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選ばれなかったヒロインって人気が出るよね

「.........心眼先生。」


冷や汗を流し、下を俯く釘宮。その肩に手を置き、心眼は耳元で告げる。


「二度も言わせるな。席に戻れ、釘宮。」

「は、はい...........」


その瞳の奥に隠れる深淵に恐怖を身体の内側から感じてしまう。釘宮は自分の腕を抑え、先程まで座っていた椅子へと腰を下ろした。


「し、心眼先生、今日は、時子達は何をすればいいんでしょうか、」


時崎時子も机の上から飛び退き、怯えた様子で心眼へと尋ねる。


「時崎、発言許可を与えた覚えはないが?」


時崎は直ぐに口を閉じ、心眼の邪魔にならないように教室の端へと即座に移動した。


「君達が風紀委員になって一週間。始めの二日間は私によく突っ掛かって来た。まさに狂犬だ。だが、狂犬と言えど犬には変わりはない。仕付けてしまえばただの愛玩犬に過ぎない。従順に調教を施しても良かった。だが、私も指導者の立場だ。生徒を壊したくはない。」


不気味に頬を上げながら、教員席へと腰を下ろす。


「_____________牙は敢えて残して置いた。その意味をよく理解し、学園の為に力を使ってくれたまえ。」


心眼心には逆らえない。弱みも心も全てを最初の二日で掌握された。最初に釘宮が心眼を陥れようと動いた。だが、それを逆手に取られ傀儡に近い上下関係を築かれてしまった。


(精神が壊れる寸前までに絶望の底に落とされた........この人には逆らえない。)


だけどまだ、途切れてはいない。上記の通り、心眼心は手心を与えたのだ。牙を完全に抜かないように。そして次に時崎時子が心眼心を暴力を使い、支配しようとした。


(見事に返り討ち.......それも正面から挑んで完全に負けた。)


合気道のような武術で無力化され、馬乗りされる。


『顔に傷があったら他者に露見してしまうな。安心していい。その綺麗な顔形には手一本触れないと約束しよう。』


と嗤いながらサンドバックのように身体を意識を失うまで殴られ続けたのだ。


(今でもあの痛みを思い出す........)


意識が覚めたときには保健室のベッドで寝ていた。そして視線を横に向けた時、心眼心がその深淵のような瞳で見下ろす。純粋な恐怖ではなく、強者に押さえ付けられるような、この人には絶対に勝てないと身体の芯から感じさせるようなそんな怖さを身を持って知った。


「この学園はエゴに溢れている。カースト問題。苛めに近い上下関係。部活動間の衝突。それを沈静化させる役目を受け持つことが君達の役目だ。銀城友人の追っかけをすることが風紀委員の仕事では決してない。それに君達は元々面林最照の取り巻きをしていただろう。今さら、副会長となった銀城へ取り入ろうとするな、ダサい。」


二人は何も言えずに歯を喰い縛る。


「私の視下で銀城との男女間の問題を起こしてくれるな。すでに銀城からは相談を受けている。完全に嫌われたくなければ、風紀委員として立派に仕事をこなして見せろ。その褒美に生徒会との合同会議を開いてやる。」


二人はその希望にすがり付くように『はい』と返事を返す。心眼は口元へと手を置き、二人へと今一度視線を向けた。



(安心していいよ、友人。私がお前を必ず守ってやる_______________)



もう二度とあの時の過ちは犯さない。何も出来なかったなどと言い訳はもうしない。全力で勝ちを拾いに行く。


(__________知っているか?)


選ばれなかった者の痛みを知らないヒロイン達になど敗けはしない。敗北の味はもう味わい尽くした。


(負けたヒロインは人気投票では他のヒロイン達を出し抜く事が多々ある。)


これはお前たちハーレムヒロインズの話じゃない。これは選ばれなかったヒロインが幸せを手にする後日談だ。

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