この重力嵐の中で
※この文章は物語ではありません。
ただの設定をつらつらと書き続けるだけですので
物語等を期待サれる方はお手数ですがここでお戻りください・
無音。
いや、静かな中にほんの少し、事象保護壁が振動する音が響くだけ。
人間にとっては不必要に大きな廊下は、今は消灯時間。外から漏れる重力波の光が、ゆらゆらと継ぎ目のない床を照らしていた。まぁ、これは圧迫感を解消するためだけに用意された3Dモニタであり、見えている重力波も本当は不可視のもの、実際ここに窓があるわけじゃない。今いる空間では、確率事象装甲で囲われていないあらゆる物質は、その存在を拒絶されるのだ。時空航行中に窓ガラスをさらけ出すことなどできない。
『ようこそ。当艦は汎用中型時空航行艦"グランドクロウ"です。私は当艦の操舵AIの"ガルム"です。よろしくお願いします。艦内加速度は現在下部へ1.00G。艦内物理法則は現在モードM1です。現在の外部空間の重力嵐は微風。GAが3秒前に発表した次元重力波予報では、進路上の重力波は平均10^10^387Gで、非常に安定とのことです。艦内時間進行度は現在、出発次元の"当艦登録番号:M1579877"と同一のR比較:976.213
倍に設定されています。目的地到着後の時間進行度にご注意ください。艦内時間で約30分後に、当艦は時空中継ステーション"L3-EZ-3867215 MD16メデューサ"に到着いたします。到着前、当艦の操舵は一時的にステーションのオペレートAIに・・・』
静かな船にガルムのアナウンスが響く。だがこの船には今乗客はおらず、誰のためでもない言葉に少し虚しく感じる。
次元宇宙。この時空航行船について説明する前に、まずはこれについて理解していなければならないだろう。
我々は、例外なく宇宙で生まれる。少なくとも次元港や時空航行船が作られる前での話だが・・・。だが、生まれる宇宙は、貴方と私は違うかもしれない。そう、宇宙は無数に存在しているのだ。
私達はそれを"次元"という。次元一つ一つは、物理法則も、物質の概念も、時間の進みも全く異なる。そして宇宙同士は普通、"次元の壁"と呼ばれる概念によって互いに観測不能だった。いわゆるパラレルワールドというものだ。
だが、ロイと呼ばれるある人物が、宇宙の波動性を発見することで全てが変わった。宇宙は物理的に観測はできずとも、エネルルギーの和としてならその存在を認識可能というものだった。そしてロイは初めて次元の壁を超えた次元移動に成功し、元々いた次元と、移動した次元の二点から三点目を観測することで別宇宙全ての観測を可能にした。
この観測点は今はルートカイザーと呼ばれ、11の軸を持つ次元座標の基準点になっている。ここで観測されたあらゆる次元情報は、重力波によって配信されている。
さて、先程言った次元の壁は、今でこそ軽く突破できるが、本来とても強大なものだった。
私達が自分の星で空を眺めても、私達が見えるのは自分の宇宙だけだ。その時、別の宇宙は、実は存在していない。空を眺める私達にとっての話だ。
ある宇宙の内側から、宇宙外の世界を見ると、それは全て波動の渦、つまりエネルギーの流れとしてしか認識できない。そこには空間も物質も存在してない。じゃあパラレルワールドはないのか?いや、現に今この時空航行船は次元間を移動しているのだ。
別の宇宙は存在した。だがそれは、"観測"するまでは、外にいる者にとってはその存在はエネルギーの流れ、量子波動の波の動きでしかなかった。つまり私達の宇宙の外の存在にとっては、私達はただの量子波動としてしか観測できず、ここに星があることも、私達が生きていることも知ることはない。いや、外の誰かにとっては、私達は存在してさえ、生きてさえいないのだ。存在しない空間、存在しない星にどうやって辿りつけよう?これが次元の壁という絶対的な防壁だった。
そう、そこで現れたのが先ほど出たルートカイザーである。ルートカイザーは第三点を"観測"し、その情報を重力波で配信する。これを受けることで、外の次元を相対的に"観測"し、その存在を認識することが可能になったのだ。 その情報を受信できるゲートアナライザーと呼ばる装置は、次元空間を移動する上で必須のものと言っていいだろう。
さて、では今この時空航行船が航行してるのはどこかというと、今いる空間は本来存在しない空間を時空航行船が作り出し、その上をエネルギー的に移動している。この空間は航行空間と呼ばれる、本来存在しなかった宇宙を一つ作り出しているのだ。
ゲートアナライザーのもう一つの役割、それは重力波予報だ。時空航行は安定したエネルギーの上のみでしか行えず、強力な量子波動の荒波に飲まれたら、時空航行船は耐久限度を超える破壊的な重力波を受けることになる。そのため、ゲートアナライザーはリアルタイムで次元を監視し、危険な重力波が発生しそうならそこをロックするようにできている。まぁこれが時空航行船を含む次元移動者を著しく制限する。こんな時代になっても"天候"に悩まされることになるとはね。不思議な気分だ。
さて、そろそろメデューサに到着する。この記録が誰かに読まれることはないだろうけど、また続きを書こうかな。
お疲れ様でした。