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追放された悪役令嬢は、極寒の辺境で料理の腕を振るう〜醤油とみりんを開発したら、氷の辺境伯様と領民の胃袋を掴んでしまいました〜  作者: 緋村ルナ


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第7章:初めてのお客様と、温かいスープ

 醤油もどきという最強の武器を手に入れた私は、次なる一手に打って出た。それは、この美味しさを、私たちだけではなく、近所の人々にもお裾分けすることだ。

 あの蠱惑的な香りの正体を知りたいであろう隣人たちのために、私はありったけの野菜と、残りのロックブルの肉を使って、大きな鍋いっぱいのスープを作ることにした。

 市場で手に入れたカブやジャガイモに似た根菜をことことと煮込み、柔らかくなったところに、細かく切ったロックブルの肉を加える。そして、仕上げに醤油もどきをたらり。それだけではない。私は市場で見つけた香りの強いキノコを干して出汁を取り、それをベースにしていた。複数の食材から生まれる相乗効果で、うま味はさらに深くなる。

 やがて、我が家の粗末な暖炉の上では、ぐつぐつと実に美味しそうな音を立ててスープが煮えていた。醤油と野菜、そして肉の出汁が混ざり合った、優しくも食欲をそそる香りが、再び家の外へと漂い始める。

「エマ、お皿を用意して。お客様がいらっしゃるわ」

「え? お客様なんて、約束は……」

 不思議そうな顔をするエマに、私はにっこりと笑いかける。

 案の定、しばらくすると、我が家の扉が、おそるおそる、こんこんとノックされた。扉を開けると、そこには隣の家に住む奥さんと、その子供たちが、もじもじと立っていた。

「あ、あの……さっきから、ものすごく良い匂いがするもんだから……。もし、迷惑じゃなかったら、何の匂いか教えてもらえないかしら……?」

 その手には、お礼のつもりなのか、少しばかりの黒パンが握られている。

「まあ、こんにちは! どうぞ、中へ入ってください。ちょうど、温かいスープができたところなんですよ」

 私は満面の笑みで彼らを招き入れた。彼らの後からも、また一人、また一人と、匂いに誘われた近所の人々が、我が家を覗きにやってくる。あっという間に、私たちの小さな家は、十数人の人々で賑やかになった。

 私はエマと一緒に、みんなにスープを振る舞った。人々は、初めて見る黒いスープに戸惑いながらも、一口、また一口とスプーンを口に運ぶ。

 そして、静寂が訪れた。

 誰もが、その複雑で、深く、温かい味わいに言葉を失っていた。それは、彼らがこれまで口にしてきた、ただ塩辛いだけのスープとは全くの別物だった。

「……おいしい……」

 最初に口を開いたのは、小さな男の子だった。

「なんだ、この味は……。初めて食べたけど、懐かしいような、体がぽかぽかするような……」

 鉱夫らしい体格のいい男が、目を見開いて呟く。

「ああ、なんて優しい味なんだろうねぇ……」

 年老いたおばあさんは、スープを啜りながら、ほろりと涙をこぼした。

 その日、私の作ったスープは、集まった人々によって一滴残らず飲み干された。彼らは口々に感謝の言葉を述べ、ある者は家からジャガイモを持ってきたり、またある者は貴重な卵をくれたりして、物々交換のような形で、スープのお礼をしてくれた。

「お嬢様……すごい、です」

 人々が帰った後、興奮した面持ちでエマが言った。

「みんな、あんなに嬉しそうな顔をして……。お嬢様の料理には、人を笑顔にする力があるんですね」

「ええ。美味しいものは、人を幸せにするのよ」

 この日を境に、私たちの家には、ひっきりなしに人が訪れるようになった。「あの美味しい料理を一口分けてほしい」と、食材を持ってやってくるのだ。

 私はその都度、腕によりをかけて料理を振る舞った。醤油もどきを使った煮物、香草と合わせた炒め物。毎日メニューを変え、訪れる人々を驚かせ、喜ばせた。

 いつしか、私たちの家は「陽だまり亭」と、自然に呼ばれるようになっていた。まだ看板も出していない、ただの民家だというのに。

 凍てついた辺境の町に生まれた、小さな温かい陽だまり。それは、私の食卓革命が、確かに人々の心に届き始めた証だった。

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