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追放された悪役令嬢は、極寒の辺境で料理の腕を振るう〜醤油とみりんを開発したら、氷の辺境伯様と領民の胃袋を掴んでしまいました〜  作者: 緋村ルナ


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第17章:絶対絶命、究極の飯テロ計画

 王都からの理不尽な勅令は、レオンハルトを、そしてベルク辺境伯領の民を激怒させた。

「ふざけるな! これは俺たちが、アリアさんと一緒に必死で蓄えた命の糧だ!」

「王都の連中は、俺たちに死ねというのか!」

 城に集まった領民たちの代表は、口々に怒りを露わにした。彼らが冬を越すために、どれほどの努力をしてきたか。アリアがどれほどの知恵を絞ってくれたか。それを、何の苦労もしていない王都の貴族たちが、一方的に奪おうとしているのだ。

 レオンハルトは、玉座で静かに彼らの言葉を聞いていたが、その握りしめた拳は、怒りで白く変色していた。

 彼は使者に対し、きっぱりと告げた。

「王命には、従えん。この食料は、我が領民たちが冬を越すためのものだ。一粒たりとも、王都へ送ることはできん、と殿下にお伝えしろ」

 王命への、真っ向からの反逆。それは、ベルク辺境伯領が王国から独立することも辞さないという、決死の覚悟を示すものだった。

 使者は顔面蒼白になって王都へ帰り、レオンハルトの返答は、ジュリアンをさらに激高させた。ジュリアンは、辺境伯領討伐の軍を編成すると息巻いているという。王家との対立は決定的となり、辺境の地には、戦争の暗い影が忍び寄っていた。

 領民たちは不安に震え、城の空気は重く沈んでいた。

 追い詰められ、苦悩するレオンハルトの姿を、アリアは胸を痛めながら見つめていた。私のせいで、彼を、この地を、危機に晒してしまった。私の成功が、王太子の嫉妬を招いてしまったのだ。

「……私のせいです。私が、余計なことをしたばかりに……」

 自責の念に駆られる私に、レオンハルトは静かに首を振った。

「君のせいではない。悪いのは、民を顧みず、嫉妬に狂った王太子の方だ。君は何も間違っていない」

 彼の優しい言葉が、逆に私の胸を締め付ける。このままでは、本当に戦争になってしまう。彼が、戦場で血を流すことになるかもしれない。それだけは、絶対に嫌だ。

 何か、方法はないのか。武力ではなく、この状況を打開できる、平和的な解決策は。

 私の脳裏に、前世の記憶が駆け巡る。歴史、外交、交渉術……いや、違う。私の武器は、そんなものではない。私の武器は、ただ一つ。

 ――料理だ。

 人の心を動かし、頑なな相手をも笑顔にさせる、料理の力。

 その時、私の頭に、一つの光景が、雷に打たれたかのように閃いた。

 冬の寒い日、家族や友人と、一つの鍋を囲んで笑い合う光景。立ち上る湯気の向こうに、幸せそうな顔、顔、顔。甘辛い香りと、肉が焼ける音。様々な具材が、一つの鍋の中で溶け合い、極上のハーモニーを奏でる。

 そうだ、あれしかない。日本人がこよなく愛する、おもてなし料理の王様。

(『すき焼き』……!)

 それは、ただの料理ではない。人と人とを繋ぎ、心を一つにする力を持つ、コミュニケーションの料理だ。

 一つの突拍子もない、前代未聞の計画が、私の頭の中に浮かび上がった。

「レオンハルト様」

 私は、決意を固めて、彼の前に立った。

「私に、考えがあります。この状況を、私が打開してみせます」

「アリア? 何を……」

「戦う必要はありません。必要なのは、剣ではなく、鍋です」

「……鍋?」

 きょとんとするレオンハルトに、私は力強く宣言した。

「究極の飯テロ計画です。国王陛下と王太子殿下、そして王国の重臣たちを、この辺境の地に招くのです。そして、彼らに、私が作る最高の料理を振る舞う。言葉での交渉がダメなら、胃袋に直接、語りかけるんです!」

 それは、あまりに荒唐無稽な計画だった。敵対している相手を、晩餐会に招くなど、誰も考えつかないだろう。

 しかし、私の瞳に宿る本気の光を見て、レオンハルトは、ゴクリと唾を飲んだ。彼は、私の料理が持つ、不思議な力を、誰よりも知っている。

「……分かった。君を、信じよう」

 彼は、私の無謀な賭けに乗ってくれた。

 さあ、準備を始めよう。これは、ただの食事会ではない。この国の運命を懸けた、一世一代の大勝負。最高の食材を集め、最高の舞台を整え、彼らの度肝を抜く、奇跡の一品を作り上げるのだ。

 私の、そして『陽だまり亭』の全てを懸けた、究極の飯テロ計画が、今、始動した。

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