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第十一話 危険


 1



 とある部屋で『誰か』は笑みを浮かべていた。

 魔石の明かりを使っていない部屋は人々が歩くたび、ロウソクの火が揺れる。

 この独特の明るさは嫌いではなかった。

 ――これはチャンスだ。


 いくつかの作戦に例外は生じた。

 しかし、それでも十分に計画は進んでいる。


「――よ。作戦決行は明日の夜だ、良いな?」


 『誰か』の前に立つ男は二メートル近い屈強な体を見せびらかしていた。

 男はオーク系の中でも最強に近い、イクス・オーガの血を持っている魔王にもっとも近い存在。


「ええ、わかっています」


 仮面を被り、声もいつもとは違う。

 『誰か』は対面する男をみて、笑みを浮かべた。


「作戦にいくつか例外もあるが、大丈夫だな?」

「ええ、魔王の娘の回りに邪魔なスケルトンがいますが……あいつの実力もたいしたことはありませんから」

「ふん……負けているわりには余裕だな」

「負け……あれは負けじゃありませんから」

「そうか? 無様な視線をいくつも浴びていたではないか」


 あんなものは負けではない。

 男に対して、僅かに厳しい目を作るが、やがて男は首をふった。

 

「まあ、この後にミスがなければ何でも良い。作戦は覚えているな?」


 男に『誰か』は頷く。


「明日のヒビロ隊の外任務のときに、部下を拘束し……それと引き換えにヒビロを要求。ヒビロの身柄を確保しだい、魔王を殺しに向かう」

「ああ、そうだ。これでようやく。あの愚王による政治が終わる。……人間たちに攻め込むときがくるというわけだ」

「そうですね。人間たちを殺しに」


 ニヤリと『誰か』は笑みを浮かべる。

 『誰か』は人間にももちろん興味はあったが、今はヒビロ隊のほうにばかり目が行く。


「あぁ……さっさと潰したいものだ、あの愚王をなっ!」


 男は興奮した様子で手に持ったリンゴを握りつぶしてみせる。

 それを豪快に口に運び、ニヤリと笑みを作る。


「いつまでも、のん気に人間との共存などを語りやがって。人間との共存? 人間がオレたちの故郷を破壊したのを忘れたのかっ!」

「落ち着いてください」


 男の興奮を抑えるように伝える。

 男はテーブルを叩き潰しそうになるが、そこで呼吸を止める。


「ああ、すまないすまない。明日の作戦……おまえにも期待しているぞ」

「ええわかっています。兵にはきちんと待機しておくように、話しておいてください」

「ああ、わかっているさ」


 男は明日を思ってか、大きな笑い声をあげる。

 『誰か』もまた、明日を思い、黒い笑みを作った。


「さぁ、明日は歴史が変わる瞬間だっ。眠っているかのような停滞したkの腐った世界に、怒りの拳を振り下ろすときがきた。さあ、明日が、魔族の転換期となるっ」


 ロウソクの照らす影が、大きく揺れる。

 男と『誰か』の笑い声がしばらく響いた。




 

 海斗が第九部隊に来てから、数日が経っていた。

 朝起きて真っ先にやることは、同室の二人を起こすことだ。

 一人はタユ、もう一人はレードだ。

 同期ということで、三人で一つの部屋になった。


 スケルトン、という立場のおかげで、完璧な男と見られないのが原因だ。

 もちろん、興奮しないわけではないが、せっかく信頼があるのだから、それを破壊するような真似をしない。


 カーテンを開け、二段ベッドの下を見る。

 タユが服をはだけさせるようにして眠っている。

 かけていた布団も足元にまるまっている。


 タユはどちらかといえば暑がりである。

 今も派手に服がはだけ、成長の早い膨らんだ胸が姿を見せている。

 とはいえ、大事な部分周辺には毛皮がまとわりついている。

 自前の防御はなかなか頑丈だ。

 数度顔面を叩くと、苛立ったように拳が飛んでくる。

 こうなれば起きるのに時間はかからない。

 

「レード、いい加減おきろ」


 階段をのぼり、レードをチラと見る。

 年齢は十歳と少しといったところ。性格を表すかのように布団は綺麗なままであった。

 鳥系の魔族であるためか、背中には翼がある。普段は服の中に納まっているが、今は見えている。

 布団から少しだけでた足を見る。

 ずっと長ズボンであったために気づかなかったが、レードの両足は鳥のようになっている。

 太股からは人間のものであるため、それを眺めていたが、このままではロードと同じになってしまうため、視線を離した。


 寝顔を見ているのがばれると、一日不機嫌になるため長居は無用だ。

 カーテンをあけたため、二人にはずっと光が降り注いでいる。

 五分もすれば、耐え切れずに体を起こしてくる。


「……おはよーだ」

「おはよう……。今日も忌々しい浄化の光。精霊による防壁がなければ、今頃我の身体は朽ち果てている……」

「それじゃあ、二度寝するなよ。先に朝食行ってるから」

「くっ、待つ。私はあなたにすべてのことで負けたくはない」

「起床の段階で負けてるだろ」

「それは数えない。とにかく、ちょっと待つ」


 レードは二階から飛び降り、小さな翼を羽ばたかせる。

 飛行まではできないが、落下を和らげる力はある。

 無駄な能力の使用だ。

 タンスから服を取り出し、い第九部隊の制服をそそくさと身につける。

 ぴっとレードは腰に手をあて、


「先に行っている」


 どこか勝ち誇った様子で部屋を出る。

 海斗はうまい具合に日差しから身を隠しているタユを叩き起こし、共に食堂に向かった。



 2



 第九部隊の食事の担当は、三人の女の子に任せられている。

 朝からきっちり制服に身を包んでいる人は少ない。

 海斗は椅子をひき、準備されていく食事を眺める。

 海斗の隣にタユが座り、その隣にロードが腰掛ける。


「スケルトンって食事をとっても排泄物が出ないよな?」


 ロードがぶしつけに聞いてくる。


「こら、ロード! これから食事ってときに気色悪い話をするな!」

「な、何がいけない!? 女の排泄物はご褒美だろう!」

「……き、気持ち悪い! ロードっ、後で踏んでやるから外を駆け回ってこい!」

「ぶ、ブヒー!」


 ロードは喜んで外へと駆け出した。

 まったく、といった様子でロードを見張っている女性が座る。

 女性は海斗のほうに体を向けてきた。


「まあ、汚い話になるが、ほんとスケルトンってどうなってんだ?」


 ああはいったが、興味はあったようだ。

 勝気な笑みに海斗も苦笑を返す。

 

「俺は食事のすべてが魔力に変換される。あと、魔力の最大値が少し増えるって感じだ。だから、食事は無駄じゃないから」


 それに、これだけの人数の食事となると楽しいものだ。


「へぇ、なるほどねぇ」

「は、走ってきました!」

「もう三周くらい行ってこい」

「ブヒー!」


 ロードが息を切らしたまま外に向かった。この光景はすっかり見慣れた。

 女性がふんと鼻を鳴らす。

 ちょうど食事の用意が終わり、食事を始める。


「そうだった。今日、緊急の仕事が入った」


 食事が始まったところで、ヒビロが口を開く。


「緊急の仕事? どのようなものですか?」


 食事の手をとめて、隊員が問う。

 海斗も関係のある話だろうと考え、意識を向ける。

 この部隊の戦闘員は少ない。

 海斗たち三人とヒビロ、ロード、ヴァルロ、ロードを見張っている女性のみだ。

 残りは全員後方支援が主な仕事である。

 ヴァルロは常にヒビロの護衛をしているため、基本的には数えない。

 海斗たちが入るまでは、ロードと見張り役の二人でこなしてきた。


「この街から東に行った場所にある洞窟は知っているな?」

「えぇ、まあ」

「そこに、見慣れないゴーレムが出現したらしい。そいつが暴れているから、討伐するように伝えられている」

「なるほど……」


 隊員が顔を顰めるが、ヒビロは勝気な笑みを浮かべる。


「大した魔物ではないという情報もある。ロードが珍しくやる気を見せているから、ロードをリーダーとして……そうだな、私の護衛はヴァルロだけでいい、全員で行ってこい」

「わかりましたっ。遊びみたいな感じでいいんですかぁ?」

「ああ。任せたぞ」


 ヒビロはどこか考えるように顎へ手をやる。

 ヴァルロも何かを思考しているのか、口を出すことがない。

 海斗は、何かあるのか疑いながら、昨日アオイに渡された小説を思い出していた。



 3



 執筆妖精が海斗の身から離れ、昨日の夜に別の誰かを追跡し、小説を勝手に書いた。

 その書かれている内容が、問題であった。

 まるで、ヒビロの部隊を狙うようなものだったから。

 食事を進めながら、海斗は思考をめぐらす。


 問題は敵が分からないことだ。

 分かっているのは、海斗が話したことのある人物ということだ。

 妖精は海斗の周囲を飛び回り、海斗について書くのが基本的な仕事だ。

 だが、執筆機能ちゃんもおてんばなところがある。

 別の人間での視点を書くし、海斗に関わった中で、これから先の面白そうなことも書いてしまう。


 今回はお手柄だ。

 嬉しい反面、敵というものが曖昧であるために、恐怖のほうが大きい。

 イクス・オーガ。

 アオイに小説を教えてもらってから、すぐに調べた。

 オーク系の中でもトップレベルの種族だ。

 この国に、イクス・オーガは数体いる。


 執筆機能ちゃんのお節介で、おおよそ敵が反乱を企てている理由も理解できている。

 現在所有しているポイントは56。

 これから先、連戦になる可能性を考慮して進化しておくのも悪くはないかもしれない。

 進化先もいくつかある。

 実際、魔族も進化というのはあるため、気軽に選択してもいいが……その進化先について悩んでいた。

 オーク、ワーウルフ、ハイ・スケルトン。


 容姿的な変化が嫌ならば、ハイ・スケルトン。

 肉体的な強さとしてすでに体験しているのはオーク。

 

 だが、今回海斗は、ワーウルフについて、しっかりと調べてある。

 第九部隊の拠点にあった本では、ムキムキな体の人狼の絵があった。

 おまけにワーウルフだけは、月の明かりの下で身体強化されるというのもわかっている。

 まだすべてがきちんと調べられたわけではない。


 時間があればじっくりと考えたいところであったが、事態が急変する可能性もある。

 食事を終えたところで、全員に進化できることを伝える。

 みなが喜んでくれ、ヒビロがニヤリと一際強く笑みを浮かべた。

 指名してよかった、という顔だ。

 それに笑みを返しながらも、海斗の悩みはやはり敵についてだ。


 執筆機能ちゃんが書いた『誰か』。

 名前を書いてくれれば簡単であるが、そこは執筆機能ちゃんによる遊びだ。

 名前をあげると神たちの興味が惹けないというための配慮。

 せめて自分にだけは教えてくれ……海斗はそう思わざるを得なかった。


 ヴァルロでさえ、敵の候補にあがる以上、相談できるのはヒビロだけだ。

 ただ、疑いはあってもヴァルロは犯人ではないだろうと思っていた。

 『誰か』は海斗に敗北した記憶を持っている。

 魔族で海斗に敗北したのは、クロス、ロード、タエ、レードくらいだ。

 誰かまでは判断できない。


 多少怪しまれることを覚悟しながら、ヒビロにだけは、話すことにした。

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