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賭けをしましょう、お嬢様。

作者: 赤城京間

 「賭けをしましょう、お嬢様。」


私にそう持ち掛けたのは執事であるケンドリック。私は昔読んでいた恋愛漫画の悪役令嬢に転生してしまい、転生してから数日が経っていた。人から話しかけられるのは初めてで、どうしたものかと考え込んでいると……


 「リザ様は……………転生されたんでしょう?」


 「え!? どうしてそれを!?」


 「見ての通り私は長くこうして執事として勤めて参りました。偶に居るんですよ、転生される方が。」


 「そうだったんだ……………」


 「色々とお困りでしょう? 私も執事としてサポートを……………と、いきたいところ何ですが、リザ様の評判を考えると私にもリスクがある。ですから賭けでリザ様が勝てばサポート致しますが、私が勝ったら少々頼み事をしたいのです。リザ様の頼み事も聞きますから。」


 「何で賭けをしなくてはいけないの? 多少の頼み事ならそんな事しなくてもやるけど。」


 「好きなんですよ、ギャンブル。」


 「執事としていい訳?」


 「心の拠り所なんですよ、大目に見てください。はははっ。」


わざとらしくそう笑うケンドリックは何処か上品さも醸し出し、私の出方をニヤつきがら窺っている。


 「私の評判っていうのは……………やっぱり………………」


 「ええ、元々リザ様は非常に………その………性格に難のある方でした。」


確か、元々のリザは他の令嬢に嫌がらせをしたり、執事やメイドをいじめてたりした様な……


 「お分かりですか? 私としてもリザ様に協力するのは非常にリスキーなんですよ。」


 「だからといって賭けだなんて………………具体的には何をするの?」


 「何が起こるのかですよ。」


 「え?」


ケンドリックはそう言うと、ポケットからハンカチを取り出し……………


 「リザ様、もう少し左に寄ってくれますか?」


 「左?」


 「ええ、左です。」


そう言われて少し左に移動すると…………


 「良い位置だ。」


 「位置?」


ガシャァァン!


 「な、なに!?」


ボールの様な物が窓から飛んできて、ガラスを割りながら私の頭の横を通り過ぎて行った。


 「今のはサービスです。」


 「よ、予知能力?」


 「そんな大層なものじゃございませんよ。ただの経験です。」


 「経験って………………これが賭けの内容?」

 

 「左様、次に何が起こるのかです。」


 「そんなぁ、勝ち目がないじゃない!」

 

 「最も得意とする事で勝負する、当然の事です。」


 「意地悪。」


 「ははは、まあ屋敷を案内する事位はして差し上げますよ。」


そうしてケンドリックはハンカチでガラスの破片を回収した後、私に手招きして歩き出した。


 「何処へ行くの?」


 「先ずは食事でもしましょう。」


自室か食堂にでも行くのかと思ったらどうやら向かっているのは厨房の様で、ケンドリックは何処から持ってきたのか、リンゴを手のひらでクルクル回しながら歩いていた。


 「そのリンゴ、どうしたの?」


 「これですか? 私は必要な物しか持ち歩いていませんから。」


 「………?」


 「ケンドリックさ~ん!」


声のした方に振り向くと一人のコックがこちらの方に駆け寄って来ていた。


 「何でしょう?」


 「急に旦那様がリンゴを食したいと申されたんですが、丁度切らしていまして……………」


 「今朝、散歩中に近所の子供に貰ったリンゴがあります、どうぞ。」


 「ありがとうございます! 何時も何時も本当に………………」


 「いいんですよ、何時も美味しい料理を頂いてしますし、これくらいは当然です。」


コックは何度も頭を下げて厨房に入って行った。


 「………………未来視。」


 「勘が良いだけです。私達も入りましょうか。」


ケンドリックは厨房に入って行き、それに私もついて行った。


 「ここが厨房………………」


 「これはこれは、リザ様。どの様なご用件で?」


コックの一人が私の名前を呼んだ瞬間、他のコック達が一瞬私の顔を見て、直ぐに顔を背けてそそくさと何処かへ行ってしまった。


 「何か食事をしようと思いましてね。ですが貴方の他にコックは居ないようですし、貴方は旦那様にお出しする料理を作っている最中ですよね? ここは私が作るので少しの時間だけ厨房を貸していただけないでしょうか?」


 「ええ、勿論です。」


コックは自分の作業に戻り、ケンドリックは幾つかの野菜とお肉を持ってきた。


 「さて、ここで賭けをしましょう。」


 「賭けって………何が起こるのかを答えるって事?」


 「ええ。」


 「賭けって二択じゃないと成立しなくない?」


 「二択ですよ。あそこに居るコック、今まさにリンゴを切っていますが、皮付きで出すと思いますか? それとも皮を切り取って出すと思いますか?」


 「はい? 何でそんな事………………」


 「どちらですか? リザ様からお選びください。」


 「う~ん、じゃあ皮付きで出すに賭ける。」


 「なら私は皮を切り取って出すに賭けます。」


コックの動きに注目してリンゴの皮の有無を見てみると………………


 「切りましたね。」


 「負けちゃった。でも何でこんな事を?」


 「旦那様は皮がお好きでは無いんですよ。何時もああして皮を切ってお出ししています。」


 「ずっる! 知ってたんじゃん!」


 「生き残りたいんでしょう?」

 

 「え?」


急に真顔になりながらそう言って、ケンドリックは私の顔を凝視し始めた。


 「どういう事?」

 

 「リザ様はこの屋敷のほぼ全員に嫌われています。予め何が起きるのかを予測し、旦那様やお越しになる貴族に気に入れられる為に、その人の好みや嫌いな物を把握しておく必要があるのです。」


 「え………………じゃあ、もしかしてこの賭けは私の為に?」


 「一番は私の愉悦の為ですが。」


 「………………そうだったんだ、ありがとうケンドリック。全然分からなかった。」


 「さて、私が勝った事ですし、リザ様に頼み事をしてもらいます。」


手を叩きながら空気を変える様にケンドリックはそう言った。


 「何をすればいいの?」


 「私の分も料理を作って下さい。」


 「………………貴族なんですけど。」


 「勝ったのは私です。」


 「………………」


渋々料理を作る事にした。多少の心得はあるし、多分大丈夫。私が野菜を切ったりしてもケンドリックはニヤニヤしながら見つめるだけで手伝ってくれないし、食器を出す素振りも無いし、何がしたいのか良く分からない。


 「料理を作っているのか?」


コックの声じゃない。手を止めて振り返るとそこには…………


 「旦那様! 申し訳ありません、もう少しで出来上がるので……………」


 「リザ、料理を作っているのか?」


厨房に入ってきたのはこの屋敷の主であるヴィンセント・ダックワーズ。私とは叔父と姪の関係だけど、何をしにきたんだろう?


 「はい、今料理をしていて……」


 「ケンドリック、リザは何故料理をしている?」


 「リザ様が旦那様に是非料理の腕を御自慢したいと申されたので。」


 「本当か?」


 「え!? え、ええ。その通りです。」


余計な事を!


 「味はともかく、安全はこのケンドリックが保障します。」


何が安全よ、毒でも入れると思ってる訳?


 「…………後で私の部屋に持ってこい。」


 「分かりました………」


 「それでは。」


ヴィンセントはそのまま厨房を出て行った。


 「余計な事を言わないでよね、ケンドリック。」


 「気に入られる為ですよ。」


もう料理を作る事に集中し、暫くして何とか料理が出来上がった。


 「それじゃ、早速持って行かないと………」


 「料理は一回此処に置いて私について来て下さい。」


 「え? わ、分かったけど……………」


ケンドリックは料理に目もくれず、厨房を出て行ってしまった。ケンドリックに急いでついて行って、何とか追い付けたけど……………


 「これを、リザ様。」


 「なに?」


 「薔薇です。」


そうしてケンドリックが又しても何処からか持ってきたのか分からない薔薇を取り出した。綺麗な淡いピンク色をしていて、光に当てると白く輝くその姿はウェディングドレスの様だった。


 「これは?」


 「この国ではプロポーズをする時に使用される花です。」


 「じゃ、じゃあケンドリックは私に………………」

 

 「違います。その薔薇は非常に重みのある物となっています。」


 「別に重くないけど。」


 「意味合いの話しです。それを渡すという事は正式なプロポーズだという事。深い愛を相手に伝える為に用いられるのです。」


 「これをどうするの?」


 「リザ様は生き残る為にも身を固めた方がよろしいのです。この国では近親婚が認められていますし、ヴィンセント様と結婚できます。ヴィンセント様でなくとも強い権力を持つ方と結婚する事で身を守るのです。」

 

 「嫌よ、結婚相手くらい自分で決めたい。」


 「ならばあそこに居らっしゃるルーク様はどうですか?」


 「ん?」


ケンドリックが指を指した方向には屋敷の廊下で絵画を見つめている男性が居た。綺麗なブロンドの髪にに澄んだ青い瞳、豪華な服を着て知的な雰囲気を醸し出している。20代前半かな。


 「あのお方も貴族です。今日は確かヴィンセント様と狩りに行く予定でしたかね。さて、ここでもう一度賭けをしましょう。ルーク様が私達に気付いて向かってくるか、気付かずにどこかへ行くか。」


 「ええっと………………」


 「ルーク様はこちらに来そうですね。」


 「じゃ、じゃあ私は来ない方で。」


そのルークは、私達に気付くとゆっくりとこちらに向かって歩いて来た。


 「………………賭けになってなくない?」


 「全くそんな事ありませんよ。それで、リザ様、演技は得意でしたかな?」


 「え? 演技?」


 「私が勝ったので一つ頼み事をします。その薔薇をですね、こうして手で持って、胸の辺りで持つんです。そして恥ずかしそうにしながらルーク様に目を合わせたいけれど、それができないといった様な演技をするのです。そして暫くそうした後、あっちの方に走り出してください。」


 「そそ、そんな事急に言われたって………………」


 「貴方ならできますよ。」


賭けには負けてしまったし、仕方なくそんな感じの演技をしてルークを待った。


 「リザ様? でしたかな。今日はヴィンセント様と…………その薔薇は?」


 「ええっと…………これは………………その………………」

 

もういいかな。


 「ご、ごめんなさい!」


そうしてケンドリックの指定した方向へ走り去った。


 「何だったんだ……………」


 「まあ、リザ様も乙女ですから。許してくださいませんか?」


 「もしかして、リザ様は俺の事を………………」


 「私はリザ様を追いかけないといけないので、これで失礼します。」


走り去って柱の影から遠巻きにケンドリックとルークの様子を見ていると、ケンドリックがこちらに向かってきた。


 「結局、何の意味があったの?」


 「選択肢は多い方がいいですから。好意を向けられたら次第に自分もその人を好きになってしまうものですよ。」


 「………?」


 「ここに居たのか、リザ。」


後ろに居たのはヴィンセント。長い黒髪に細身の体を纏う豪華な服。ヴィンセントの目はまるで黒曜石の様に輝いて私を見つめている。


 「料理はどうした? 何故持ってこなかった?」


 「そ、それは………………」


 「リザ様が旦那様と食べたいとおっしゃったので、今から御呼びに行こうと思っていたんですよ。」


 「え、ええ。そうです。ヴィンセント様。」


 「そうか………………いいだろう。偶には食堂で食すのも一興だ。」


 「良かったですね、リザ様。」


 「う、うん………………」


そうしてヴィンセントについて行き食堂へとやってきた。時間が時間だし他には誰も居なさそうだけど気まずいし、誰かしら居てくれた方が良かったな。


 「私がお料理をお持ちしますので少々お待ちを。」


ケンドリックはそう言って厨房へ入って行き、私はヴィンセントと二人っきりになってしまった。


 「…………意外だな。お前が料理を作るなんて。」


 「え? まあ、はい。ヴィンセント様に食べて欲しくて。」


ヴィンセントは未だに信じられないといった様子で私を見つめ、何かに気付いた様に口を開いた。


 「その薔薇は何だ?」


 「この薔薇ですか? これは………………何でもないです。」


 「何でもない訳がないだろう。ピンク色の薔薇なんて………………誰かに渡す予定だったのか?」


 「それは………………」


少しの間そのまま沈黙し、ヴィンセントが何か言おうとした瞬間。


 「お待たせしました。リザ様特製野菜シチューです。」


 「ほう、中々の出来だ。」


 「ケンドリックはいいの?」


 「私は大丈夫です。健気にシチューを作るリゼ様に感銘を受けて何も喉を通らないんですよ。」


 「大げさね。」


このシチュー、正直自信がある。ヴィンセントの顔色を窺いながら、自分でも食べてみると……


 「うん、美味しい。流石私。」


 「確かに美味いな。意外だ。」


それから特に話す事も無く、ニヤついているケンドリックに見られて食べる事に居心地の悪さを感じながらシチューを食べ終えた。


 「食器は私がお下げしますね。」


ケンドリックは食器を持って再び厨房の中に入って行った。


 「正直意外だ。リザに料理ができたとはな。」


 「あ、ありがとうございます。」


 「………………私は独身だ。」


 「え?」


急に話題が変わって少し戸惑っていると………


 「リザが私の事を………………確かにこの国では貴族や王家の近親婚は認められているが、良い目では見られないだろう。もし、一時の気の迷いなんだとしたら止めておいた方がいい。ただ、本気なら後で私の部屋に来てくれ。」


 「は、はぁ。」


 「それでは。」


ヴィンセントは立ち上がり、振り返る事なく部屋に戻って行った。


 「どういう事?」


 「もし私と結婚したいのなら真剣に向き合おうという事ですよ。」


 「え?」


 「これで二人確保できましたね。」


 「ま、まさか! 私をあの二人のどちらかと結婚させる為に仕組んだのね!」


 「生き残る為です。」


 「結婚相手ぐらい自分で決めるから放っておいて!」


 「結婚もせずに生き残るなど今のリザ様には不可能ですよ。試しに自室に戻りましょうか。」


 「私の部屋? そこでどうするの?」


 「幾つか送り物が届けられている様ですから。」


ケンドリックに促され自分の部屋に戻ってきた。相変わらず豪華で綺麗な部屋だけど、この綺麗さもメイドさんのおかげで保てているのよね。


 「あの箱ですね。」


机の上には私への手紙と共に派手な色の紙に包まれた箱が何個も置いてある。


 「私への送り物?」


 「ええ、そうです。ですが、空けるのは私がやりますので。」


ケンドリックはそう言って一番上に置いてある箱を荒々しく開けた。


 「そんな開け方をしたら……………」


 「おっと、蜘蛛です。」


 「うわぁぁ!! く、蜘蛛!?」


箱の中には隙間なく蠢く蜘蛛の軍団。まるで一つの生物の様に動くそれは、気持ち悪いを通りこして恐怖を感じさせた。

 

 「ひぃぃぃぃぃ!!」


 「取り合えず閉めましょうか。次はこっち。」


ケンドリックはその箱を閉めて、床に置き、別の箱を開け始めた。


 「さて、こっちは……………ほう、リザ様に良く似た人形がバラバラになっています。」


 「そそ、そんなに嫌われてるの?」


 「その様ですね。」


 「………………逃げたい。」


 「基本は私が付いているのでご安心を…………さて、こちらは……………ん?」


別の箱を持ち上げたケンドリックだけど、何か様子がおかしい。


 「これは………………」


カチッ カチッ カチッ カチッ


 「………っ!! 伏せて!!」

 

 「え?」


バァァァン!!


 「うぅ………………何が起きて…………………」


急にケンドリックが覆いかぶさってきたと思ったら、何かの爆発音…………衝撃で体が痛むし、取り合えず起きないと………………


 「ケンドリックはだいじょう……………え?」


体を起こすとそこには大破した机と椅子。箱は燃え上がり、なによりケンドリックが私に覆いかぶさる形で血を流して倒れていた。


 「大丈夫!? ケンドリック!? 今すぐ誰か呼ばないと!」


 「リザ様……………怪我は………………ありませんか?」


 「私の心配はいいから! 誰か!! 助けて!!」


部屋の中だし希望は薄かった。が、何処からか誰かが走る音が聞えてくる。


 「大丈夫か!」


部屋に入ってきたのはルーク。


 「これは…………何という事だ………………ケンドリック! 大丈夫か!」


 「ルーク様………私は大丈夫なので……………リザ様を安全な場所に………………」


 「大丈夫なものか! リザ様、ケンドリックを医療室に運びます! 手伝ってください!」


 「は、はい!」


急いでケンドリックを二人で持ち上げ、医療室に向かった。


 「何故こんな事に………………」


 「爆破です。私の送り物の中に爆弾があったんです……………」


 「そんな事が………………」


殆どルークがケンドリックを支えていたが、私もケンドリックが落ちない様に支え、医療室に着いた頃にはケンドリックは喋る事もできなくなっていた。


 「ケンドリック! 絶対大丈夫だから!」


ケンドリックをベッドに寝かし、奥から医者が飛び出してきて治療を始めた。


 「ケンドリック……………先生、ケンドリックは治るんですか?」


 「大丈夫だ。命は助ける。」


 「良かった……………」


 「爆弾…………リザ様、送り主が誰か分かりますか?」


 「いえ…………分かりません。」


 「そうですか………………私は犯人を捜してきますので、ケンドリックを頼みます!」


 「はい!」


私はケンドリックを治療する事はできないけれど、必死に声を掛け続けた。苦しそうなケンドリックの呻き声をかき消すように………………


 






数日後…………


 「治ったのか?」

 

 「ええ、ご心配おかけました。」


 「いいんだ。無事で良かった。」


ケンドリックは立って歩けるまで回復し、ヴィンセントにその報告をしにきていた。


 「リザも怪我が無くて良かった。犯人も捕まったし、ゆっくり休んでくれ。」


 「分かりました。」


ヴィンセントの部屋を出て、ケンドリックのリハビリと気分転換も兼ねて庭で散歩する事にし、階段や坂道は私がケンドリックを支えながら庭の方へ出てきた。


 「申し訳ありません、リザ様。こんな事になってしまって…………全て私の不注意のせいです。」


 「そんな事無いわ。私を助けてくれたじゃない。ありがとう、ケンドリック。」


 「そうですが……あの時私がリザ様をお部屋に向かわせなければこんな事には………………」


 「私は無事。それ以上に何かある?」


 「………………」


 「私ね、あの事件の事を考えて、結婚する事にしたの。」


 「ほう、それは良い事だ。」


 「だから………………賭けましょう?」


 「ルーク様か、ヴィンセント様か、ですか。そうですねぇ、やはりルーク様でしょう。どうですか?」


 「私が結婚するのは…………」


ケンドリックみたいにあの薔薇を何処からともなく取り出して、その薔薇を両手でケンドリックに差し出した。


 「………………え?」


 「外れ。私が結婚するのは貴方よ、ケンドリック。」


 「なな、何を言っているんですかリゼ様? そういう冗談を好まれる方だとは思いませんでしたが…………」


 「だから、貴方よケンドリック。私は貴方と結婚したいの。」


 「私は60歳ですよ!? 正気ですか!?」


 「ええ、本当にカッコいい。スーツの着こなしも顔立ちも立ち振る舞いも、何より貴方の優しさが好きなの。」


 「もう一度良く考えてください! こんな老人と結婚など…………」


 「老人って歳でもないでしょう? それに、貴方に拒否権は無いから。」


 「え?」


 「賭けたじゃない。そして私は勝った。一つ頼み事を聞いてくれるんだよね? ケンドリック。」


 「それは………………」


 「改めて………………私と結婚して、ケンドリック。」


 「………………」


 「どうしたの? 貴方には………」


 「拒否権が………………無い。ですよね。」


無理矢理自分を納得させるかの様にケンドリックは言った。


 「その通り。で? 返事は?」


 「将来の事も良く考えて……………」


 「結婚して。で、返事は?」


リザは構わず言い放った。


 「…………………………………………よろしく………………お願いします。」


 「そう! 良かった! 愛してるわ、ケンドリック!」


 「………………はい。」


 ギャンブル狂いの最期とも言えようか、この先に不安しかないケンドリックとそんな事お構いなしのリザ。何時だって立場なんてものは変わる事がある。少なくともリサは嬉しそうだし、ケンドリックは二度とギャンブルなんてやらなくなるだろう。まあ、幸先の良い結婚生活の始まりと言えるかもしれない。

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