第三話:復讐の宇宙帝国、地球への帰還
翌朝、村には激しいバトルの爪痕と、巨大ロボットの残骸が残っていました。花咲か爺さんは、悲しみを胸に、静かに村を去りました。おじいさんは、亡くなったおばあさんの傍らで、何日も何日も、ただ魂が抜けたように座り続けていました。その間、彼の心には、地球への、そして「善意」という概念への絶対的な不信と、凄まじい復讐心が深く深く根を張っていったのです。
ある夜、おじいさんは、村に残された財宝の中に、見慣れない金属や奇妙な装置が混じっているのを見つけました。それは、お地蔵ロボたちがもたらした、異星の技術の残骸でした。彼は、その技術を独学で解析し始めます。かつての優しい面影は消え、その瞳には冷酷な光が宿っていました。彼は、この星に見切りをつけたのです。おばあさんを奪ったこの世界を、いつか必ず滅ぼしてやると。
そして、長い年月が流れました。荒廃した村の跡地には、いつしか巨大な建造物が姿を現していました。おじいさんは、異星の技術と自身の強大な力を使い、宇宙船を建造し、故郷の星を後にしたのです。宇宙に出たおじいさんは、同じように故郷を失い、宇宙で彷徨う者たちと出会いました。彼らは皆、宇宙の理不尽や絶望を味わった者たちでした。おじいさんは、自身の圧倒的な力と、理路整然とした「世界は滅びるべき」という思想で、彼らを束ねていきました。
彼が築き上げたのは、ただの帝国ではありません。それは、あらゆる星の資源を徹底的に利用し、純粋な破壊力を追求する復讐の宇宙帝国「笠ノ帝国」でした。その旗印は、紅く染まった笠の紋様。そして、帝国のスローガンは「破壊こそが、唯一の救済である」でした。おじいさんは、自らを「破壊王」と名乗り、宇宙の辺境から徐々に勢力を拡大していきました。彼の帝国の目的は一つ。かつて自身が絶望を味わった地球への復讐。その強大な軍事力をもって、故郷の星を滅ぼすことだったのです。彼の心には、おばあさんの優しい笑顔ではなく、「どうして私から奪ったのだ」という慟哭だけが響き渡っていました。
その頃、地球では、かつて雀を助けた優しい舌切り爺さんが、ひっそりと暮らしていました。彼は、自身の身勝手な振る舞いが招いた鬼婆との災難、そして純粋な善意がもたらした奇跡を経験し、「欲深さ」や「憎しみ」がもたらす悲劇を誰よりも深く理解していました。彼が助けた雀は、ただの雀ではありませんでした。彼は、かつて舌切り爺さんに助けられた恩を返すため、自らを高性能雀型ロボット「スズメボット」へと改造していたのです。スズメボットは、舌切り爺さんからもらった「小さな葛籠」に秘められた、純粋な善意の力をエネルギー源としていました。その力は、物理的な攻撃力だけでなく、対象の心の奥深くに語りかけ、本質的な善意を呼び覚ます特性を持っていました。
ある日、舌切り爺さんは、スズメボットと共に空を見上げて、今まで見たことのない異様な光を目にします。それは、遠い宇宙から迫り来る、巨大な宇宙艦隊の光でした。「あれは…一体何じゃろうか…」舌切り爺さんは、ただならぬ気配を感じていました。スズメボットのセンサーも、異常なエネルギー反応を検知していました。その反応は、かつて感じたことのある、お地蔵ロボから発せられたものと似て非なる、しかし底知れない悲しみを帯びたエネルギーでした。
そして、ついに破壊王の艦隊が地球圏に到達します。かつて笠を被せてやったお地蔵ロボとは似ても似つかない、冷酷な表情を浮かべた破壊王の顔が、巨大な宇宙船のモニターに映し出されます。
「地球の民よ。私は破壊王である。かつてこの星で絶望を味わった者だ。今、貴様らに、その報いを受けさせてやる!」
地球は、突如として現れた強大な宇宙帝国の脅威に晒されることになったのです。かつて心優しいおじいさんだった男が、深い憎しみと強大な力を得て、故郷を滅ぼそうと帰ってきた。地球防衛軍は応戦を試みますが、破壊王の圧倒的な力の前にはまるで歯が立ちません。各地で都市が崩壊し、人々は恐怖に震えました。その時、花咲か爺さんが、かつてのおじいさんの悲劇を止められなかった後悔を胸に、再び立ち上がりました。彼は、かつて操縦した巨大ロボット「花咲かロボ」を、さらなる改良を加えて起動させます。
「わしの力では、届かなかった…だが、今度こそ…!この地球を、そしておじいさんの心を救ってみせる!」