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第二十話 決戦



 1



 海斗は目の前に立つ、シフォンとサーファの姿に目を瞬かせる。


「……すげぇな、やっぱおまえらの能力」

 

 シフォンとサーファは、それこそ執事のような格好をしていた。

 容姿だって完全に男のそれだ。

 中性的な顔たちの男二人に変身した彼女らは、腰に手をあてる。


「私たちが世界の敵になります。……ですが、その後も普通に生活をしたいでしょう?」

「そのためにわたくしたちの姿を変化させる、当然ですわよね?」

「……なんだよ。おまえら、最初から自分達が犠牲になるつもりはなかったのか?」


 昨日の思いをこめた感情に任せた説得を思いだし、海斗は照れくささが先行して頬をかく。

 しかし、シフォンとサーファは片手を繋ぎ、もう片方の手を胸にやる。


「……違います。結局私たちは死ぬ道を考えていました」

「そうですわ。……戦闘で魔族と人間が共闘したところで、わたくしたちは人間と魔族の代表に殺される予定でしたわ」

「カイトさんのおかげで、その倒される役を見事に変えることができました。感謝しかありません」


 笑顔を浮かべて二人が抱きついてこようとするが、海斗は彼女らの頭を押さえつける。


「なんですか」

「良いではありませんのっ」

「男の姿で抱きついてくんな」

「そんなカイトさんは、女性の姿ではありませんか。可愛いですよ」

「そうですの、お姉様」


 そう、海斗も性別を逆にしてもらっている。

 おまけに、見た目も大きく変化しているため、一目で海斗と判断されることもないだろう。


「……二人とも、それじゃあ行くけど準備はいいな?」

「はい。いつでも大丈夫です」

「決意はもう何十年も前に出来ていますわ」


 強気な二人の表情に押されるように、小さな家の外に出る。

 そのまま、シフォンが作り出した巨大なドラゴンの背中に乗り、戦場となっている北へと向かう。

 ドラゴンの背中に乗りながら、サーファに作ってもらった一本の剣に手をやる。

 初めて使うことになるが、感触は悪くない。

 魔王と勇者。両方を押さえるために、ナツキにもらった一本では足りないため作ってもらったのだ。

 

「サーファ、用意はできているな?」

「もちろんですわ」

「シフォンは?」

「私もですよ」


 戦場が見えてくる。

 中央そこで……二人の女性が剣による戦闘を行っている。

 彼女らの戦闘は激しく、誰もその近くに寄ることはできない。

 そこから離れた場所で、人間と魔族は睨みをきかせているだけ。


 人間も魔族も、どちらも魔物と兵を後ろに控えさせるだけ。

 ――情報はあらかじめ集めていたが、魔王と勇者のぶつかり合いは激しい。

 力なきものがわりこめば、勇者と魔王の邪魔をするだけ。

 無為に命を散らす。

 強者同士のぶつかりあいによる戦争……。あまたの兵はじっと固まっているだけだ。

 だからこそ、そこに割り込めるような人間は目立つことができる。


「それじゃあ、終わらせてくる」


 この場でもっとも注目を集めるのは、その二人の戦闘を止めることだ。

 海斗はドラゴンの背中から飛び降りる。

 ドラゴンに乗っている段階ですでに注目は大きい。


「お、おいっ! 誰かがドラゴンから飛び降りてくるぞ!」


 人間側が叫び、魔族側にも同様に混乱が吹き荒れる。

 それをみた人間側も困惑に染まる。

 お互いが、敵の切り札だと思っていたようだ。

 人間でも魔族でもない……両者の敵になるために海斗は武器を構える。


「魔王様! 謎の敵が上空へっ!」

「勇者様! 上に気をつけてください!」


 魔族と人間が、それぞれ魔石で声を反響させる。

 魔王と勇者が顔をあげる。

 懐かしい、と思った。

 三年の月日があり、多少は雰囲気も変わっているが……それは紛れもないヒビロとナツキだった。


 あらかじめ街で情報は掴んでいたが、この目で見るまではっきりとはしていなかった。

 二人の無事な姿を確認し、それから目に力をこめる。

 二人が警戒するように離れ、その空間へと海斗は着地する。

 魔王と勇者は一度視線をかわし、それから間合いを詰めてくる。


「邪魔をするなら斬るだけだっ」

「あたしたちの戦闘の、邪魔をしないでっ!」

 

 ヒビロが剣を振りぬき、海斗は片方の剣で受ける。

 その際に、ネックレスが見えるようにヒビロに一瞬だけ体を向ける。

 反対のナツキの剣は、ナツキからもらった剣を使い防御する。

 

「あんたっ……」

「……まさかっ」


 ナツキとヒビロは察しが良いようで、一瞬で理解してくれた。

 この作戦を果たすには彼女達の協力も必要だ。

 海斗はネックレスだけはしまい、声をあげる。

 

「お――私は精霊王だ」

「え?」

「精霊、王……っ?」


 海斗の言葉を聞いた二人が目を見開く。

 魔力を剣に付加し、剣を振りぬく。

 魔力を含んだ斬撃が、魔王と勇者へと当たる。

 二人はそれぞれ剣で防ごうとするが、耐え切れなかった。

 起き上がったヒビロの体に追撃し、反対のナツキにも即座に同様の攻撃を放つ。

 派手に地面を転がっていく二人を見届ける。


「ま、魔王様!?」

「ゆ、勇者様!?」


 ヒビロの体をヴァルロが支え、ナツキも騎士の男に助けられる。

 魔族、人間ともに絶望したような顔をしていた。

 先ほどまで誰も敵わなかった二つの勢力を、いともたやすく無力化したのだから当然だろう。

 海斗は悪役を演じる気持ちで両手を広げる。

 同時に、足場がもりあがり海斗は周囲を見下ろすように声を張り上げる。


『魔族と人間よっ! さあ、よく聞け! 私の名は精霊王っ。世界を見守る神に近い生き物だ!』


 海斗の声はサーファが作った音を反響させる道具によって、周囲全体に響いていく。

 精霊王。

 この世界では昔にいたとされる精霊……人間と魔族、どちらにも協力しないまさに今の海斗たちのような第三の勢力。


 とうに消滅したと思われていたその王が現れたことによって、魔族と人間たちは固唾をのんで見守る。

 良い調子だ。

 海斗はさらに続ける。


『魔族と人間は、このくだらない争いを何年も、何十年も繰り返している。いつかは治まるだろうと見守っていた私だが……こうも世界を傷つけられては黙ってはいられない。おまえたちは、この戦争によって多くの命を無為に消し去り、大地を、生き物を減らしてきた。だから、例外ではあるが介入させてもらった』


 海斗が片手を空に振り上げる。

 同時に、周囲に地震が発生し、人々が離れていく。

 海斗の周りに誰もいないというのがわかったところで、サーファが地面をもりあげ巨大な塔を作り上げる。

 

『……魔族と人間よ。この塔には多くの魔物が生息している。そして、それらの魔物は放っておけば、いずれ外へとあふれ出すだろう』


 動揺が増していく。

 楽しくなってきた海斗はさらに脅すように続ける。


『はったりだと思うか? だがな、私は魔物を作り出すことができる』


 空に手を振り上げると、空を覆いつくすほどの飛行魔物が大量に作り出されていく。

 シフォンが用意していた数多の魔物に、いよいよ魔族と人間は体をがたがたと震わせていく。

 あの魔物たちが、このまま地上へ降りてきたらどうなるか。

 皆理解しているのだろう。


『私はいつでも世界を飲み込む力を所持している。だが、それを実行するのは、今後も戦争が繰り広げられるのならばの話だ。私はあくまで世界を修正するためのシステムにすぎない。このまま間違った道を歩むのならば、世界を一度破壊して、修正するためだけのシステムだ』


 破壊、という言葉に多くが反応する。


『……だが、自分たちで過ちを理解し、そして修正しようというのであれば、私はそれを見守るだけだ』


 その言葉に頷くものの多くが、実行することはない。

 だから、こちら側で迷宮を用意した。


『この塔――迷宮は、やがて魔族と人間の大陸へとあふれ出ていくだろうっ。お互いの協力なくして、迷宮の脅威から世界を守りぬくことはできない。勇者と魔王よ。賢い選択をすることを、期待する』


 海斗は二人に視線を向けて、地面を蹴る。

 追撃の魔法が来ることはない。

 途中で足場を魔力で固め、もう一度跳び二人のドラゴンに届いた。

 魔物たちは姿を消し、海斗たちの姿をサーファが消す。

 それによって、魔族と人間は姿を隠せるというのがわかり、世界のどこかで見ているということが伝わる。

 

「……どうなりますかね」

「……ダメだったら、もう手遅れだってことだろうな。そのときは、本当に世界を潰すか、片方の種族がなくなるかしない限り無理だろうな」

「そのときは、そのときですわね」

「まあ……大丈夫だろうさ」


 今回の戦争は、人間側から仕掛けたものだ。

 魔族側の意見は恐らく変わっていない。

 人間側が考えを改めれば、いくらでも歩み寄れる可能性はあるだろう。


「……すべて、うまくいきますかね?」

「難しいと思う。しばらくの時間は、俺たち精霊王に与えられた無理やりな平和な時間だ。強制的な平和じゃあ……長くはもたない。……だから、後は人間と魔族が自分達で気づいてくれることを期待するしかない」

「できますの?」

「それは、見守るしかないだろ」


 海斗の言葉に二人も笑みを浮かべた。


「それでは姿を戻して、人間の世界でも楽しみますか?」

「……俺は明らかに欠陥した身体なんだがな」

「見た目だけならば、人間のものにもできますわよ?」

「……そういえば、そうだったな」


 海斗はこれからどうなるか、先に不安を抱きながら空の旅を楽しんだ。




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