芸術に重課金した皇帝から学べる事
1枚目と2枚目の挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
そして3枚目の画像は、みこと様より頂戴致しました。
子供の頃から翰林図画院に出入りして絵画を学んでいた私は、中華王朝二代女王として即位された姉上から画院の重役への就任を薦められたの。
「画家の育成や国宝の管理を行う画院ならば、白蘭の才能を存分に活かせると思うてな。」
「姉上…いいえ、愛新覚羅翠蘭女王陛下!有り難き幸せに存じます!」
その好意を喜んで御受けし、私は官僚として画院に舞い戻ったんだ。
この日も私は、画院の執務室で報告を聞いていたんだ。
「秋期特別展『徽宗の育んだ北宋芸術』において我が国が日本の堺県立近代美術館に貸与した美術品は、紛失も破損もなく無事に戻って参りました。」
「田青鈴、それは何よりです。」
部下に応じる私の脳裏に、こんな考えがふと過ぎったんだ。
徽宗は確かに優れた芸術家だが、その絢爛な芸術は人々に課した重税で成立していた。
それでは私はどうだろうか…
「青鈴、私が芸術に耽溺した事は中華王朝に如何なる影響を及ぼしたのでしょうか?」
「文化事業が活性化した事は大きいですね。それに良き理解者を得られた事を画家達は喜んでおります。」
急な質問にも関わらず、腹心の部下は淀みなく答えてくれた。
「そう…では、私の芸術推進で国や民に何か不利益は生じましたか?」
「殿下が斯様に仰るのは、特別展の徽宗が原因ですね。芸術を愛する王族という点では、殿下と徽宗には確かに共通点が御座いますね。」
この腹心の部下は全て御見通しだった。
「白蘭殿下、これを御覧下さい。」
袂から抜いた扇子を静かに広げる。
それだけの所作だが、まるで舞踊のように優美だった。
「それは、私が差し上げた…」
「はい、就任時に賜りました御謹製の扇子で御座います。扇面から中骨に至るまで、殿下の美意識と真心が反映された逸品。この扇子が物語るように、殿下は芸術で万民を喜ばせようと志されています。尚且つ、謙虚に自省される奥床しさも御持ちなのです。」
沢山の人々に幸福を齎す芸術を、私は理想としてきた。
その芸術が国や民を苦しめるなど、あってはならない。
「万民を対象とする芸術観と、他者への気配りを怠らぬ謙虚さ。それらが御座います限り、殿下が徽宗の二の舞いを演じられる事は万一にも御座いません。」
「芸術も文化事業も独り善がりは禁物なのですね。肝に銘じますよ、青鈴。」
この部下を始めとする人々の信頼と期待に応えるべく、キチンと己を律しないと。
税金で芸術に重課金した徽宗みたいな暗君にだけは、絶対なりたくないからね。