釘宮デレナは何かを隠している
やはり第一ダーゲットである星々姫々は簡単に堕とす事が出来た。勿論環境や自分との関係性によるところも大きいが、これで彼女が面林最照に好意を向ける事はなくなっただろう。
「ギンジョクン!シュキィ!ウワーン・゜゜(ノД`)」
ホームに行ったと見せかけて陰で彼女の動向を窺っていたのだが、未だにドラマの一シーンのように泣いている。
(...............よし、帰ろう。)
これ以上見ていても仕方がない。同情心が芽生えてしまう。心を鬼にしなければ。
(僕の恋戦はまだ始まったばかりだ。略奪対象もまだ二人残ってる。家に帰ったら明日からの立ち振舞いを予習しないといけないな。)
星々姫々との距離を程よく取りつつ、主人公のハーレムヒロインズ二人を攻略しなければならない。
(猫屋敷仔猫と時崎時子........この二人は星々姫々ほど簡単には行ってはくれないだろう。)
とくに時崎時子は異常だ。あの女の攻略は博打に等しい。
(裏を知っているが故に、正直に関わりたくないとさえ感じる..........だけど、僕はデレナの幸せの為に彼女を排除しなければならない。)
僕なら出来る。やって見せるさ。
「__________________おかえりなさい。何処に行っていたの?」
自分の住む家へと帰宅すると、玄関前で鬼のような形相で待ち構える釘宮デレナが仁王立ちしていた。
「やぁデレナ、こんばんわ。」
「__________________ゆうじ、何処に行っていたの?」
靴を脱ぎ、デレナを通り過ぎようとすると腕を捕まれる。
「いつも通り、生徒会だよ。」
「喫茶店で星々とコーヒーしてるのも生徒会なんだ。」
なんで知っているんだろう。取り敢えず、デレナの頭へ手を置き、困ったように微笑を浮かべる。
「モテルの件で少し相談事をされてね............今日はどうして僕の家に?」
二人でリビングスペースへと向かい、向かい合いに座る。
「ママにご飯届けて来なさいって言われたから来て上げたの。そしたらゆうじいないんだもん。だから、待ってて上げた。」
「別に待ってなくてもよかったのに。帰りが遅くなったらデレナに悪いよ。」
そう言うとデレナはムスッとした表情を見せる。だがフォローは決して忘れない。
「_____________でもありがと。やっぱり家に誰かいて、待っていてくれるって嬉しいからさ。」
「ふ、ふん..........はじめからそう言えばいいのよ。」
家族に近しい人はデレナやおじさん、おばさんしかいない。自分を心配してよく様子を見に来てくれる。それがとても嬉しくて、心の支えになっていた。けれど、これ以上はもう迷惑を掛けたくない。来年で18歳になる。それは大人になると言う事だ。
(いつまでも甘えてはいられない。一人立ちしなければいけないんだ。)
デレナへと顔を向ける。彼女は何処かかしこまった顔をしていた。何かを覚悟して、受け入れるような、そんな表情。
「..........デレナ、無理に来なくていいよ。僕はもう大丈夫だから。」
「なに......言ってんのよ、あんた。」
デレナは驚いた表情を一瞬見せると、直ぐに激昂した様子で立ち上がる。
「私は別に同情してるから来てるんじゃない!ゆうじのお「幼馴染だからこそ、デレナに迷惑をかけたくないんだ!これ以上釘宮家には迷惑を掛けられない。デレナは頑張ってモテルを振り向かせようとしてる。真剣な恋をしてるんだ.....なのに、僕の為に時間も割いてくれている。それがどうしようもなく嬉しくて..............自分の不甲斐なさを感じてしまう。」
デレナは自分の圧に押され、一歩後ろへと下がる。
「僕はデレナの幼馴染なんだよ。一番と君を近くで見てきた。とても大切で、僕にとってかけがえのない存在。それが釘宮デレナ、その人なんだ。だから、君が好きな人が出来たって報告してくれたとき、僕は僕の全てを持って君を応援しようと心の中で思っていた........いたけれど、やっぱり僕自身が綺麗な人間じゃないことを悟ったよ。軽蔑してくれていい_________」
苦笑をしながら、足を踏み出す。そして夜風を浴びる為にベランダへと繋がる窓扉を開き、釘宮デレナへと向き直る。
「___________素直に心の底から応援が出来なかったんだ。だって、君を幸せにするのは僕なんだと淡い夢を見ていたんだからね。笑えるだろう。銀城友人では役不足だと言うのにね。だからこそ、君にはモテルとちゃんと結ばれて幸せになって欲しい。幼馴染がハッピーエンドを迎える以外の結末なんて僕は見たくないからね。」
デレナは口を抑え、椅子へと崩れるように座り込む。そして肩を震わせていた。
「.........................ふ、ふふ」ボソッ
デレナが何かを口にしたが、聞こえない。顔を両手で抑え、表情が隠れている。
「ゆうじ...........私、かえる。」
そして目元から指先を退ける。未だに鼻から下を手で抑えていて表情は見えない。ただ、鋭い眼光だけがこちらへと向けられていた。まるで鷹が獲物を狩るような、そんな鋭い眼光に思わず鳥肌が立ってしまう。
「あ、あぁ.....うん。」
いつもなら家まで送るのだが、あの眼光に立ち竦んでしまった。いや、物語の駒を進めたのだ。もう元の幼馴染ではいられないだろう。