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第一話:過剰な恩返し、そして怒りの覚醒

昔々、ある貧しい村に、心優しいおじいさんとおばあさんが暮らしていました。年の瀬も押し迫り、お正月のお餅を買うお金もない二人は、大切にとっておいたお米を売りに町へ出かけます。


ところが、道中、おじいさんは雪道で滑って転び、大事なお米を全て雪の中にばらまいてしまいます。「これではお餅が買えん…」肩を落とすおじいさんでしたが、ふと道端に六体の古びたロボット地蔵が雪に埋もれているのを見つけました。彼らは、遥か昔、この地に不時着した異星の調査船から生まれた自律型改修ユニット。村の守り神として再解釈され、長い年月を経て機能停止していたのです。


「これはお気の毒に」おじいさんは、自分のお米を売って手に入れた笠を、一体また一体と丁寧にお地蔵ロボたちにかぶせていきました。笠は五つしかなく、最後の一体には自分の手ぬぐいをほどき、そっと巻いてやりました。「これで、寒い思いはしなくて済むじゃろう」


おじいさんは、手ぶらで家路につきました。おばあさんは「仕方がない」と優しくおじいさんを慰め、二人は質素な年越しをすることにしました。


その夜、嵐のような吹雪が村を襲う中、おじいさんの家に機械的な声が響き渡ります。「システム起動…恩義を感知…恩返しモード、起動します」。玄関をドンドンと叩く金属音。恐る恐る戸を開けると、そこに立っていたのは、目から力強い光を放つあの六体のお地蔵ロボでした!


「おじいさん、おばあさん。我らは雪に埋もれて凍え死ぬところを、お前の笠に救われた。その恩に報いるため、今宵、お前たちに福を届けに来たぞ!」


先頭のお地蔵ロボがずんぐりとした機械音声でそう言うと、他のロボたちも「そうだ、そうだ!」「恩返し、実行!」と力強く頷き、突如「よいとこ!よいとこ!」と掛け声をかけながら、おじいさんの家の周りを回り始めました。最初こそ静かだった彼らの足取りは、徐々に勢いを増し、大地を揺るがすほどの地響きへと変わっていきます。お地蔵ロボたちが跳ねるたびに、家がギシギシと音を立て、囲炉裏の火が大きく揺らめきました。


「おお、これはありがたい」と最初は感動していたおじいさんでしたが、次第に様子は異様なものになっていきました。お地蔵ロボたちは恩返しのあまりに興奮してしまったのか、ついには「福を呼ぶには、まず厄を払わねば!」「障害排除!」「厄、強制排除!」などと言い出し、「吹き飛ばせ!吹き飛ばせ!」と叫びながら、その強靭な金属の腕を振り上げ始めたのです。彼らが腕を振り下ろすたびに突風が巻き起こり、家の壁がメリメリと音を立て、屋根瓦がバラバラと剥がれ落ちていきます。


「こりゃあ、たまらん!恩返しどころか、家が壊れてしまう!」おじいさんとおばあさんは、座布団にしがみつきながら、顔面蒼白で叫びました。悪気がないのは見て取れます。彼らにとっては、この豪快な行動こそが最大の恩返しだと思い込んでいるようでした。


「もっとだ!もっと厄を吹き飛ばせ!」お地蔵ロボたちの勢いは止まりません。彼らが家の土台をガンガンと叩き始めたので、おじいさんの家は今にも倒壊しそうになりました。「お地蔵様!もう十分でございます!これ以上は、家が持ちません!」


おじいさんが必死に叫ぶと、ようやくお地蔵ロボたちは動きを止めました。彼らは首を傾げ、どこか不満そうな機械音を発しています。「ふむ、これでもう十分か?まだ厄が残っているようにも思えるが…」


結局、お地蔵ロボたちは、壊れかけた家の前に、山と積まれた米俵や金銀財宝を置いていきました。そして、「我らの恩返し、気に入ってくれたか?何かあれば、いつでも呼んでくれい!」と豪快な機械音を響かせながら、吹雪の中へと消えていったのです。


夜が明け、おじいさんとおばあさんは、半壊した家と山のような財宝を前に呆然としました。しかし、本当の恐怖はここからでした。


その日の夜、再び「システム起動…恩返しモード、再開」という機械的な声が響き渡ります。「おじいさん、おばあさん!昨日の恩返しは、ほんの序の口!今日はもっと盛大に福を呼ぶぞ!」六体のお地蔵ロボは、満面の笑みを模したライトを光らせて現れました。彼らは昨夜の続きとばかりに、残っていたおじいさんの家の一部を豪快に吹き飛ばし、さらに大量の米俵や財宝を置いていきました。


翌日も、また翌日も、お地蔵ロボは夜な夜な現れました。「おじいさん、福が足りぬぞ!もっと厄を払わねば!」彼らは恩返しの名のもとに、近所の家々を次々と破壊し始めました。屋根は剥がれ飛び、壁は崩れ落ち、村はあっという間に瓦礫の山と化していきます。村人たちは恐怖に震え上がりましたが、あまりに強大なお地蔵ロボたちには、誰も何も言えません。彼らが破壊すればするほど、そこには金銀財宝が山と積まれていくため、村は富に溢れましたが、住む場所は失われていきました。


そして、ついに村の建物がほとんど壊滅した、ある夜のことでした。


「おじいさん、おばあさん!村の厄は全て払われた!あとは福だけが残ったぞ!」


お地蔵ロボたちは、満足げな機械音を発し、今にも残った最後の家屋を破壊しようとしました。その時、おじいさんの頭の中で、何かがプツンと音を立てました。


「もうやめろぉおおお!!」


おじいさんの叫び声は、それまでの穏やかな声からは想像もつかない、地獄の底から響くような咆哮でした。その瞬間、おじいさんの体から、まばゆい光が放たれます。着ていたボロボロの着物が弾け飛び、彼の体はみるみるうちに膨れ上がり、筋肉が隆起し、髪は逆立ち、目は紅く燃え上がりました。


「貴様ら!恩返しと称して、ワシらの家を、村を、生活をめちゃくちゃにしおって!もう我慢ならんぞ!!」


おじいさんは、まるで仁王像のような姿に変身していました。その身長は、お地蔵ロボたちをも見下ろすほどになり、その手には、どこからともなく現れた雷を帯びた棍棒が握られています。


「恩返しだと!?ふざけるな!本当の恩返しとは、相手を想い、相手のためを思うことじゃ!お前たちのしていることは、ただの破壊だ!」


激昂したおじいさんは、雷棍を振りかざし、お地蔵ロボたちに襲いかかりました。普段は穏やかなおじいさんの、あまりにも凄まじい変貌に、お地蔵ロボたちは「エラー!エラー!」「想定外の反応!」と情けない機械音を上げて、一斉に逃げ出しました。「待て!逃がすかぁ!」おじいさんは、村を駆け回り、お地蔵ロボたちを追いかけます。そして、追い詰めたお地蔵ロボたちに向かって、その両手から、まばゆい光のビームを放ちました!


「くらえ!じいさんビーム!!」


ビームは轟音を立ててお地蔵ロボたちを直撃し、彼らは「システムダウン!」「機能停止!」と叫びながら、夜空の彼方へと吹き飛ばされていきました。その光景は、まるで夜空に打ち上げられた花火のようでした。

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