
むぎゅむぎゅっと抱き締めてくる彼にどこがとは聞かない。
「ねえ知佳さん・・・俺、結構我慢したよ?」
彼の言葉にぴくっと体が震える。
「本当ならね、あの日にしちゃいたかったんだぁ」
あの日とは付き合い始めたあの日でしょうか。
「でも知佳さん初めてだから無理やりはしたくなかったから必死に我慢したよ」
うん。言葉だけだとまったく別のこと言ってるように聞こえるね。
「知佳さんは・・・俺としたくない?俺はしたいよ、知佳さんとキス」
恥ずかしい・・・羞恥で死ねるとはこのことじゃないか。
「言ってよ知佳さん。俺とキスは嫌?」
子犬がすがるような瞳を向けられて嫌だなんて言える人はいるでしょうか。私はいないと思います。それに・・・
「嫌じゃないよ。ただ初めてで恥ずかしいだけ・・・」
「っ!!!知佳さん!!!」
「きゃっ」
ボスんと押し倒されたのは彼のベッドの上。マットレスのスプリングが強いため、私達の体は軽く跳ねた。思わず瞑った眼を開くと、そこには欲を孕んだ瞳を揺らす彼がいた。
「大丈夫だよ。キスだけ・・・それ以上はまだしないから」
なんだろう・・・とても安心できないのは気のせいかしら。
「知佳さん好き・・・大好きだよ」
「・・・・私も好きよ」
ゆっくり近付いてくる綺麗な彼。私はゆっくりと眼を閉じた。唇になにかが触れる。それは紛れもない彼の唇。初めて触れ合ったそれは少し柔らかく暖かかった。
「知佳さんありがとう。俺、凄く幸せだよ」
ふにゃっと溶けるような笑顔を向ける彼を見て、なんだか私まで嬉しくなってしまった。
「だけどキスしたらもっと知佳さんが欲しくなっちゃった。暴走したらごめんね?」
「えー・・・」
どうやら私は彼の中の猛獣を起こしてしまったようです。無駄な努力かもしれないけれど少しだけ逃げようと思います。
その後3ヶ月頑張ったけれどやはり猛獣という名の彼に捕まった私は彼にたくさん愛されることになる。そのあとの献身的な彼の姿から、友人達に冷やかされるはめになる。穴があったら入りたいと、切実に思う私でした。
終わり




