釘宮デレナの異常性に気づいていない
「________________よ、よ!」
次の日の早朝、登校に為に家を出ると幼馴染である釘宮デレナが右手を上げて挨拶をしてきた。
(.........現在時刻5時05分。お日様もまだ地平線から出ていない早い時間帯。いったいデレナは何時から待っていたんだ?)
釘宮デレナとの登校を拒絶されてからは始発で電車に乗るようにしている。そうすれば彼女と鉢合わせもせずに登校できるから。
「デレナ..........うん、おはよう。何か忘れ物でもした?」
あまり深く追及しない方が身のためだと直感が告げる。
「ゆうじと久しぶりに登校しよっかなって。」
嬉しい。嬉しいけれど、それはあまりに身勝手過ぎではないかと心の中で感じてしまう。けれど、それを言葉にするのも危険だと直感が告げてる。
「途中までならいいけど、」
怖い。あの目はなんだ。自分の知っている釘宮デレナではない。
「えへへ、良かった。私と一緒に登校できて嬉し?」
「あ、う、うん、もちろん嬉しいよ、デレナ。」
嬉しくない。底知れぬ恐怖心が危険信号を送り続けている。一言でも選択を間違えればお前はゲームオーバーなのだと。
「__________震えてるけど、寒いの?」
「......そうだね。朝はやっぱり冷えるから。」
大丈夫。いつも通りを演じろ。隣で歩いている彼女は釘宮デレナだ。彼女を幸せにするために始めた物語だろ。なら最後まで役目を果たせ銀城友人。
「アタタメテアゲル」
「ヒッ!?」
手を繋いで来た。それも蛇が獲物へと絡み付くように。
「.............は?」
反射的に手を引いてしまった。
「昔は手を繋いでくれたのに、なんで?」
風が吹き、日の出の光が彼女を照らす。美少女であることには間違えないのだが、人を殺す直前の殺人鬼のような表情をしていた。
「..........デレナの好きな人は面林最照だ。僕じゃない。」
危険を承知で彼女へと喰い下がる。もう覚悟は決まっているんだ。同情心でこんな事をするなら止めさせなければならない。
「昨日の事で僕に同情してこんな事をするなら.......僕は君と距離を取らなきゃならない。」
「同情なんてしてない!!!」
鞄を落とし、自分との距離を縮めるデレナ。
「面林最照、彼は僕の親友だ。君が彼を好きだって言った。好きな幼馴染の女の子が親友の男の子と結ばれたいと言ったんだ。なら、僕は応援するしかないだろ!!昨日、僕が言った我が儘は忘れて欲しいなんてもう言わない。だけど、だからって今さらそんな事しないでよ.........僕だって、くっ、人間だ!!心があるんだよ!!」
涙を流し、デレナを振り払う。彼女は驚愕と後悔、絶望を織り混ぜたような顔をしていた。
(凄いな、僕.........本当に俳優になれるかも。アカデミー賞並の演技に自分でも驚きを隠せないよ。涙って流そうと思えばながせるんだな。)
デレナに背を向け、その場を逃げるように走り出す。彼女が追ってきている様子はない。後ろをチラリと振り向いたが、下を俯いて何やら一人言を呟いている姿が見えた。彼女が何を口にしているかは分からない。