読書/チェスタートン『共産主義者の犯罪』ブラウン神父シリーズ
Ⅰ 総説
「トリックの宝庫」の二つ名があるG・K・チェスタトンの推理小説「ブラウン神父」シリーズに登場する探偵役のブラウン神父は、英国サセックス教区のカトリック司祭だ。初登場「青い十字架」(1910年)。「青い十字架」は『ブラウン神父の童心』(中村保男翻訳・東京創元社2016年)に所収されている。代表的な古典推理の一つである。今回は村崎敏郎訳『ブラウン神父の醜聞』所収の『共産主義者の犯罪』について述べたい。
Ⅱ 登場人物
被害者:米国富豪ギデオン・ヘイク氏と、ドイツ富豪フォン・チンメルン男爵
容疑者:クインクン教授:偏屈な歴史家で共産主義者
NPC(証言者):学長、経理部長ベイカー、化学教授ウォダム
真犯人:経理部長ベイカー
探偵役:ブラウン神父
Ⅲ 舞台
英国マンデヴィル・カレッジ
Ⅳ 経過
ロシア革命が起きてあまり年数が経っていないころ、英国マンデヴィル・カレッジだ。
米国富豪ギデオン・ヘイク氏と、ドイツ富豪フォン・チンメルン男爵が寄付を申し出に訪れていた。この二人には、ブラウン神父が随行していた。
学長は、「ディナーを用意したから、教職員用の食堂で、教授ら教職員幹部と一緒にいかがでしょうか?」と申し出たのだが、富豪たちと神父は、「学園内でまだ見ていない箇所があるから我々は、そこを視察して来ます」と言って中座した。
食堂には学長と、経理部長ベイカー、化学教授ウォダムが残っていた。三人は、共産主義の賛否を問う話題で盛り上がっていた。
するとそこへ、偏屈で嫌われ者の歴史家にして共産主義者のクインクン教授が遅れてやって来たため、先にいた三人は凍り付く。クインクン教授は激高した。さんざん毒づいてそれでも腹の虫が治まらない彼は、資本主義の体現者である富豪二人をとっちめてやるとばかりに、食堂を退室した。
直後、学長が、食堂の窓越しから、富豪二人が中庭に来てベンチに腰を降ろしたのを見かけたので、そこへ向かう。
すると、二人に遅れて中庭へやって来たブラウン神父が、
「二人の富豪はベンチに腰かけたまま死んでいる。――二人はつい先刻まで皆と会話していた。だというのに、二人の遺体はもう死後硬直化しているではないか! ――どうやら新種の毒物(※恐らくサリン)によって殺害されたのだろう」
二人が殺害される直前、クインクン教授が接触している。
ほどなく通報を受けた警察が学園にやって来て、資本主義者の富豪二人を敵視する共産主義者クインクン教授を逮捕した。
ブラウン神父は現場に落ちていたマッチに注目する。
そのマッチに火を点けると猛毒のガスが発生したらしい。
すると来るべき(第二次)世界大戦に備えて新型毒ガス兵器を開発していた、化学者ウォダム教授が事件に関与していることが察せられた。
だがウォッダム教授が、富豪二人を殺す動機はない。
この化学者の教授室には頻繁に出入りする人物がいた。経理部長ベイカーだ。
神父は次のように推理した。
富豪二人が寄付をする際、学園の会計資料に目を通していた際、経理部長の不正経理に気づいた。それが暴露されようとしたので経理部長が、化学者の教授室から新型毒薬を盗み出し、食堂にいた富豪二人が手に取りやすい場所に毒薬マッチの箱を置く。そして富豪たちが中庭のベンチで一服し、毒殺に成功したというわけだ。
Ⅵ 所見
キーワード:共産主義
アイテム:マッチ
作者:G・K・チェスタトンは共産主義を警戒していたとされる。戦間期のロシア革命余波が漂う世相の中で本作は執筆された。
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