時空航行船グランドクロウ1
暇なので。
時空航行船の基本的な構造はどれも変わらない。エネルギーを次元空間からの相対差によって作り出すストーン系ジェネレータ。重力制御を行うグラビティジェネレータ。空間の圧縮と開放を行うことのできるベクタージェネレータ。そしてこの世のあらゆる事象確率、法則を扱う確率事象変動機関。この四つが今主流の時空航行船の必須機関であり、同時に時空航行船を小型化できない理由にもなっている。
ストーン系ジェネレータは4つの機関のうちで最も古くに発明され、今も研究、開発が続けられている装置だ。最古に作られた無限情報サーキットを用いたGSRが基盤であり、ルミノタイト、ゲノムストーンなど、基本的に触媒となる物質が天然の発掘石だったためにストーン系と呼ばれた。触媒の内側は、外の次元よりも常にエネルギー準位が低くなるという特性があり、その差異からエネルギーを取り出す。しかし自然石を用いていたことからもわかるように、なぜエネルギーが引き出せるのか。どこからエネルギーを得ているのか。そしてそのあとも何故いつでもエネルギー差異が発生するのか。その理由についてはごく最近まで解明されていなかった。そのため触媒に天然石という、この超次元大航海時代にはそぐわないかなり原始的な装置だった。
ところが最近になってその仕組みがようやく解明され、初めて触媒を用いない純粋なジェネレータの開発に成功した。だがその出力の高さ故に、時空航行船に使われていることはほとんどなく、軍用を除くほとんどの船はいまだにストーン系ジェネレータを用いている。
グラビティジェネレータは二番目に古い装置だが、確率事象変動機関がその代用を行うこともできるため、最新の船には搭載してない場合もあるらしい。このグランドクロウは最近作られたとはいえ二世代前のものだし、試験機故に搭載している。
誰もが思うのは、重力嵐の相殺を行なっているのではないか、ということである。しかし実はそれは違う。重力嵐は変移が激しく、大出力のグラビティジェネレータでは時に大きく、時に繊細な波には対応できない。重力嵐を相殺してるのは、時空航行船を覆う時空防護壁である。防護壁は極限まで加速された時間の中で緻密に重力を計測し、瞬時にその逆位相の重力を船内に放出する。壁のタイルはナノオーダーの大きさであり、それらすべてが自律的に処理を行なっているわけだ。
ではこの装置は何を行うのか。それは単純で、艦内の重力制御と、通常空間における操舵と重力圏における浮遊。そして他の船などの相対補正などだ。つまり、装置自体は大きい割に仕事はあまりしてないと言えるかもしれない。
ところが、軍事的な話になってくるとそうも言ってられなくなる。時空航行船には実弾は効かない。空間位相をほんのすこしずらせば物理的に接触しないし、そもそも命中しようとしても確率事象をねじ曲げ、命中確率をほぼ0にできる。その上時空防護壁があらゆる運動エネルギーを相殺するため、光速の99%の弾丸も、装甲に接触した瞬間に船との相対速度0になる。重力波は光速と同等であり、それを相殺可能な装甲なのだから当然だ。
ところが、一つだけ時空航行船を破壊できる方法がある。それはグラビティキャノンだ。言ってしまえば指向性重波発生装置。そしてその動力源がグラビティジェネレータなのだ。
時空防護壁にも弱点はある。それは処理量を上回る重力波に晒された場合だ。次元界にも強力な重力嵐が存在し、その前には時空航行船は木っ端微塵になってしまう。それを人為的に起こすのがグラビティキャノンと言える。しかもグラビティキャノンは指向性。波紋状に広がる重力嵐と違って、どれだけ次元距離があろうとも衰えることなく進む。そして重力波故に貫通後も衰えることがない。重力波は次元空間レンジが広く、多少空間位相をずらして回避しようとしてもダメージは避けられない。まさに悪魔の兵器と言っていいだろう。対処法は同じ出力を持ったグラビティキャノンで同一方向に逆位相で照射することだが、波形パターンをランダム化されると対処できないし、全く同一方向にそれほどの出力で照射するなど、自殺行為に他ならないだろう。もし相手が撃つのをやめたら自壊してしまう。
ところが、指向性重力波を回避する方法が後々編み出された。それがベクタージェネレータだ。ベクタージェネレータは存在空間フィールドを自在に操ることのできる装置で、いわば無から宇宙空間を作れる装置だ。これによって重力波は簡単に折り曲げられ、到達することがなくなった。ベクターフィールドの構造を解析されない限りは、どの地点からどの方向に照射すれば目標に到達するのか予測することが不可能になったのだ。これの発明が次元大戦を一気に収束させたのは間違いない。
さて、ベクタージェネレータについてだが、先にも述べたように戦時中に開発されたものだ。あらゆる空間的常識を覆す画期的な技術で、不可能とされていた四畳半に体育館の広さの空間を作ることさえ可能になった。重力を用いたりアレスティングフィールド、レプリジョンフィールドを用いた擬似的な空間制御能力ではなく、純粋に次元エネルギーに枠組みを作り出せるものだ。おかげで時空航行船は、その体積以上のあらゆるものを詰め込んで輸送することが可能になり、主要装置以外のかさばる装置はみんな圧縮空間に配置し、時空航行船の小型化が一気に進んだ。
また空間の圧縮にはエネルギーがいるが、開放の際はエネルギーを放出する特性から、空間圧縮型のコンデンサが開発され、ジェネレータなどの主要装置を持たず、次元ステーションで"充電"した圧縮空間電池を交換して動く超小型時空挺も作られるようになった。
今日はここまで