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第十六話 双子

 1

 

 海斗はテーブルに座っている二人を見やる。

 サーファが作りだしたテーブルは、貴族が使っているような豪華なものだ。

 どうせ作るなら豪華なものを。

 サーファの考えにも同意だ。


 海斗はテーブルの前に作られた黒板を使い、簡単に説明をしていく。

 この黒板、魔力で跡をつけられるため、それを文字代わりに使っていく。

 良く学校でも使われているものだと二人に説明を受けたが、海斗はそんなことは知らなかった。


 人間と魔族の絵を書き、海斗が見聞きしたことを伝える。

 どうでも良いようなことから、社会に深く関わるようなものまで様々。

 シフォンとサーファは作り出した眼鏡をかけて、仲良く手を繋いでいる。

 授業のようなものはざっと終了した。


「……というわけだ」


 黒板から手を離し、腰に手を当てる。

 伝えられることのすべてを彼女らに言った。


「そうですの」

「人間と魔族、やっぱりいつまで経っても仲が悪いですね」

「ああ、けど少なくとも魔王は人間と仲良くしたいと思っているようだ」


 そして、その道は決して簡単ではない。

 ゴゾッガのような考えだってある。

 結局正しいと決めるのは最後に生き残っているほうだ。

 自分の意見を押し通すわがままさがなければ、共存というのは不可能だ。

 海斗も共存して欲しいと考えていた。

 どちらも良い種族で、どちらかがなくなるというのは嫌だった。


「そうですか」

「とはいえ、そう簡単ではありませんわよね」


 シフォンとサーファがこくこくと頷く。

 人間側についてはわからないが、同じ魔族の中でも喧嘩が起きている。

 この状況で、対立している相手側と仲良くする余裕などない。


「……いくつか、俺からも聞いていいか?」

「そうですの! カイトさんは恋愛とかしていないのですか?」

「ああ、いいですわねっ。人間との……種族の違い……! 身分の違いによる悩みっ、苦労っ! ありませんの!?」


 興奮気味にサーファが顔を寄せてくる。


「恋愛か……」


 前世であれば、誰かを好きになったことはあったが、異世界に来てからは考えてもいなかった。

 恋愛というのも人それぞれだ。彼女らが求めるような甘酸っぱいものは、残念ながら提供できない。

 この世界に来てからは、明日を生きるのに必死だった。


 それこそ、餌を求める野良猫の心境も理解できるほどに。

 誰かの面倒を見たり、大事件に巻き込まれたり。

 まとめていて、ようやく落ちついてきているのに気づいた。

 だからといって、すべてが良いわけでもない。

 落ち着くと、嫌なことも思い出してしまう。

 首を振り、腰に手をあてる。


「まあ、一目惚れだったり、誰かを好きになったりはあるけど、おまえらが望むようなものはねぇな」

「そうですか。つまらな――縁のない人生でしたね」

「うーん、色々とお聞きしたいものでしたわ。わたくしたちは、恋愛なんてできませんものね」

「ええ、そうですね」


 二人は顔を見合わせてどこか嬉しげに、顔を近づける。

 まるでお互いが恋人、とでも言いたげな動きだ。

 二人はどこか悲しげに目を細めて離れた。

 サーファがシフォンから手を離して、テーブルをばんと叩く。


「カイトさんは、ワーウルフですわよね? にしては不思議ですわ」

「どうして、人間の心を持っているのですか? それに、ワーウルフにしては圧倒的に力が強いです」


 シフォンが控えめにテーブルに手をつける。

 アオイから、現地の人に異世界人だというのは別に伝えても良いとはされている。

 だが、二人に伝えれば興味をもたれる。

 それでそれでと質問を重ねてくる姿が想像できた。


「まあ、色々とあるんだよ。俺としたら二人のことも知りたいんだが? そっちばっかり質問はずるくないか?」


 責めるような目を作る。

 大した演技力もなかったが、二人は顔を見合わせる。


「一理あります」

「それで、どんなことを知りたいんですの?」


 からかうように顎に手をあて、サーファがテーブルから離れ、体を寄せてくる。

 胸の膨らみを強調するような姿勢に、海斗が頬をかきながら、


「二人の能力についてだ」

「なんだそんなことでしたの?」

「それでしたら、これから実演とともに、伝えましょうか」

「いいですわね。肩慣らしにちょうどいいですわ」


 サーファがシフォンに抱きつき、シフォンもそれを受け入れる。

 二人を見分けるもう一つ、大きな違いがある。

 それはあまりにも目だった違い。

 指摘すれば、何かしらの反応があるだろう。

 サーファは巨乳で、シフォンは絶壁だった。



 2



 シフォンたちの背中を追い、やがて開けた空間に出た。

 もちろん周囲に木々は生い茂っているが、その空間だけはおあつらえ向きに開放されていた。


 その空間の中央……そこにシフォンたちは立つ。

 まずはシフォンがサーファの手の甲にキスをする。

 サーファの魔力が膨れ上がる。


 それを確認したシフォンが、サーファの腕を撫でてから離れる。

 海斗はこれから何が起こるのか分からずに見守っていると、


「世界よ、姿を変えなさい」


 サーファが左手を腰にあて、右手を顔の横にもって指をならす。

 指がなったのに合わせ、周囲の魔力が崩れ形が崩壊していく。

 衝撃に海斗が顔を覆う。

 腕の隙間から前を見る。

 変化していく周囲の光景に目を奪われた。

 何もなかったはずのその空間に家が作られた。

 周囲の木々もすべて消滅していく。

 サーファは息を吐き出した。

 衝撃が収まる。

 海斗は守っていた腕をどかし、はっきりと見る。


 ここにさっきまで何もなかったと伝えて、一体何人が信じるだろうか。

 見事な一軒家が我が物顔で、そこを支配している。

 一般人が望んでもなかなか手に入らないような大きな家。

 外装だけであるが、見事な創りに海斗の頬が引きつる。


「これがわたくしの能力、世界変化ですわ」

「……すげぇな」

「ふふん、凄いのですよサーファは」

「そんなに褒めないでくださいまし。シフォンだってわたくしを越える能力を持っているではありませんの」

「ふふん、そうですね」


 二人はすっかり調子よく笑いあう。

 二人は慣れた様子であるが、海斗はこの異常な力に恐怖に近いものを抱いていた。


「世界変化って……例えば、人とかも作りかえられるのか?」

「無理ですわよ。あくまで、その世界の……人、魔物以外のものですわね。ただし、人もやりようによってはできますわ」

「……そうか」

「それでは、次は私ですね。はい、どいたどいた」


 シフォンがサーファの背中を押していく。

 二人は笑顔で子犬のようなじゃれあいを繰り返す。

 シフォンの手にサーファがキスをすると、彼女の魔力が膨れ上がる。

 シフォンは海斗をみてふふ、とからかうように目を細める。

 背筋がぞくりと冷える。

 企むような彼女の両目が嗜虐な色を帯びる。

 シフォンが手を振ると、目の前に小さな竜が出現する。


「……さぁ、やってみせてください。スモールドラゴンっ! カイトさんの力を調べてください!」

「おまえの能力は魔物を作るものか?」


 慌てて剣を抜き、スモールドラゴンのタックルをかわす。

 横に飛んだ海斗はすぐにステータス画面を開く。

 反射的にポイントを意識した。

 現在のポイントは56。海斗はそれを見ながら、スモールドラゴンの背中を斬りつけた。

 一度の斬撃でスモールドラゴンは消滅する。


 死体が残らないことに僅かな驚きはあったが、ポイントが増えたことに満足して剣をしまう。

 それからじろっとシフォンを睨む。

 シフォンは笑みとともに頭をかいた。


「いやーまあ、このくらいの敵だったら大丈夫だと思いました。大丈夫でしたでしょう?」

「つってもだ、いきなりは心臓に悪い。一言教えてくれたほうが嬉しいんだが」


 伝えるとシフォンは納得した様子で頷いた。

 それにしても、どちらの能力もはっきりいって異常だ。

 鑑定で名前しか見えなかったのは、二人の能力が高すぎて海斗では把握できなかったのかもしれない。


「……なあ、二人は本当になんなんだ? どうやってこの世界に来たんだ? どうして元の世界に戻らないんだ?」


 浮かんだ疑問をそのまま口にする。


「そうですね、私たちはもともとあなたと同じ世界の人間です」

「この世界には偶然、やってきましたわ。ええ、本当に特に理由もありませんわ。カイトさんと同じように二人で偶然魔力爆発を起こし、この世界に来てしまいましたわ」

「そうか。昔から魔力はいっぱいあったってことか」

「まあそうですね。ですが、この世界に来てから一気に力が覚醒して……今のようになりました」

「なるほどな……」


 顎に手をやる。

 この二人は、今まで相手したきた中でも一番の化け物だ。

 それこそ、今のまま戦闘にでもなれば、海斗では相手にもならないかもしれない。


「シフォン、おまえの魔物製造の能力は……なんでも作れるのか?」

「はい。現実にいる魔物を……魔力が許す限りいくらでも作れます」


 それを聞いて、笑みがこぼれた。

 彼女の能力を使えば、有限ではあるがポイントが稼げる。


「俺に修行をつけてくれないか?」

「どういうことですの?」


 サーファが首を傾げる。


「俺の能力は、倒した魔物の数だけ、スキルを獲得できるって感じなんだよ」


 伝えると、シフォンとサーファは顔を見合わせる。

 理解したようで、ニヤリと笑みを作った。


「まあ、今さら一年、二年の時間などわたくしたちには関係ありませんわ」

「サーファの言うとおりです。カイトさんからも色々と教えてもらえることがまだあるかもしれません。しばらく、相手になってやりましょうか」


 シフォンが笑顔を浮かべ、海斗も静かに拳を固めた。



 3



 三ヶ月ほどが過ぎた。

 現在所持しているすべてのスキルを獲得し、レベルもあがった。

 鑑定、鍵開け、経験値五倍、熟練度五倍、魔物操作、デコイLv7、自己治癒Lv10、サンダーボルトLv12、ファイアーボールLv10、肉体強化Lv14、探知Lv12、格闘術Lv10、剣術Lv13、アグレッシブLv8、魔法付加Lv9、斧術Lv1、槍術Lv1、盾術Lv1。

 サーファの能力で武器も作れるが、剣以外に使う予定がなかったため、レベルあげはしていない。


「わースキル一杯ありますね。レベルも凄い高いです」

「ですわね。あなたも、普通の人間ではありませんわね」


 海斗の背中に張り付くようにして、二人がステータスを覗きこんでくる。

 二人はこのステータスも見える。

 最近、アオイが二人の異常に疑問を持ったため、調べている。


 とはいえ、異常な存在というのはどの世界にもいるだろう。


 地球にだって、他を圧倒するような力を持っている人はいる。

 何かしらのスポーツを見れば、その実力がずは抜けているというのは多々ある。


 海斗はそれよりも、寄せられる彼女らの感触に頬が引きつる。

 左側にはなにやら胸が当たっているため、海斗としては少し困っている。

 右側だって、肌や腕の柔らかさなど嬉しい感触がある。

 現在所持しているポイントは2100だ。

 これ以上、新種の魔物はいない。

 シフォンが一から魔物を製造することもできるが、それはあまりにも効率が悪いため、試していない。

 これで、あの世界にいる魔物のすべてを倒したということになる。

 

「進化しませんの?」

「この体もうまく動かせるからな……。人間まで一気にいけるならまだしもな」


 海斗は進化の画面を見る。

 進化は40回行えるため、人間まで到達できる可能性もある。

 ただし、一回の進化でかなりの激痛が起こる。今のままでも満足に動けているため、進化を先延ばしにしている。

 いつかは進化をするため、一度くらいはしておこうかとも考えている。

 と、海斗の画面を見るのに飽きたのか、サーファがあくびをする。


「それでは、わたくしは街造りに行ってきますわねー」

「私も行きます」

「俺も気晴らしに行くかな」


 二人が離れ、海斗も立ち上がる。

 嬉しげに目を細めた二人が腕を掴んでくる。

 最近ではこういったのが多い。

 二人はあまり、人と接する機会もなくこの世界に迷いこんだからかやたらと、接触を好む癖がある。


「それでは、三人で遊びに行きますわよー」


 訓練場を後にして、街へと向かう。

 最近では、サーファの能力を全開に使い、島の一部を街のように作っている。

 これは単純に三人の暇つぶしである。

 木々をぬけた先で、海斗の前世

日本のような町並みが広がっている。

 海斗が具体的にサーファに指示を出したことで、再現された日本だ。


「今日は動物園を作りますわよっ」

「そうですね。可愛い魔物を一杯入れましょう」

「檻はしっかり作っておけよ」

 

 飛び出されたら対処できるが面倒だ。

 サーファが一角を更地に変え、動物園を作っていく。

 最初に簡単に地図を作成し、だいたいのスペースを仲良く話し合っていく。

 二人の無邪気な笑顔は……見ていると心がずきりと痛んだ。

 海斗は目を閉じる。

 前世のことが少し思い出された。

 ――忘れよう。

 首を振って目を開けると、目の前にシフォンとサーファの顔が近づいていた。


「……どうしたんだ?」


 内心の動揺を悟られないよう、声を整えながら笑顔を浮かべる。


「それは」

「わたくしたちの台詞ですわ」


 ね、と二人は顔を見合わせる。


「たまに、私たちをみてつらそうな顔をしますね」

「気づいていないと思っていましたの? 三ヶ月も一緒に暮らしていますのよ? 家族みたいなものではありませんこと?」


 サーファがびしっと指を突きつけてくる。

 

「話してくださりませんこと? 本当に嫌なら黙っていてもいいですけれど」

「そのときは体に聞きますよ、サーファが」


 くねくねと体を寄せてくるシフォンと、拳を構えるサーファ。

 二人で言葉の解釈が違うようだ。

 苦笑し、それから向き合う覚悟を決めた。


「……二人が、妹に似ているなって思ってな」

「似ていますの?」

「ああ……妹にさ」

「……どうして悲しそうな顔をしているのですか?」

「……ちょっとな」

「聞かせて、くれませんこと?」


 海斗は前世を思い出しながら、二人に話した。

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