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追放された悪役令嬢は、極寒の辺境で料理の腕を振るう〜醤油とみりんを開発したら、氷の辺境伯様と領民の胃袋を掴んでしまいました〜  作者: 緋村ルナ


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第15章:冬を越すための知恵、保存食開発

 ベルク辺境伯領に、長く厳しい冬が近づいていた。空はますます鉛色に曇り、乾いた冷たい風が、日中でも肌を刺す。この地では、冬の間の食料確保が、何世紀にもわたる最大の課題だった。雪に閉ざされれば、物流は完全に止まり、春まで備蓄した食料だけで乗り切らなければならない。

 レオンハルトの表情も、日に日に険しさを増していた。領主として、領民たちを無事に冬越しさせるという重圧が、彼の肩にのしかかっているのだ。

 そんな彼の姿を見て、私は決意した。私の知識で、この土地の冬の食糧事情を、根本から変えてみせると。

「レオンハルト様、今年の冬は、きっと大丈夫です。私にお任せください」

 私は彼にそう宣言し、一大プロジェクトに取り掛かった。それは、「保存食の大規模開発」だ。

 まず、私が目を付けたのは、秋のうちに大量に収穫される、カブや大根に似た根菜類だ。これまでは、ただ地下の貯蔵庫に埋めておくだけだったが、それでは春先には傷んでしまうものも多かった。

「皆さん、今年は漬物を作りましょう!」

 私は『陽だまり亭』の前に領民たちを集め、漬物作りを指導した。塩漬けはもちろん、醤油もどきを使った醤油漬け、みりん風調味料を加えた甘酢漬け。さらには、唐辛子に似たスパイスを使った、ピリ辛のキムチ風漬物まで。様々なバリエーションの漬物の作り方を、惜しみなく伝授した。

 最初は戸惑っていた人々も、出来上がった漬物の美味しさと、長期保存が可能だという事実に驚き、熱心に取り組むようになった。

 次に取り組んだのは、肉と魚だ。

 ロックブルの肉は、塩と香草をすり込んで風にさらし、「生ハム」や「ベーコン」に。川で獲れる魚は、開いて塩水に漬け、冷たい風で乾燥させて「干物」にする。さらに、燻製小屋を建て、醤油ベースのタレに漬け込んだ肉や魚を、桜のチップで燻した。「燻製」の誕生だ。香ばしい香りをまとった燻製は、保存性が格段に高まるだけでなく、そのままでも素晴らしい酒の肴になる。

 領民たちは、私の指導のもと、一丸となって保存食作りに励んだ。町中が、漬物の酸っぱい匂いや、燻製の香ばしい香りに満ち、それはまるで冬を迎えるための、活気ある祭りのようだった。

 全ての作業が一段落した頃、私は完成した保存食の数々を、レオンハルトの元へ届けた。

「すごい……。これだけの食料があれば、今年の冬は、誰も飢えることはないだろう」

 ずらりと並んだ樽詰めの漬物や、天井から吊るされた燻製の山を見て、レオンハルトは感嘆の声を漏らした。その表情は、驚きと、安堵と、そして私に対する深い感謝の色に満ちていた。

「アリア。君は、また奇跡を起こしてくれた」

「奇跡ではありません。これは、前世の私の故郷では、当たり前に行われていた『知恵』ですわ」

「その『知恵』が、我々の命を救うんだ。君は、ただ美味しいだけの料理人ではない。君の持つ知識は、この地にとって、何物にも代えがたい宝だ」

 彼は、私の手を、そっと両手で包み込んだ。彼の大きな手は、いつもは冷たいのに、今はとても温かく感じられた。

「ありがとう、アリア。心から、感謝する」

 まっすぐな灰色の瞳で、彼はそう言った。その瞳に映る自分の顔が、真っ赤に染まっているのが分かった。

 この日を境に、レオンハルトの私に対する態度は、明らかに変わった。彼はもはや、私のことを単なる「料理人」や「有能な協力者」としてではなく、かけがえのない、特別な存在として見ている。その熱を帯びた視線を感じるたびに、私の心臓は甘く、そして少しだけ苦しく、高鳴るのだった。

 長く厳しい冬が、もうすぐやってくる。けれど、私の心は、かつてないほど温かい光に満たされていた。

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