覚書/欧州王侯貴族の称号と敬称について
考証ばかりやっていて、小説をかいていない私。さてここに挙げるのは、ヨーロッパを舞台にした歴史ものやファンタジーを書いていていたときの留意点、王侯貴族に関してである。中国や日本の称号・敬称については、また別のルールがあるのだが、混乱を回避するため、ここでは述べないことにする。
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Ⅰ 解説
〇皇帝(女帝)……帝国君主。敬称は陛下。妻は皇后。先代皇帝は前皇帝。敬称は陛下。先代皇后は皇太后。敬称はそれぞれ陛下・様。皇帝の嫡出子は皇太子・皇子、皇太女・皇女。敬称はそれぞれ殿下・様。王爵以下の爵位をもつことがある。一夫一婦制の建前、側室は名目上、臣下に嫁がせる。側室との間にできた子供は貴族に取り立てられることもあるが、基本、皇位継承権がない。
〇国王(女王)……王国の君主。帝国の藩国である場合もある。敬称は陛下。妻は王妃。敬称は陛下。先代国王は前国王。先代王妃は前王妃。嫡出の子息令嬢は王太子・王子。公爵以下の爵位をもつ場合がある。側室・庶子は皇帝の場合と同じ。
〇大公……帝国の藩国としての大公国、独立国家の君主の場合もある。上級貴族。敬称は殿下。妻は大公妃。先代大公は前大公。先代大公妃は前大公妃。敬称は殿下・様。大公の息子は伯爵以下の爵位をもつ場合がある。大公の娘は公女・姫。敬称はレディー・様。皇帝・国王の嫡出子に多い。他は国王の場合と同じ。
〇(皇族・王族)公爵……基本的には帝国・王国の藩国としての公国、独立国家の公国君主の場合もある。上級貴族。大公と同義の場合もある。敬称は殿下・公・プリンス・様。妻は公爵夫人・プリンセス・様。嫡子(公世嗣)は子爵を名乗る場合がある。嫡子以外の嫡出子で爵位を得られない場合、勲爵士となる。敬称は卿・様。令嬢は公爵令嬢・公爵公女・レディー・様。他は国王の場合と同じ。
〇(臣籍)公爵……基本的には帝国・王国の藩国として公国君主である。上級貴族。敬称は閣下・公・様。妻は公爵夫人・様。他は(皇族・王族)公爵と同じ。
〇侯爵……基本的には帝国・王国の藩国としての侯国君主の場合もある。上級貴族。敬称は卿・閣下・様。妻は公爵夫人・レディー。他は公爵と同じ。
〇辺境伯……所領のある辺境で軍事的権限が強い。上級貴族。敬称は卿・閣下・様。妻は辺境伯夫人・レディー。1806年の神聖ローマ帝国解体で消滅。他は侯爵と同じ。
〇伯爵……中級貴族。敬称は卿・閣下・様。妻は伯爵夫人・レディー。嫡子の敬称は卿・様。令嬢の敬称は伯爵令嬢・伯爵公女・レディー・様。
〇子爵……下級貴族。卿・閣下・様。妻は子爵夫人・レディー・様。子息・令嬢は平民扱いで子爵令息・ミスター・様、子爵令嬢・ミス・様。
〇男爵……下級貴族。卿・閣下・様。妻は男爵夫人・レディー・様。子息・令嬢の扱いは子爵と同じ。
〇準男爵……貴族の血筋あるいは功臣で、世襲称号のある平民。準貴族と表現されることもある。敬称は、卿・様(閣下はつけない。ただし、閣僚・大使・将軍であればつける)。妻は準男爵夫人で、敬称はディム・様。準男爵夫人の夫には特に称号の変化はない。子息・令嬢の扱いは子爵と同じ。
〇勲爵士・騎士爵……貴族の血筋あるいは功臣。一代に限り称号を赦された平民。準貴族と表現されることもある。敬称は、卿・様(閣下はつけない。ただし、閣僚・大使・将軍であればつける)。敬称は卿・閣下・サー・様。妻は勲爵士夫人・レディー・様。また女性の勲爵士敬称はディム。子息・令嬢の扱いは子爵と同じ。
――余談――
〇東ドイツのユンカーは、爵位をもつ者と、ない者とがいる。爵位のない者は平民だが名士(郷紳・郷士)である。豪族と言い換えてもいいと思う。貴族の縁戚で大地主。官僚や高級士官を輩出する家系なので、「土地貴族」と呼ばれ、ひとくくりにされていた。第二次世界大戦で消滅した。
ノート20250809
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Ⅱ 英国の授爵者総数と一代貴族について
お恥ずかしいことに、一代貴族と勲爵士が同じだと思い込んでいたのだが、違っていた。一代貴族は一代限定の男爵のことだった。さらに、まずは、現在の英国での貴族授爵者の総数の件を挙げたい。
検索「イギリスの授爵者数」
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――AI による概要――
イギリスの授爵者数について、世襲貴族の家数は2021年11月時点で809家です。内訳は、公爵家30家(うち王族公爵が6家)、侯爵家34家、伯爵家191家、子爵家111家、男爵家443家です。一代貴族は、1958年の一代貴族法で定められ、全て男爵位で終身貴族院議員となります。
イギリスの貴族制度
イギリスの貴族制度は、世襲貴族と一代貴族に分けられます。
世襲貴族:爵位が子孫に受け継がれる貴族です。
一代貴族:爵位が一代限りで与えられる貴族です。
爵位の種類
イギリスの貴族には、以下の爵位があります:
公爵 (Duke)
侯爵 (Marquess)
伯爵 (Earl)
子爵 (Viscount)
男爵 (Baron)
貴族院
貴族院(House of Lords)は、世襲貴族、一代貴族、聖職貴族(イングランド国教会の主教)で構成されます。現在の貴族院議員数は約805名です。
一代貴族法
一代貴族制度は、1958年の一代貴族法によって制定されました。この法律により、一代貴族は男爵位を与えられ、終身で貴族院議員となります。
その他
聖職貴族は、イングランド国教会の主教で、貴族院議員となります。
イギリスの議会は、貴族院と庶民院で構成されます。
貴族院は、首相の助言に基づいて君主が任命する一代貴族と、世襲貴族、聖職貴族で構成されます。
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Ⅲ 「イエス・サー」の「サー」という敬称が気になる
よく米国映画・ドラマで、部下の軍人が上官に、「イエス・サー」と言って敬礼する場面をみる。「サー」はもともと、英国勲爵士につける敬称だが、目上の人や、米国の一部地域では教師を呼ぶときにも使うらしい。
検索「『イエス・サー』の『サー』を閣下と訳すのは」
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――AI による概要――
「サー」を「閣下」と訳すのは、必ずしも適切ではありません。「サー」は英語の敬称で、男性に対して使われますが、文脈によって意味が異なります。
「サー」の主な意味と訳語の例:
目上の男性、お客様、先生などに対する敬称:
この場合、「サー」は「あなた」や「〇〇さん」のように訳すのが適切です。例えば、「Yes, sir」は「はい、〇〇さん」や「はい、お客様」のように訳せます。
ナイト(騎士)に与えられる称号:
イギリスの叙勲制度における称号で、日本語では「卿」や「勲爵士」と訳されることがあります。
教師に対する敬称:
アメリカ南部などでは、教師を「サー」と呼ぶことがあります。この場合も「先生」と訳すのが適切です。
「閣下」:
「サー」は「閣下」と訳されることもありますが、これは「サー」が持つ意味の一部に過ぎません。閣下は、より高位の人物、例えば総督や大臣などに対して使われる敬称です。そのため、文脈によっては「閣下」と訳すのが適切でない場合もあります。
「サー」を「閣下」と訳すのは、相手が非常に高位の人物である場合に限定されるべきです。その他の場合は、「あなた」、「〇〇さん」、「先生」、「卿」など、より適切な訳語を選ぶ必要があります。
ノート20250807
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Ⅳ 『カリオストロの城』での誤用
『カリオストロの城』で、「影」のジョドーがカリオストロ伯爵を殿下と呼んでいた。→検索「伯爵を殿下と呼ぶのは誤り」
AI による概要
はい、その通りです。伯爵を「殿下」と呼ぶのは誤りです。殿下は、皇太子や王族など、特定の高位の人物に用いられる敬称です。伯爵は華族の爵位の一つで、「閣下」や「卿」といった敬称で呼ばれます。
解説:
殿下 (でんか):
王族、皇族など、王室や皇室に属する人物に用いられる敬称です。例えば、皇太子殿下、王女殿下などと使われます。
伯爵 (はくしゃく):
華族の爵位の一つで、公爵、侯爵に次ぐ地位です。
閣下 (かっか):
伯爵を含む華族や、高位の官僚などに対して用いられる敬称です。
卿 (きょう):
伯爵を含む華族や、外国の爵位を持つ人物に対して用いられる敬称です。
具体例:
誤:伯爵殿下
正:伯爵閣下、または、伯爵卿
ノート20250809




