月見かぐやの独白
___________二度、彼には人生で救われている。
一度目は横断歩道で車に轢かれそうになった時、力強く引っ張られた。小学生低学年の頃の話だ。
「回りをよく見ないとダメだよ。僕が助けなかったら死んでた。」
怒るでもなく、淡々と感情の籠ってない表情でそう言われた事を今でも鮮明に覚えてる。それからは彼に言われた通り、周囲をよく見る事にした。
(相手の仕草、相手の目の動き、行動パターン、今では少し観察しただけで相手がどう動くのかを直ぐに頭にトレースして未来視にも近い予測が出来るようになってしまった。これは動きだけではなく相手の言動や発言でも同じだ。)
直ぐにその人物がどう言った人物で、何を考えて発言しているのかが手に取るように分かってしまうんだ。
「そして二回目に救われたのは中学一年生の冬、満員電車で痴漢に合った時だ。」
尻部を穢らわしい中年の親父に触れられた嫌な思い出。だが、その時に偶然居合わせた彼が痴漢から救ってくれたのだ。
「大の大人が中学生の少女にしていい行動じゃあないな。」
周りの大人の協力を得て、痴漢を警察に連行しようとすると、彼は一言残し走り去ってしまった。
「君が無事で良かった。すまないが、僕は行かせてもらうよ。事情聴取で拘束されるのはごめんでね、後は大人達にまかせる。次がないように君も護身術か武道を習えばいいと思うよ。それか痴漢撃退用のスプレーかスタンガン常備だね!」
お礼の言葉を言えず仕舞い。だが、彼の言葉の通り一通りの武道を抑え、去年のU16、格闘技の世界大会で時崎時子を下し、優勝を果たしているんだ。
(今は前髪で顔を隠しているからか時崎にも気付かれていないけれど、僕は強くなれた。)
どれもこれも銀城、君のおかげだ。
「........逆にこの学園の女生徒の戦闘力に僕は驚きを隠せないけどね。まぁ、そんな些細な事はどうでもいいんだ。」
心眼心に人生を無茶苦茶にされた我が愚姉とその旦那を利用して彼女を抑え込む。後の有象無象の雑魚どもは自分の手で片付ければいい。
「釘宮をくっつけたいんだろう?大丈夫、そっちはナンバー1が片付けてくれるからさ。」
生徒会と風紀委員の小競り合いではすまない程の大きな催し物を開かせて貰おう。
「学園に歴史を刻むと啖呵を切ったことを覚えているよ........ふふ、僕が、月見かぐやが手伝って上げよう。全部が全部、銀城友人が物語の主人公になるために。」