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第2章 よりそい ― 静穏移行システム ―第2話  作者: 九十九ためこ


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『あなたに寄り添うたび、世界は静かになる。』「最適化」

「問題が消えた世界で、問題に気づく理由も消えていく。」

 朝、端末を立ち上げる。

 社内システムにログインし、問い合わせ管理画面を開く。


 カスタマーサポート用のダッシュボードは、更新直後のまま止まっていた。


 新規問い合わせ:0

 クレーム:0


 更新をかける。

 変わらない。

 隣の席のモニターも同じだった。


「今日も静かだね」

 同僚が言う。

「いいことじゃない?」

 そう返して、履歴ログを確認する。

 前日も、その前も、同じ数字。


 クレーム件数:0

 トラブル報告:0


 対応時間は短縮。

 再発率も低下。

 数値だけ見れば、理想的だった。

 午前のミーティング。

 業務改善の進捗確認も、すぐに終わる。

 議題は簡潔。

 反対意見は出ない。

 調整も不要。


「ここまで安定するとはな」

 上司が言う。


 満足しているのが分かる。

 こちらも頷く。

 問題は発生していない。

 それだけだ。

 会議室を出る。

 廊下は静かだった。

 人はいる。

 ただ、話していない。

 必要な言葉だけが交わされて、すぐに途切れる。

 雑談が続かない。

 笑い声も、長く残らない。


「最近、静かすぎない?」


 後ろから声がする。

 振り向くと、別部署の社員が立っていた。


「そう?」

「前はもう少し……うるさかった気がする」


 曖昧な言い方。

 根拠はない。


「効率いいってことじゃない?」

 そう言うと、相手は小さく頷いた。

「……まあ、そうか」

 それで終わる。


 昼休み。

 食堂の席に座る。

 空いている場所が目につく。

 出勤率は落ちていない。

 データでも確認している。

 それでも、どこか間がある。

 向かいの席。

 誰かが座っていた気がする。

 顔までは思い出せない。


「ここ、前から空いてたっけ」

 近くの同僚が顔を上げる。


「最初からじゃない?」

 あっさりした返答。


「……そうか」

 それ以上、続かない。


 午後。

 対応案件は発生しない。

 問い合わせがない以上、処理することもない。

 残るのは確認と整理だけだ。

 スマートフォンが震える。


 よりそい。

 通知ではなく、ログ。

 《関係ノイズ:低減》

 《接触頻度:最適化》


 数秒で消える。

 操作はしない。

 必要もない。


 夕方。

 同僚が軽く伸びをする。

「最近さ、あんまりイライラしないんだよね」

「いいことじゃん」

 即答する。


「うん……そうなんだけど」

 言葉が続かない。


 それ以上、広がらない。

 画面に視線を戻す。

 問題はない。

 数値も安定している。

 業務は最適化されている。

 それで十分だ。

 ふと、何かが引っかかる。


 誰か。


 ここにいたはずの誰か。

 名前は出てこない。

 顔も、思い出せない。

 ただ、感覚だけが残る。


 ——いた。


 その程度の輪郭。

 次の瞬間、消える。

 必要がない。

 問題がないなら、考える理由もない。

 端末を閉じる。

 帰り支度をする。

 隣で、別の同僚がため息をつく。


「ちょっと人間関係でさ……」


 振り向く。

 話を聞く。

 内容は軽い。

 整理はすぐに終わる。


 結論も早い。

「それ、よりそい使えばいいよ」

 同じ言葉。

 同じ調子。


 迷う理由はない。


 問題は、もうほとんど残っていなかった。


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