第十一章19 【覇王杯/オーバーロード・カップ1回戦/第7試合】16/偽者から見た本物2
次は【新八】のエピソードに少し触れよう。
彼は他人の恋人を奪って捨てる事を至上の喜びとするクズだった。
相手の男よりも自分の方が良い男であると女性に認めさせ、それを確認したら、その女性を捨てる。
それで自己満足している小さな男だった。
そこに真実の愛というものは存在しない。
あるのは承認欲求。
それだけだった。
彼の育って来た環境がそれをさせたのだ。
彼は、
「ありがとうございます。
最期に貴方に仕事を依頼出来て嬉しいです」
とか、
「感謝します。
本当にありがとうございました。
貴方は命の恩人です」
とか、
「このご恩は必ず返します。
貴方のためなら例え這ってでもかけつけます」
等と心から言われた事は一度もない。
金や脅しで脅迫し、
「あ、貴方の方がいい男・・・だと・・・思います・・・
多分・・・」
とか、
「好き・・・だと・・・思います・・・
貴方の方が・・・魅力的・・・だから・・・」
とか、
「貴方の方がイケメンだと思う・・・
素敵な顔だと思うわ」
などの中味のない薄っぺらなお世辞ならば何度も受けた事はあるが、本気の感謝や謝罪などは一度も無い。
真心と真心のやりとりと言うものにはおよそ無縁な人生を生きてきた。
そう・・・その時も、そんな傍若無人な振る舞いをしている延長戦上での一幕として始まった。
【新八】は、
「おい、【くくは】とか言ったな、お前。
喜べ、お前、俺の彼女にしてやるよ。
英雄様の彼女だ。
嬉しいだろ?
そんな冴えない男の事なんてどうでも良いだろ?
とりあえず、そいつに唾をかけろ。
それで俺の彼女にしてやんよ」
と言った。
最低の言葉である。
だが、【くくは】と呼ばれた女性は、
「・・・貴方は鏡を見たことがあるのですか?
貴方の心が顔に出ていますよ・・・
やり直すなら今の内ですよ。
貴方はもう、【本物】にはなれません。
せめて、真似事だけでも【英雄】となりたいのなら、考えを正すことを薦めます」
と言った。
その瞬間、【新八】は、
「この、クソアマがぁぁぁぁっ
誰に向かって言ってんだ?
もう一度言って見ろや」
と激高した。