やはり誉め殺しが有効なんだなって
「__________星々さん?」
銀城くんの呼び掛けで現実に戻される。
「え、えぇ。何かしら?」
「いや、物凄い難しい顔をしていたから.....」
いつの間にやら喫茶店の席に座っていた。それにコーヒーもテーブルの上に置かれている。
「.........なんでも聞くよ、星々さん。僕に出来る事があるのなら言って欲しい。」
考え事に意識を集中させていたために時間が飛んでる。それに物凄く銀城くんに心配されていた。
「あ、ありがと......コーヒー、頂くわね。ん、あっつ!?」
「星々さん!?」
冷まさずにコーヒーへと口をつけてしまい、思わず叫び声を上げてしまう。
(あぁあああああああああ....今日はダメダメな姿ばかりを銀城くんに見せてしまう。穴があるなら入ってしまいたい。)
涙目になる。
「ふふ、あはははっははは」
意気消沈していると、銀城くんは笑いはじめた。
「も、もぉ!笑うな!」
「あはは、ごめんなさい。あまりにも星々さんが可愛らしくて。」
か、可愛い.......だと?
(面林くんにも言われたことない.........)
それに、逆を言うなら銀城くんの笑っている顔の方が可愛いなとは個人的に思ったり。って何を言っているんだろうな、自分は。
(........やっぱりいつもと違う。銀城くんってこんなに表情や感情が豊かな人だったかしら。)
この甘酸っぱい空間が嫌いじゃない。寧ろ好ましいとさえ感じてしまう。私が好きな人は.........面林最照くんでしょ。なんで、こんなに感情が揺れているのだろう。
「___________それで、今日の相談事は何かな?」
そ、そうだ。私が銀城友人を誘ったのだ。なにか面林最照くんと上手く行く方法はないかと相談を持ち掛けようと思っていたのだが.........どうしよう。この気持ちのままその相談を持ち掛けていいのだろうか。
(ダメ........銀城くんは優しい。だから、自分の感情を押し殺してでも私の相談に乗ってくれる。)
そんなの私が許せない。いや、私自身を許せなくなる。一年生の頃から一緒に生徒会で働いてきた仲間だ。それにいつも私の支えになってくれていてた恩人であり、大切な友人でもある。
(もし仮に彼が私にそういった感情があるのだとしたら、私は彼を気づかない内に傷付けていたことになる。)
...............そんなの嫌。銀城友人に何も返せていないじゃないか。それなのに、私は自分の我儘を聞いて貰ってばかり。
「__________モテルの事、だよね。」
私が黙っていたので銀城くんが先に口を開いた。注視して銀城くんの表情を見ると、やはり何処か悲しそうな表情をしている気がする。
(やはり、銀城くんは私の事を........)
そんな表情を見せないで。銀城くんには何時ものように私の隣で微笑を浮かべていて欲しいのに。
「い、いや........モテル少年の事ではないんだ。生徒会の事で、少し相談がしたくて、ね。」
この際、面林最照くんの事はどうでもいい。銀城くんにそんな表情をさせていたのかという罪悪感が強すぎる。
「生徒会、ですか?」
「あ、あぁ。三年生がもうじき生徒会を卒業するだろう。正直な話、私は生徒会長に立候補するべきなのか迷っている。」
嘘は言っていない。
「自信がないんだ。眠会長のように生徒達を牽引出来るのだろうかと。私よりもやはり銀城君が立候補するべきだ。君は生徒たちからの人気も高い。それに責任感も強く、人を先導出来る力を持ち合わせている。」
本心からそう口にする。銀城友人の人気は凄まじい。誰にも優しく、常に平等である姿勢に私は尊敬の念を抱いている。
「銀城くんが生徒会長となった暁には君の隣で全力でサポートをすることを誓うよ。」
副生徒会長としての立場を継続し、銀城新生徒会長の片腕とし生徒会を動かしていく。学園は更によりよい方向へと進む事だろう。
「______________慎んで辞退します。」
「........へ?」
断られた。いや、以前にも断られたが、今回は少し怒った様子にも見える。
(銀城くんのこんな表情、初めて見た.......え?)
銀城くんに手を握られる。それも力強く。
「なにを「星々さん以上にこの学園の次期生徒会長に相応しい人間はいないよ。ましてや僕が星々さんを差し置いて生徒会長に立候補する事は絶対にない。だって、生徒の事を一番と考えているのは星々姫々さん、君だろう。」
綺麗な瞳。その瞳に吸い込まれそうになる。彼の言葉が胸に響くんだ。
「僕は生徒会で頑張ってきた星々さんを知っている。一生懸命な君を一番に知っている。」
「あ、あぅ........」
ヤバい。身体が熱い。顔が赤くなって来ている。
「生徒会だけじゃない。困っている人がいたら手を差しのばす優しい女性だ。僕はその優しさに救われた。うんうん、僕だけじゃない。たくさんの人が君の優しさに助けられていると思う。」
どうしようどうしよう......キャパオーバ過ぎる。どんだけ誉め殺す気なんだ。
「ぎ、銀城くんっ「星々姫々さん」ひゃいっ!?!」
ぎゅっと手を握る力が更に強くなる。思わずピクンと跳ねてしまった。
「________________僕はそんな貴方が好きなんだ。」
は、はぅわああああああああああああああああああああ!!!!????!!!!
(まっ、待って、待って欲しい、心の準備が全然出来てないよぉ!?)
あうあうと言葉が出てこない。衝撃に備えろ!とか某亜◯漫画の佐○さんみたく忠告して欲しいよ。心臓音が激しすぎて凄い事になってるし、過呼吸になりそう。どうするの?返事するの?いつするの?今でしょ!?
「わ、わ「こんな事、言うつもりじゃなかったんだけどな。モテルの事がずっと好きだって気持ちを知っていながら、僕は何を言っているんだろうね。」
あ、あれぇ..........?
「そろそろ時間も遅いし、帰ろうか。今、僕が言ったことは忘れて。大丈夫......もう二度とこんな事言わない。もう二度と困らせたりしないって約束する。だからせめて、君が生徒会長を終えるまで一緒にいさせて欲しい。」
................いやいやいやいや、なに言ってますのぉ!!?
(これだけの事をこんな性格も容姿も完璧な人に言われて、面林最照くんを選ぶなんて選択はないでしょ!!?)
この学園に入学してから一年間という期間、私に親身になって心の支えになってくれていたのは紛れもなく銀城友人、君自身だ。
「_____________今日はあまり相談に乗れなくごめん。それと変なこと言ってごめんね。明日からもいつも通り接してくれると嬉しいな。」
苦笑を見せながら、そう言葉にすると銀城くんは少し悲しそうな表情を見せながら自身のホーム(駅)へと歩き去って行った。
(何をしているんだ、私は......なんで動かない?なんで何も言葉にしない!!)
その場から動けない。情報量が多すぎたのだ。
「お前も銀城くんが好きだって言えよぉ!!!!」
緊張が解けたのか、その場で叫び声を出してしまう。周りの人は何事かと此方へと視線を向けるが今はそんな事気にしている余裕はなかった。
「なんで銀城くんにあんな顔させたの........なんで直ぐに.........私も銀城くんが好きって言わないの........うぅ、くそ、くそ」
何とか壁際まで移動し、涙を流しながらその場に蹲る。